第25話 海と紙飛行機
文字数 2,305文字
部室に入った真雪、明夏、日菜の三人は、長テーブルに、横一列に並んで座った。
三人の正面には樹々。
その表情は、あまり明るいものではなかった。
「それじゃあ、話を始めるわね。オンエア部の今後について」
樹々は一回大きな深呼吸をすると、ゆっくりと話し始めた。
「学食棟が使えなくなったあと、今まで通り活動を続けていくことは難しいわ。先生が言っていたのは、休部、もしくは廃部ということになりそうだと」
「そんな……」
ショックだった。
「なんとかならないんですか?」
明夏が聞くと、
「学校側の会議で決まったことらしくて、先生もどうしようもなかったって。私もぎりぎりまでオンエア部が続けられるように掛け合ってみるから。しばらくは、部活は休止になります」
話はそれだけ。
真雪たち三人は、ショックのまま、教室へと戻っていった。
そして、放課後。
真雪は学校には残らず、そのまま家に歩いて帰っていた。
学食棟がなくなる今週いっぱいまでで、オンエア部の部室がなくなってしまうなんて、今でも信じられない。
少なくとも一学期が終わるまで、あと一ヶ月くらいはあると思っていたのに。
私、オンエア部に入部してやりたいことをほとんどやっていない。
…………。
でも、私のやりたいことって何だろう?
そういえば、まだ何も決まってなかった。
今日、日菜のオンエアを間近で見て、自分との違いを思い知らされた。
私、どうしたらいい?
……。
「およよ? ゆきちゃんも海を見に来たのですかい?」
「海?」
真雪が顔を上げると、そこには日菜がいた。
そして、いつの間にか目の前には、海岸と海が広がっている。
「あれ? 私、どうしてここに」
「どうしたのぽい? 考え事をしながら歩いてたら、いつの間にか海に来ちゃった! みたいな顔してるっすよ?」
「うん、まさしくその通りなんだけど……。日菜ちゃんはここで何やってるの?」
「私はよくここの海岸に遊びに来てるのん。そして、こうやってるのす!」
日菜は紙飛行機を海岸から陸地に向かって飛ばした。
飛行機は風に乗って高くまで飛んでいき、真雪たちのいるところからずいぶんと遠いところで落ちた。
「すご~い。紙飛行機ってあんなに飛ぶんだ」
「海から吹く風を利用したにょろよ。そうすると、遠くまで飛んでいくんだすよ」
「へえ、なんだか面白そう」
「ゆきちゃんもやってみようよ。けっこう面白いよん」
日菜は鞄からノートを取り出して、一番後ろのページを破る。
それを真雪に渡した。
「日菜はさっき飛ばしたのをとってくるから、ゆきちゃんはこれで飛行機を作っておいてくださいなる。今度はどっちが遠くまで飛ばせるか勝負するにょす」
日菜は紙飛行機の飛んでいった方向に走っていった。
「紙飛行機かぁ。作るのはすごく久しぶりだなぁ」
真雪は時折吹く強い風に背を向けて、紙飛行機を折り始めた。
ちょっと作り方を忘れていたので、うろ覚えでなんとか紙飛行機を完成させた。
左右のバランスがとれていない、ちょっと不格好な形になっている。
「これでいいのかな? ちょっと違う気もするけど……」
真雪は試しに作った紙飛行機を軽く飛ばしてみる。
紙飛行機は真雪の手から離れた! ……と思ったら、すぐに下向きになって地面に落ちてしまった。
「あ~、やっぱり作り方が間違ってたのかな」
真雪は紙飛行機を拾い上げて、くっついた砂を手で払った。
今度は手に砂がついたので、手をぱんぱんと拍手するようにたたいて、砂を落とした。
そこで、ふと我に返った。
私、こんな所で何やってるんだろう。
オンエア部がもうすぐなくなっちゃうのに。
……。
日菜ちゃんはどう思ってるのかな?
