第3話 気になるオンエア部
文字数 2,291文字
真雪は、学食でかすかに聴こえてくる放送をしばらく聴きつづけていた。
♪~♪~。
おしゃれな音楽が流れてるんだ。
優雅に音楽を聴きながら食事をする。
こういうの、なんかいいなあ。
……。
「あれ、定食のフライがない!?」
「うむ。なかなかの美味であった」
「食べたな!? じゃあかわりに、そのうまそうな天ぷらをもらう」
「それはできませんな。フォッフォッフォッ」
「あっ、てめえ!」
……周りが静かだったらもっといいんだけど。
せっかくの音楽も注意して耳を傾けておかないと、人の声でかき消されてしまう。
真雪は明夏を待っている間、ずっと集中して放送に耳を傾けていた。
しばらくすると、明夏が二人分の食事を持ってやってきた。
「おまたせー。真雪が言ってたカレーうどんを持って来ましたよ~」
「私、普通のカレーライスがよかったんだけど……」
「冗談冗談。ちゃんと普通のカレーライスを持ってきたから、そんな悲しそうな顔しないでよ。はい」
明夏は笑いながら、真雪にカレーライスを渡した。
真雪は初めて見る学食のカレーをじっと見つめる。
「へえ、ちょっと辛そう」
家で食べるカレーよりも色が黒っぽい感じ。
真雪がカレーを見てる間に、明夏は空いているとなりの椅子に座った。
「ねえ真雪。さっき目を瞑ってたけど、どうしたの? 漫画みたいに目が横線になってたよ? 」
「うん、ちょっとね~」
「ちょっとって、何?」
「ないしょ」
真雪はカレーをすくい上げて口の中に入れる。
辛かったのだろうか、下を向いて目を細めて机をばんばんたたいている。
「む~」
明夏は真雪のそっけない態度にほおをふくらませた。
そして、真雪の背後に手をやって、わきの下をくすぐる。
「こちょこちょ」
「ぶふっ!」
真雪は食べていたカレーを少しテーブルに噴き出した。
真雪がきょろきょろと周囲を確認すると、周りにいる数人に口から噴き出すところを見られていたようだった。
真雪は顔を真っ赤にして、あわててふきんで汚れたテーブルを拭く。
「もう、食べてる時にそれやらないでよ。私、今日が学食デビューの日なんだよ。いきなり恥かいちゃったじゃない!」
「だって、さっき何してたか教えてくれないんだもん」
「放送で流れてる音楽を聴いてただけだよ。小さな音だから、集中してないと聴こえてこないの」
「学食に放送とかあったっけ? 私、けっこう来てるけど、そんなの聴いたことないよ?」
そう言って明夏は、天ぷらうどんに七味を少しだけかけた。
相変わらず周りはにぎやかで、放送はよく聞き取れない。
「いただきまーす。ずずっ――。うん、おいしい!」
「…………」
「………………あの、真雪さん? 食べないの?」
「しっ、静かにしてよ。放送が聴こえなくなるから」
「さいですか~」
しばらくすると、真雪が聴いていた放送は終わってしまった。
明夏は放送には興味なく、ずっとうどんを食べ続けたが、真雪はしばらくの間、放送の余韻に浸っていた。
「真雪、そんなに学食の放送に興味あるの?」
「うん。なんかおしゃれだなぁって。放送部の人って、昼休みにこんなこともやってたんだね。私、普通に校内放送だけしてるのかと思ってたよ」
がたっ!
