第77話 オンエア部のビデオテープ
文字数 3,353文字
家に帰った真雪は、まず最初に母の所へ行った。
「あら、おかえりなさい。今日はちょっと遅かったね」
「うん、ちょっと学校に残ってて。それよりもママ。昔、家にあったビデオ、どこにあるの?」
「ビデオ? もう使わないから捨てちゃったと思うけど」
「そ、そんなぁ……」
真雪はがくっと肩を落とす。
「ビデオ、必要だったの?」
「うん。見たいビデオテープがあるんだけど」
「……そうねえ。お隣さんの家には、まだビデオがあった気が」
「わざわざお隣まで借りに行くのはやだよ……」
「困ったわねえ」
母はしばらく考えたあと、
「……あ、もしかしたら和室の押し入れの中にまだあるかも。パパって物を捨てられない性格だから、ビデオも残してるかもしれないよ?」
「本当? ママ、ありがとう。私、探してみる!」
真雪は和室に移動して、押し入れのふすまを開けた。
「……さて、中はどうなってるのかな。……うわっ、いろんなものがある!」
そこには、真雪が小さい頃に使っていたフラフープや、ビニールプールなんかも残してある。
「あ、これ。懐かしいな~。よく水遊びをしたときに使ってた……っと、こんなこと思い出してる場合じゃなかった。ビデオはあるかな」
気を取り直して、真雪が押し入れの奥の方をあさっていると、以前使っていた電話やテレビ、ゲーム機なんかも置いてある。
でも、肝心のビデオはどこにも見当たらない。
「ないなぁ。やっぱり捨てちゃったのかな……」
真雪があきらめかけたとき、隅のほうに埋もれている段ボール箱があった。
段ボール箱には、録画再生ビデオの文字が書かれている。
「あっ、これだ!」
上に積まれている物をどかして、真雪は何とかその段ボール箱を取り出した。
中を開けてみると、
「わぁ、ビデオデッキだ。……よかった。残ってたんだ」
小さいころ、ほんの少しだけ記憶にあったビデオデッキ。
それがまだ残っていたので、真雪は素直に嬉しかった。
大切に段ボール箱を運んで、リビングのテレビへ向かった。
「これ、どうやってテレビにつなぐのかな……ビデオの中にあった、この黄色と白と赤のコードかな?」
テレビの裏をよく見て、色を合わせてコードを装着していく。
機械音痴な真雪だが、なんとかテレビに接続できた。
ビデオの電源プラグをコンセントにつなぐと、ちゃんと電源も入った。
あとはこれを……。
真雪は学校から持ってきていたビデオテープ取り出した。
テープを挿入口に押し込むと、あとは自動で中に入っていった。
そして、どきどきしながら再生ボタンを押す。
「……あれ? 映らない」
原因がわからなくてあたふたしていたが、しばらくして、テレビをビデオ入力に切り替えてないことがわかった。
「忘れてた……。DVDとかを見るときも、こうやって切り替えてたよね」
真雪はテレビのリモコンでビデオ入力に切り替えた。
ちょっとぼやけた印象があるが、映像がちゃんと映っていた。
そこには、見覚えのある風景が映っている。
あっ、これ……学校だ!
