第61話 ケルビーノの女装、さらなる「萌え」

文字数 1,716文字

ケルビーノの美しさに大満足のスザンナと伯爵夫人。
何て道化なのかしら

(でもほんと、かわいいわ)

これにはあたくしでさえ、妬けてしまいますわ。

(ケルビーノの顎にくいっと手をかけて)

ねえ小蛇さん! こんなに綺麗だなんて、ちょっとは遠慮しようと思わないの?

……
お子様のお遊びは終わりよ。

そのお袖を、肘のところまで上げて。この服がもっと彼に合うようにね

スザンナが言われた通りに袖まくりをすると、ケルビーノの腕が露わになります。

そこには、伯爵夫人にも見覚えのあるリボンが……

それは何のおリボン?
彼があたしから巻き上げたリボンですわ
ケルビーノの腕には擦り傷があり、血が流れています。

彼はそれをリボンの言い訳にします。

さっき滑って転んで……

それで僕、リボンで縛りました

どれ、お見せなさい。

大したことないわ。


でもまあ、あたしより白い腕をして、女の子みたい

いつまでおふざけをしているの!

早く、絆創膏を取ってきなさい。わたくしの宝石箱の上にあるから

伯爵夫人もお気に入りのリボンをなくして残念だったのです。まさかケルビーノが持っていたとは!


スザンナが絆創膏を取ってくると、伯爵夫人は傷の手当をしてやります。スザンナはマントを片付けるため、また少年に与える新しいリボンを取りに行くため、部屋を辞します。


こんなに良くしてもらっているのに、ケルビーノは古いリボンを取り上げられて残念そう。

そっちのリボンの方が、早く治るのにぃ~
なぜです? 絆創膏の方が良いでしょう
そのリボンは、あるお方の髪を縛ったり、お肌に触れたりした物ですから
あら、そんな効能があったとは知らなかったわ
ご冗談を言っている間に、僕は出征するんですよ
……そうよね。可哀想に……
可哀想な僕……
ああ、そんなに泣いて……
涙、涙でぎゅっと抱き合う二人。

でもケルビーノは、ちょっとにやけているかも……?

あらら。すっかり仲良しの二人ですね~
萌えシーンだからって、ずいぶん引っ張るな
ボーマルシェの原作(3作目)では後日談が続くんだけど、実はこの伯爵夫人とケルビーノの間にできた不義の子が出てきて……

このシーンはその伏線ですね

げげっ

二人はそんな関係になるの⁉

このオペラでは、そこまでの展開は出てこないので、安心して(笑)。

ここでは伯爵夫人に可愛がられている美少年、という認識で良いのではないでしょうか

しかしモーツァルトの時代にも、こういうのに萌える人っていたんだねえ
今の小説では、特定の性志向の人にしか受けないジャンルがあるのが当たり前。モーツァルトが大衆向けに、こういう表現をしているのを意外に思う人もいるかもしれません。

この時代は性に対して大らかだっただけに、みんなが「他者」に寛容だったのかもしれないね

伯爵夫人がケルビーノの涙を拭いてあげていると、扉を叩く音が聞こえます。

はっと顔を上げる二人。

……誰がノックするのかしら?
そこで聞こえたのは、ほかならぬあの恐ろしい人の声なのです!
なぜ鍵がかかっておる(怒)!
真っ青になって立ち上がる伯爵夫人。
あの人だわ! ああ、神様!

どうしよう、こんな姿で。

手紙はもう、あの人の手に渡ったのかしら? あの人、大暴れするわ

(いっそう激しい勢いで扉を叩く)

何をぐずぐずしている?

(取り乱す)

あ、あの……わたくし一人でして……いえ……一人ですのよ!

では、誰に話しておる?
あなたですわ。決まっているでしょう?
あんなことがあった後だし……

伯爵の怒りを思うと、これしか方法はない!

女装したまま、伯爵夫人の衣裳部屋に駆け込むケルビーノ。

伯爵夫人はその衣裳部屋に鍵をかけ、天を仰いで祈ります。

神よ、わたくしをお守り下さい!
そして、伯爵夫人は部屋の扉を開け、伯爵を中へ入れるのです。
すごい慌てっぷりだな~。

ケルビーノはバルバリーナとの仲を疑われて、次はスザンナとの仲を疑われて、今度は伯爵夫人と……?

だけど伯爵夫人の怯えようが、ただ事じゃねえな……

こりゃ相当なDV夫なんじゃねえの?

その可能性もあるよね。みんなが伯爵のことを恐れていて、何も言えない状況なのかも
だからこそ聴衆も、伯爵に一矢報いてやりたいという気持ちになるんじゃないかな。

次回、またまたケルビーノの存在を必死に隠す展開になります!

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