第65話 すまない、許してくれ

文字数 1,401文字

第2幕 第8景
伯爵がどこまで本気なのか分かりませんが……とにかく離婚まで言い渡されてしまった伯爵夫人。

ショックで今にも倒れそうです。

スザンナ。わたくしはもう死にそうよ。

息ができないわ

もっと楽しく、堂々となさって下さい!

(ケルビーノが飛び下りた窓を指し示し、何が起こったのか分からせる)

ほら、彼はもう大丈夫です

伯爵は当惑しながら衣裳部屋から出てきます。
何たる思い違いをしたことか!

とても信じがたいが、もし私の間違いでそなたを傷つけたのなら、その点は謝る。

だがこんな遊びをするのは、酷というものぞ

(動揺を隠すためにハンカチで口元を隠す)

あなたの先ほどの狂乱ぶり、ひどい言葉を思えば、同情には値しません

妻を怒らせたことに気づき、慌ててひざまずく伯爵。
私はそなたを愛している
今さら何を
誓うよ、そなたに
嘘をおっしゃい(怒)!


わたくしは悪行の女。不実の女。

いつも貴方をあざむいております

すっかり力関係が入れ替わってしまった伯爵と夫人。

窮した伯爵は、スザンナにすがってきます

スザンナ、彼女の怒りを鎮めるのを手伝ってくれ
こうして罰せられるんですよ。

人を疑うようなお方は

よく分かりましたわ。

誠実に貴方を愛する者へのご褒美は、これほど乱暴な報いなのね?

すまなかった、ロジーナ……

許してくれ……

ひどいお方!

わたくしはもう、以前のような女ではありません。

貴方に捨てられた女です。妻を絶望させて、それを見て喜ぶような夫を持った、哀れな女なのです

私は十分に懲りている。

許してくれてもいいだろう?

あれだけひどいことを言って、今さら寛大な心で許せと?
し……しかし。

そなたとて、小姓が閉じ込められていると申したではないか

貴方を試すためにそう言ったんです
震えてもいたではないか
貴方をだますためにそうしたんです
じゃあ聞くが、あの無作法な手紙は何だ
すかさず、スザンナが夫人をかばいます。
手紙はフィガロが書いたもので、バジリオを通じてお殿様の元へと届けられたんです
不忠者たちめ!

ぜんぶ悪戯だったのか。


じゃあ、私はもう許されても良いだろう

スザンナと夫人が、声を揃えて言い返します。
貴方に許される資格はございません
他の者に許しを与えぬお人ですからね!
もう、分かったよ……。


互いに和平だ。ロジーナはそこまで頑固ではなかろう? 私に優しくしてくれるはずだ

伯爵夫人はまさに優しい女性。

ひどい夫でも、必死に許しを乞うている姿を見れば、心がほだされてしまいます。

ああ、スザンナ。わたくしは、なびきやすいわね。

女の怒りなんて、こんなものかしら

男の人との関係って、どっちに回してみても、同じ所に行き着くものですわ
この私を見ていてくれたまえ。

きっと誠実な夫になるから

またすぐに勝手なことを言って
私が間違っていた。

悔いておる

(ロジーナの手を取り、何度もキス)

とりあえずは仲直り。伯爵家に平和が訪れました!

喧嘩の後は、もっと仲良くなれます。まさに雨降って地固まる、ですね!

他人に許しを与えぬ者は、自分も許しを得られない。

世界中にある戒めですね。それだけ自分に甘く、他人には厳しい人が多いのでしょう。


このオペラにも、繰り返し出てくるテーマです

しかし伯爵の反省とやらは、長続きするのか?
翌日にはケロっとして元通り、になってそうだよねえ?
そうだよね。伯爵はしょうもない人だけど、憎めないんだなあ、これが(笑)。

長い長い、第2幕のフィナーレ曲。次回はまたフィガロが登場します!

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