今の制服と同じ。昔から変わってないんだ。
まだ学食もある! って、当たり前だよね……。
昔の映像だもん。
どうやら、学校があった日の放課後の映像みたいだった。
最初はなんでもない学校風景が映し出されていたが、画面の下から、いきなり女子生徒がマイクを持って現れた。
「はい、毎度おなじみのオンエア部です! 今日は今からみんなで、先生にどっきりを仕掛けたいと思います」
その女子生徒を追うように、画面は学校の中へと移動していく。
そして、やってきた場所は職員室。
職員室の前で、さっきの女子生徒が再び話し始めた。
「じゃあさっそくやってみましょう。にひひひ」
職員室の扉を開けて、中に入っていく。
それから、女子生徒はたばこを吸っていた若い男の先生の所まで行った。
「先生、ちょっといいですか?」
「うん? どうした?」
先生はかっこつけるように、手先だけでたばこを灰皿に押しつけた。
それを見ていた真雪は、
「この先生……どこかで見たことある気がするけど……誰だったかな」
女子生徒は先生にひっつくように近づく。
そして、
びよよよ~ん。
持っていたリアルなカエルのおもちゃを先生のひたいにくっつける。
「……なんだ?」
先生がひたいからそれを取って、何なのかを確認する。
「うおぁぁぁぁぇええ!」
よくわからない悲鳴を上げて、先生はぶっ倒れてしまった。
それを見て、大笑いする女子生徒とカメラマンたち。
「きゃははは。大成功ー!」
「こら、なにをするかー!」
笑いながら逃げる生徒たちを、先生は怒って追いかけてきた。
その様子はテープにしばらく録画されていた。
「あっ、この先生って、いまの教頭先生だ! 若かったからよくわからなかったよ!」
教頭先生にもこんなときがあったんだと、素直に感動した。
場面は変わって、今度は部活動風景が映し出されている。
ここは、今日真雪が掃除した部室に使っている教室だろうか。
外は真っ暗になっているのにもかかわらず、夜遅くまで部活をやっていた。
いまは男女合わせて5人の生徒で、衣装を作っているところだった。
「これ、明日までに間に合いますか?」
「わからない! とにかくやるしかない!」
みんな急いでいる様子で、かなり修羅場みたいだ。
「はーい、これは明日のゲリラライブのための準備でーす。明日はいま作ってる衣装を着て、講堂でライブをやるのでーす」
「ちょっとそこ、暇なら手伝ってよ」
「はいはーい。……じゃあ、私もいってきまーす」
横の方からもう一人、画面に現れた。
さっきまで話していた人みたいだ。
カメラはそのまま、同じアングルで撮り続けられている。
「こんばんは。世界の果てからやってきた妖精一号です」
今度は違う生徒が、裏から声を入れているみたいだ。
「いまからこの空間に、どきどきなことをしてみようと思います」
どきどきなことってなんだろう。
見ている真雪も少しどきどきしてきた。
カチッ。
音と一緒に、教室の中が真っ暗になる。
「きゃー、なにがあったの?」
「停電か?」
「こわいー。だれか懐中電灯持ってない?」
映像は真っ暗になり、声だけが聞こえてくる。
そして、
カチッ。
誰かが電気をつけた。
すると、
パンッ! パンパン!
教室のあちこちから、一斉にクラッカーが鳴り始めた。
「お誕生日、おめでとうー!」
妖精一号さんの声が、教室内に響いた。
「そうか、誕生日だったのか」
「なんだ、びっくりした~」
「誰かは知らないけど、粋なことするなあ」
一気に教室内は盛り上がってきた。
「……で、誰の誕生日だ?」
近くにいた男子生徒が妖精一号さんに聞くと、
「わかりませーん。だはは」
「あ、やっぱりいたずらだったのかよ!」
「逃げた! ちょっと、待ちなさいよ!」
「おかげでいいビデオがとれました~!」
何の意味もない、ただのいたずら動画。
昔のオンエア部は、正直、真雪の想像を超えたことをやっている部活だった。
それでも、真雪も映像を見ながら笑顔になっていた。
それは、いつの時代になっても変わらない。
