第48話 「もし踊りをなさりたければ」

文字数 1,377文字

第1幕 第2景
一人部屋に残されたフィガロ。

根が正直者なので、自分たちの結婚は伯爵に祝福されているとばかり思っていました。

それだけにスザンナの話は衝撃的。これはすっかり騙されていました!


フィガロはもう、腸が煮えくり返る思いです。

伯爵様。

見えてきましたよ、あなたのたくらみが……

伯爵は大使に任命され、これからロンドンに赴任する予定だそうです。
僕は大使の使い走り。そしてスザンナは……


く~!!


……秘密の大使夫人ってわけか。

そんなことはさせませんよ(怒)!

ここで歌われるのが、カヴァティーナ「伯爵様、踊りをなさりたければ」。

三つ出てくるフィガロの歌の一つで、皮肉たっぷりに歌われます。

カヴァティーナとは……

(『椿姫』にも少し出てきましたが)アリアほど装飾的でなく、単純な形をした独唱曲のこと

伯爵様。踊りをなさりたければ、

ギターを弾いて差し上げましょう(ニヤリ)

私の学校にお入りになりたかったら

カプリオーラをお教えしましょう(ニヤリ、ニヤリ)

カプリオーラとは、古典バレエで跳ね上がって足を打ち付ける動作を意味するそうです。

「宙がえり」と訳されることもあります。「破産」の暗喩でもあり、権威をひっくり返してやるぞというフィガロの反骨心がここに表れています。

4分の3拍子の曲が、まさにバレエの雰囲気!

例えばフランスのルイ14世もバレエ好きで知られますが、「踊る王」は庶民の尊敬の対象になるどころか、密かに笑われている存在であることにご注意を……

僕は知っているぞ! 知ってる、知ってるぞ!


いやでも、静かに。

待て、待て、待て。

知らんぷりをしていた方がいい。秘密をすっかり見破るには

葛藤とともに、フィガロは伯爵をぎゃふんと言わせてやろうとほくそ笑んでいます。

スザンナに脳みそを使えと言われたのが効いているようです。

敵の手をかわし、うまいことやって、突きを入れて、

どんな企みでもひっくり返してみせるぞ(ニヤリ、ニヤリ、ニヤリ!)

東京二期会・宮本亜門さん演出による『フィガロの結婚』。

何度も上演されているようですが、これは初演時の映像です。

主人公フィガロを演じる稲垣俊也さん、長身がかっこいいですね!

「もし踊りをなさりたければ」を歌いながら、密かに伯爵への宣戦布告をしています。

なるほど。真面目なフィガロは伯爵にしてやられた形だけど、やられっぱなしじゃなさそうだね。
初夜権なんて、本当にあったの?
モーツァルトの時代には、もうなかったんだって。

でもそれは表向きの話。伝承としてはもちろん語られていただろうし、身分には厳然たる差があった時代、こういう形のセクハラにはかなりの現実感があったはず

セクハラって今もあるわけだよね。

やる人は力関係を利用して、他人からは見えない所でやるわけだし。

許せん!

まさにその悔しさを、モーツァルトは曲に込めたんじゃないかな。

悩みは深刻でも、音楽が暗くならないところがポイントだね

企みっていう言葉が、歌の中に何度も出てきたな
そうなの。誰かが他の誰かの企みを暴こうとして、一計を案じる。

だけどその目論見が失敗して、また新たな企みが……

……みたいな展開になってくるのが、このオペラなんだ

ちょっと複雑だねえ~。

ついて行けるかな?

大丈夫。企みといっても、下世話な内容ばっかりで~す!
参考:水林章『モーツァルト《フィガロの結婚》読解 暗闇のなかの共和国』みすず書房
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