第2話 学食はとってもにぎやか!

文字数 1,993文字

「へえ、ここが学食かあ」

 校舎を出て渡り廊下を歩いていくと、そこには学食があった。

 たくさんの長いテーブルに、食事を受け取るカウンターにむらがっている人たち。
 あちこちから人の声が聞こえてきて、すごくにぎやかな場所に見えた。

「そう、ここがわが校でいちばん生徒でにぎわう場所。学生食堂です! ……でも私はこの人混み、あまり得意じゃないんだけどね」

 明夏は真雪を見て苦笑いする。

 ここに来ると、いろんな食べ物のいい匂いがしてきた。
 真雪はよだれが出そうになるのをこらえて、辺りをきょろきょろと見回す。

「えーっと、これからどうすればいいのかな」
「先に食券を買って、カウンターに持って行けば食事がもらえるんだよ。で、食券はあっちにある自販機で買うの」

 明夏が指さした先には、長い行列が学食の外まで続いている。

「ええっ!? こんなに人が並んでる!?
「今日はすごいね。大人気ゲーム発売当日の行列みたい」
「こんな日にはじめて学食に来るなんて。私、ついてないな~」
「……あ、違う。あれは無敗の校内じゃんけん王に挑戦する人の列だった。本当はこっちのほう」

 明夏は隣にある列を指さした。
 さっきほどでもないが、それでも列はかなり長く続いている。

「うーん、どっちにしても食事にありつけるまでは時間がかかりそうだね」
「真雪、どうする? 並んでる列の人を、横から名古屋撃ちで倒していく?」
「意味が分からないけど、それはやめたほうがいいかも……」

 話をしている間にも、列にはどんどん人が並んでいる。

「明夏ちゃん、早く行こう。ますます遅れちゃうよ」
「早く並んで、席もちゃんと確保するには……あ、いいこと考えた!」

 明夏はいきなり右手のこぶしを振り上げた。
 周りにいた人は、明夏の大声と大きなアクションに一歩だけ距離を置く。

「ねえ、私が並んで二人分の食事を持ってくるから。真雪は先に、席取りをしててくれない?」
「せきとり? お相撲さんって、こうだったかな?」
「ちがーう! 関取じゃなくて、私たちの座る席を確保しておくの!」
「そ、そうだよねやっぱり。おかしいと思ったよ……」

 勘違いして横綱の土俵入り(雲竜型)の格好をした真雪は、恥ずかしさで顔が赤くなった。

「じゃあ私は列に並んでくるね。何が食べたい?」
「カレーライス!」
「即答かよ!」

 真雪がカレーライスのお金を渡すと、明夏は小走りで食券の列に並びにいった。
 それを見届けてから、真雪はカウンターから一番遠い、空いていた席に座る。
 明夏の席と合わせて、二人分の席を確保した。

 ……。

 席に座ると、なんだか手持ち無沙汰になってしまった。
 待っているだけで何もすることがない。

 さっき明夏ちゃんが言ってた通り、本当に人が多いなあ。

 広い学食内を珍しそうに見渡す。

 ここに入ってきたときも感じたが、この学食はすごくにぎやかだ。
 教室でも昼休みには人の話し声がよく聞こえるけど、学食の場合は教室と比べてもかなり声が大きく聞こえてくる。

 みんな、大声を出して授業中のストレスを晴らしてるのかな?

 そんなふうにも思えてくる。

「あ~あ~。王様の耳はロバの耳~」

 真雪も少し恥ずかしがりながら、ストレス解消と思いつつ普通に声を出してみた。
 でも、周りの声が大きくて自分の声があまり聞こえない。
 ここまで騒がしいのは、ある意味すごいと思う。

「それじゃあ、今度はもっとすごいこと言っちゃおうかな。えーっと、私が小学校のころ好きだった男子の名前は……」

 言いかけて、やっぱりやめた。
 誰にも聞こえないとはいえ、口に出して公表するのは、やっぱりちょっと恥ずかしい。

 と、そのとき。

 ♪~♬~♩~。

  周りの人の声が一瞬だけ静かになったとき、かすかに耳に入るくらいの音で、学食の天井付近にあるスピーカーから音楽が聴こえてきた。

 こんなところで校内放送してるんだ。

 真雪は放送に耳を傾けた。
 すると、

「ただいま聴いていただいた曲は……」

 今度はかすかに、人の喋る声がした。

 あれ?
 これって、ただ音楽流してるんじゃなくて、だれかがお話してる?

 言葉の最後のほうは、周囲の声にかき消されて、なにを言っているのかよくわからなかった。

 音楽を流しながらしゃべる人、よくラジオとかで聴くよね。
 こういう人をなんて言うんだっけ……パーソナリティ? DJ?
 よくわからないけど、この放送にはそういう人がいるみたい。
 うちの高校にこんな放送があったんだ。

 真雪は改めて学食の中を見渡してみた。
 だが、真雪のように放送を聴いているような人は他にはいなかった。

 誰も聴いてないみたいだけど、どうして放送を流してるのかな?
 聴く人がいないんじゃ放送の意味はないと思うんだけど。
 どうなっているんだろう。

 誰も聴こうとしない、お昼休みの学食での放送。
 そんな中にただ一人だけ、真雪は放送の内容に興味を持ち始めていた。
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登場人物紹介

真雪(まゆき)


主人公。

ちょっと人見知りする高校一年生。

明夏(めいか)


真雪の親友。

活発でレトロゲームが好き。

日菜(ひな)


真雪のクラスメイト。

ちょっと変な性格で語尾が変。特技は自己流の落語。

樹々(じゅじゅ)


オンエア部の部長。

いつも冷静でクールな先輩。

メロン先輩


真雪に親切にしてくれる謎が多い先輩。

自由気ままな人。

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