部員も、このビデオを見ている人も、みんなが楽しいと思えるような内容だった。
昔のオンエア部って、こんなことしてたんだ。
ばかみたいだけど、面白いなぁ。
明夏ちゃんも日菜ちゃんも、こういうのはすごく好きそう。
真雪はテープが終わるまで、昔のオンエア部の活動をずっと見ていた。
映像の中の世界は、すべて引き込まれてしまうような面白さがあった。
みんな笑顔で、すごく楽しそう。
私もなぜか、楽しい気分になってくる。
テープを見終わったとき、映画を見終わったあとのような感慨深いものがあった。
これが昔のオンエア部。
そして、オンエア部の大先輩たちが残してくれた、今の真雪へのメッセージなのかもしれない。
「オンエア部って地味な部活動だと思っていたけど、本当はすごく活気のある部活だったんだ」
ビデオテープを取り出して、傷が付かないように丁寧にケースに入れた。
それから両手で持って、その歴史のあるビデオテープを眺める。
私、もう一度オンエア部で活動してみたい。
今度は、もっと楽しい部活動になるようにしたい。
真雪は次第にそう思うようになっていた。
「あら、おかえりなさい。今日はちょっと遅かったね」
「うん、ちょっと学校に残ってて。それよりもママ。昔、家にあったビデオ、どこにあるの?」
「ビデオ? もう使わないから捨てちゃったと思うけど」
「そ、そんなぁ……」
真雪はがくっと肩を落とす。
「ビデオ、必要だったの?」
「うん。見たいビデオテープがあるんだけど」
「……そうねえ。お隣さんの家には、まだビデオがあった気が」
「わざわざお隣まで借りに行くのはやだよ……」
「困ったわねえ」
母はしばらく考えたあと、
「……あ、もしかしたら和室の押し入れの中にまだあるかも。パパって物を捨てられない性格だから、ビデオも残してるかもしれないよ?」
「本当? ママ、ありがとう。私、探してみる!」
真雪は和室に移動して、押し入れのふすまを開けた。
「……さて、中はどうなってるのかな。……うわっ、いろんなものがある!」
そこには、真雪が小さい頃に使っていたフラフープや、ビニールプールなんかも残してある。
「あ、これ。懐かしいな~。よく水遊びをしたときに使ってた……っと、こんなこと思い出してる場合じゃなかった。ビデオはあるかな」
気を取り直して、真雪が押し入れの奥の方をあさっていると、以前使っていた電話やテレビ、ゲーム機なんかも置いてある。
でも、肝心のビデオはどこにも見当たらない。
「ないなぁ。やっぱり捨てちゃったのかな……」
真雪があきらめかけたとき、隅のほうに埋もれている段ボール箱があった。
段ボール箱には、録画再生ビデオの文字が書かれている。
「あっ、これだ!」
上に積まれている物をどかして、真雪は何とかその段ボール箱を取り出した。
中を開けてみると、
「わぁ、ビデオデッキだ。……よかった。残ってたんだ」
小さいころ、ほんの少しだけ記憶にあったビデオデッキ。
それがまだ残っていたので、真雪は素直に嬉しかった。
大切に段ボール箱を運んで、リビングのテレビへ向かった。
「これ、どうやってテレビにつなぐのかな……ビデオの中にあった、この黄色と白と赤のコードかな?」
テレビの裏をよく見て、色を合わせてコードを装着していく。
機械音痴な真雪だが、なんとかテレビに接続できた。
ビデオの電源プラグをコンセントにつなぐと、ちゃんと電源も入った。
あとはこれを……。
真雪は学校から持ってきていたビデオテープ取り出した。
テープを挿入口に押し込むと、あとは自動で中に入っていった。
そして、どきどきしながら再生ボタンを押す。
「……あれ? 映らない」
原因がわからなくてあたふたしていたが、しばらくして、テレビをビデオ入力に切り替えてないことがわかった。
「忘れてた……。DVDとかを見るときも、こうやって切り替えてたよね」
真雪はテレビのリモコンでビデオ入力に切り替えた。
ちょっとぼやけた印象があるが、映像がちゃんと映っていた。
そこには、見覚えのある風景が映っている。
あっ、これ……学校だ!