真雪がそう言うと、目の前のに座っていた人が勢いよく席を立った。
なぜか真雪のほうをすごい形相でにらみつけている。
「この放送が放送部? 冗談じゃないわ。あれは放送部じゃなくてオンエア部! 一緒にしないでほしいわね、ぷんぷん」
一方的に言いたいことを言って、食べ終えたトレイを持って返却カウンターのほうへ行ってしまった。
いきなりのことだったので、真雪と明夏はしばらくぽかんとしていた。
「……誰? 真雪の知り合い?」
「知らない。よくわからないけど放送部の人かな? どこかで見たことがある人なんだけど」
ちなみに、女子っぽい喋り方をしていたが、男子生徒だった。
二人は気づいてなかったが、じつはクラスメイトだったりする。
「そっかぁ。オンエア部っていう部がこの放送をしてたんだ」
真雪はにやにやしながら言った。
どこか上の空、ほわわんとした顔でカレーを食べている。
「真雪、まさか」
明夏がお箸を置いた。
「オンエア部に行ってみたいな~、なんて思ってないでしょうね」
真雪がぶふぉっ! と噴き出した。(2回目)
その後、さっきより高速スピードで、ふきんでテーブルを拭く。
「どうしてわかったの?」
「そりゃあ、真雪とは小さい頃から一緒にいるし。考えそうなことくらい見てればすぐわかるよ」
「そ、そうなんだ」
思ってることを先に言われて、真雪はちょっと恥ずかしくなった。
学食を食べ終えた後、二人はトレイを返して教室に戻ろうとしていた。
「この学食、すごい人気だよね。味もすっごくおいしかった! カレーは少し辛かったけど」
「だからおいしいって言ったでしょ。私はたまに学食で食べてる……って、真雪?」
真雪が校舎への道をそれて、学食の横にあった通路を入ろうとしたところ、明夏が止めた。
「教室はこっちのほう。そっちは赤マスだらけだから、お金がマイナスになるよ?」
「……明夏ちゃん、たまによくわからないことを話すよね」
戻ろうとした真雪は、通路の両面にあるいくつかのドアを見つけた。
そのドアの一つには第二放送室と書かれている。
そして、「オンエア部」と書かれた張り紙がしてあった。
オンエア部って、さっきの放送をしてた部活だよね。
「そっか、ここから放送してたんだ」
中を覗いてみたいと思ったが、人がいるかもしれないからやめておいた。
オンエア部に興味を持った真雪は、部室の場所を覚えておこうと思った。
♪~♪~。
おしゃれな音楽が流れてるんだ。
優雅に音楽を聴きながら食事をする。
こういうの、なんかいいなあ。
……。
「あれ、定食のフライがない!?」
「うむ。なかなかの美味であった」
「食べたな!? じゃあかわりに、そのうまそうな天ぷらをもらう」
「それはできませんな。フォッフォッフォッ」
「あっ、てめえ!」
……周りが静かだったらもっといいんだけど。
せっかくの音楽も注意して耳を傾けておかないと、人の声でかき消されてしまう。
真雪は明夏を待っている間、ずっと集中して放送に耳を傾けていた。
しばらくすると、明夏が二人分の食事を持ってやってきた。
「おまたせー。真雪が言ってたカレーうどんを持って来ましたよ~」
「私、普通のカレーライスがよかったんだけど……」
「冗談冗談。ちゃんと普通のカレーライスを持ってきたから、そんな悲しそうな顔しないでよ。はい」
明夏は笑いながら、真雪にカレーライスを渡した。
真雪は初めて見る学食のカレーをじっと見つめる。
「へえ、ちょっと辛そう」
家で食べるカレーよりも色が黒っぽい感じ。
真雪がカレーを見てる間に、明夏は空いているとなりの椅子に座った。
「ねえ真雪。さっき目を瞑ってたけど、どうしたの? 漫画みたいに目が横線になってたよ? 」
「うん、ちょっとね~」
「ちょっとって、何?」
「ないしょ」
真雪はカレーをすくい上げて口の中に入れる。
辛かったのだろうか、下を向いて目を細めて机をばんばんたたいている。
「む~」
明夏は真雪のそっけない態度にほおをふくらませた。