今の制服と同じ。昔から変わってないんだ。
まだ学食もある! って、当たり前だよね……。
昔の映像だもん。
どうやら、学校があった日の放課後の映像みたいだった。
最初はなんでもない学校風景が映し出されていたが、画面の下から、いきなり女子生徒がマイクを持って現れた。
「はい、毎度おなじみのオンエア部です! 今日は今からみんなで、先生にどっきりを仕掛けたいと思います」
その女子生徒を追うように、画面は学校の中へと移動していく。
そして、やってきた場所は職員室。
職員室の前で、さっきの女子生徒が再び話し始めた。
「じゃあさっそくやってみましょう。にひひひ」
職員室の扉を開けて、中に入っていく。
それから、女子生徒はたばこを吸っていた若い男の先生の所まで行った。
「先生、ちょっといいですか?」
「うん? どうした?」
先生はかっこつけるように、手先だけでたばこを灰皿に押しつけた。
それを見ていた真雪は、
「この先生……どこかで見たことある気がするけど……誰だったかな」
女子生徒は先生にひっつくように近づく。
そして、
びよよよ~ん。
持っていたリアルなカエルのおもちゃを先生のひたいにくっつける。
「……なんだ?」
先生がひたいからそれを取って、何なのかを確認する。
「うおぁぁぁぁぇええ!」
よくわからない悲鳴を上げて、先生はぶっ倒れてしまった。
それを見て、大笑いする女子生徒とカメラマンたち。
「きゃははは。大成功ー!」
「こら、なにをするかー!」
笑いながら逃げる生徒たちを、先生は怒って追いかけてきた。
その様子はテープにしばらく録画されていた。
「あっ、この先生って、いまの教頭先生だ! 若かったからよくわからなかったよ!」
教頭先生にもこんなときがあったんだと、素直に感動した。
場面は変わって、今度は部活動風景が映し出されている。
ここは、今日真雪が掃除した部室に使っている教室だろうか。
外は真っ暗になっているのにもかかわらず、夜遅くまで部活をやっていた。
いまは男女合わせて5人の生徒で、衣装を作っているところだった。
「これ、明日までに間に合いますか?」
「わからない! とにかくやるしかない!」
みんな急いでいる様子で、かなり修羅場みたいだ。
「はーい、これは明日のゲリラライブのための準備でーす。明日はいま作ってる衣装を着て、講堂でライブをやるのでーす」
「ちょっとそこ、暇なら手伝ってよ」
「はいはーい。……じゃあ、私もいってきまーす」
横の方からもう一人、画面に現れた。
さっきまで話していた人みたいだ。
カメラはそのまま、同じアングルで撮り続けられている。
「こんばんは。世界の果てからやってきた妖精一号です」
今度は違う生徒が、裏から声を入れているみたいだ。
「いまからこの空間に、どきどきなことをしてみようと思います」
どきどきなことってなんだろう。
見ている真雪も少しどきどきしてきた。
カチッ。
音と一緒に、教室の中が真っ暗になる。
「きゃー、なにがあったの?」
「停電か?」
「こわいー。だれか懐中電灯持ってない?」
映像は真っ暗になり、声だけが聞こえてくる。
そして、
カチッ。
誰かが電気をつけた。
すると、
パンッ! パンパン!
教室のあちこちから、一斉にクラッカーが鳴り始めた。
「お誕生日、おめでとうー!」
妖精一号さんの声が、教室内に響いた。
「そうか、誕生日だったのか」
「なんだ、びっくりした~」
「誰かは知らないけど、粋なことするなあ」
一気に教室内は盛り上がってきた。
「……で、誰の誕生日だ?」
近くにいた男子生徒が妖精一号さんに聞くと、
「わかりませーん。だはは」
「あ、やっぱりいたずらだったのかよ!」
「逃げた! ちょっと、待ちなさいよ!」
「おかげでいいビデオがとれました~!」
何の意味もない、ただのいたずら動画。
昔のオンエア部は、正直、真雪の想像を超えたことをやっている部活だった。
それでも、真雪も映像を見ながら笑顔になっていた。
それは、いつの時代になっても変わらない。
部員も、このビデオを見ている人も、みんなが楽しいと思えるような内容だった。
昔のオンエア部って、こんなことしてたんだ。
ばかみたいだけど、面白いなぁ。
明夏ちゃんも日菜ちゃんも、こういうのはすごく好きそう。
真雪はテープが終わるまで、昔のオンエア部の活動をずっと見ていた。
映像の中の世界は、すべて引き込まれてしまうような面白さがあった。
みんな笑顔で、すごく楽しそう。
私もなぜか、楽しい気分になってくる。
テープを見終わったとき、映画を見終わったあとのような感慨深いものがあった。
これが昔のオンエア部。
そして、オンエア部の大先輩たちが残してくれた、今の真雪へのメッセージなのかもしれない。
「オンエア部って地味な部活動だと思っていたけど、本当はすごく活気のある部活だったんだ」
ビデオテープを取り出して、傷が付かないように丁寧にケースに入れた。
それから両手で持って、その歴史のあるビデオテープを眺める。
私、もう一度オンエア部で活動してみたい。
今度は、もっと楽しい部活動になるようにしたい。
真雪は次第にそう思うようになっていた。