そして、真雪の背後に手をやって、わきの下をくすぐる。
「こちょこちょ」
「ぶふっ!」
真雪は食べていたカレーを少しテーブルに噴き出した。
真雪がきょろきょろと周囲を確認すると、周りにいる数人に口から噴き出すところを見られていたようだった。
真雪は顔を真っ赤にして、あわててふきんで汚れたテーブルを拭く。
「もう、食べてる時にそれやらないでよ。私、今日が学食デビューの日なんだよ。いきなり恥かいちゃったじゃない!」
「だって、さっき何してたか教えてくれないんだもん」
「放送で流れてる音楽を聴いてただけだよ。小さな音だから、集中してないと聴こえてこないの」
「学食に放送とかあったっけ? 私、けっこう来てるけど、そんなの聴いたことないよ?」
そう言って明夏は、天ぷらうどんに七味を少しだけかけた。
相変わらず周りはにぎやかで、放送はよく聞き取れない。
「いただきまーす。ずずっ――。うん、おいしい!」
「…………」
「………………あの、真雪さん? 食べないの?」
「しっ、静かにしてよ。放送が聴こえなくなるから」
「さいですか~」
しばらくすると、真雪が聴いていた放送は終わってしまった。
明夏は放送には興味なく、ずっとうどんを食べ続けたが、真雪はしばらくの間、放送の余韻に浸っていた。
「真雪、そんなに学食の放送に興味あるの?」
「うん。なんかおしゃれだなぁって。放送部の人って、昼休みにこんなこともやってたんだね。私、普通に校内放送だけしてるのかと思ってたよ」
がたっ!
真雪がそう言うと、目の前のに座っていた人が勢いよく席を立った。
なぜか真雪のほうをすごい形相でにらみつけている。
「この放送が放送部? 冗談じゃないわ。あれは放送部じゃなくてオンエア部! 一緒にしないでほしいわね、ぷんぷん」
一方的に言いたいことを言って、食べ終えたトレイを持って返却カウンターのほうへ行ってしまった。
いきなりのことだったので、真雪と明夏はしばらくぽかんとしていた。
「……誰? 真雪の知り合い?」
「知らない。よくわからないけど放送部の人かな? どこかで見たことがある人なんだけど」
ちなみに、女子っぽい喋り方をしていたが、男子生徒だった。
二人は気づいてなかったが、じつはクラスメイトだったりする。
「そっかぁ。オンエア部っていう部がこの放送をしてたんだ」
真雪はにやにやしながら言った。
どこか上の空、ほわわんとした顔でカレーを食べている。
「真雪、まさか」
明夏がお箸を置いた。
「オンエア部に行ってみたいな~、なんて思ってないでしょうね」
真雪がぶふぉっ! と噴き出した。(2回目)
その後、さっきより高速スピードで、ふきんでテーブルを拭く。
「どうしてわかったの?」
「そりゃあ、真雪とは小さい頃から一緒にいるし。考えそうなことくらい見てればすぐわかるよ」
「そ、そうなんだ」
思ってることを先に言われて、真雪はちょっと恥ずかしくなった。
学食を食べ終えた後、二人はトレイを返して教室に戻ろうとしていた。
「この学食、すごい人気だよね。味もすっごくおいしかった! カレーは少し辛かったけど」
「だからおいしいって言ったでしょ。私はたまに学食で食べてる……って、真雪?」
真雪が校舎への道をそれて、学食の横にあった通路を入ろうとしたところ、明夏が止めた。
「教室はこっちのほう。そっちは赤マスだらけだから、お金がマイナスになるよ?」
「……明夏ちゃん、たまによくわからないことを話すよね」
戻ろうとした真雪は、通路の両面にあるいくつかのドアを見つけた。
そのドアの一つには第二放送室と書かれている。
そして、「オンエア部」と書かれた張り紙がしてあった。
オンエア部って、さっきの放送をしてた部活だよね。
「そっか、ここから放送してたんだ」
中を覗いてみたいと思ったが、人がいるかもしれないからやめておいた。
オンエア部に興味を持った真雪は、部室の場所を覚えておこうと思った。