しばらくすると、紙飛行機を取りに行っていた日菜が帰ってきた。
「ふぅ。思ってたよりずいぶん遠くまで飛んでたよろし。探すのに苦労したにょろ。……ところで、ゆきちゃんの紙飛行機は完成したよろしか?」
「うん……あのっ」
思い切って、真雪はさっき思ったことを聞いてみることにした。
「日菜ちゃんは、もしオンエア部が廃部に……きゃうっ!」
真雪の足下に大きな波が打ち寄せてきた。
靴はびしょびしょに濡れて、中の靴下までもじんわり水が染み込んできた。
「あ~、びしょびしょになった~」
「ゆきちゃん大丈夫かに? とりあえず波の届かないところに移動するなみ」
「う、うん」
二人は波の届かない、少し離れた場所まで移動した。
大きな石に腰をかけた真雪は、靴と靴下を脱いでタオルで足を拭いた。
「もう、いきなり大きな波がくるんだもん」
それに、話を聞きそびれちゃったよ。
今度こそ、日菜ちゃんにオンエア部のこれからのことを聞いてみよう。
日菜ちゃんは……いた。近くできょろきょろ地面を見てるけど……。
今が話をするチャンスだよね。
「日菜ちゃん、あの!」
「むむっ、これは大発見なり! 古代の財宝を入手したなり!」
日菜は海岸に落ちていたものを高々と拾い上げた。
それは長くて艶のある……。
「それワカメだよ! 普通にその辺に落ちてるやつ!」
「むむっ、そうだったのすか。宝探しは奥が深いでし」
そのまま日菜は、新しい宝を求めてどこかに行ってしまった。
真雪は、大きな石のある場所に残された。
「日菜ちゃん……予測不能な行動は相変わらずだよね」
真雪は日菜の後を追おうとしたが、裸足だったので行くのを諦めた。
日菜はあっという間に真雪の視界から消えていった。
「……あーあ。結局、話を聞きそびれちゃったな」
真雪だけしかいない海岸では、ザザーッという波の音が繰り返し響いている。
飛ばない紙飛行機を片手に持って、真雪は靴が乾くのをじっと待っていた。
三人の正面には樹々。
その表情は、あまり明るいものではなかった。
「それじゃあ、話を始めるわね。オンエア部の今後について」
樹々は一回大きな深呼吸をすると、ゆっくりと話し始めた。
「学食棟が使えなくなったあと、今まで通り活動を続けていくことは難しいわ。先生が言っていたのは、休部、もしくは廃部ということになりそうだと」
「そんな……」
ショックだった。
「なんとかならないんですか?」
明夏が聞くと、
「学校側の会議で決まったことらしくて、先生もどうしようもなかったって。私もぎりぎりまでオンエア部が続けられるように掛け合ってみるから。しばらくは、部活は休止になります」
話はそれだけ。
真雪たち三人は、ショックのまま、教室へと戻っていった。
そして、放課後。
真雪は学校には残らず、そのまま家に歩いて帰っていた。
学食棟がなくなる今週いっぱいまでで、オンエア部の部室がなくなってしまうなんて、今でも信じられない。
少なくとも一学期が終わるまで、あと一ヶ月くらいはあると思っていたのに。
私、オンエア部に入部してやりたいことをほとんどやっていない。
…………。
でも、私のやりたいことって何だろう?
そういえば、まだ何も決まってなかった。
今日、日菜のオンエアを間近で見て、自分との違いを思い知らされた。
私、どうしたらいい?
……。
「およよ? ゆきちゃんも海を見に来たのですかい?」
「海?」
真雪が顔を上げると、そこには日菜がいた。
そして、いつの間にか目の前には、海岸と海が広がっている。
「あれ? 私、どうしてここに」
「どうしたのぽい? 考え事をしながら歩いてたら、いつの間にか海に来ちゃった! みたいな顔してるっすよ?」
「うん、まさしくその通りなんだけど……。日菜ちゃんはここで何やってるの?」
「私はよくここの海岸に遊びに来てるのん。そして、こうやってるのす!」
日菜は紙飛行機を海岸から陸地に向かって飛ばした。
飛行機は風に乗って高くまで飛んでいき、真雪たちのいるところからずいぶんと遠いところで落ちた。
「すご~い。紙飛行機ってあんなに飛ぶんだ」
「海から吹く風を利用したにょろよ。そうすると、遠くまで飛んでいくんだすよ」
「へえ、なんだか面白そう」
「ゆきちゃんもやってみようよ。けっこう面白いよん」
日菜は鞄からノートを取り出して、一番後ろのページを破る。
それを真雪に渡した。
「日菜はさっき飛ばしたのをとってくるから、ゆきちゃんはこれで飛行機を作っておいてくださいなる。今度はどっちが遠くまで飛ばせるか勝負するにょす」
日菜は紙飛行機の飛んでいった方向に走っていった。
「紙飛行機かぁ。作るのはすごく久しぶりだなぁ」
真雪は時折吹く強い風に背を向けて、紙飛行機を折り始めた。
ちょっと作り方を忘れていたので、うろ覚えでなんとか紙飛行機を完成させた。
左右のバランスがとれていない、ちょっと不格好な形になっている。
「これでいいのかな? ちょっと違う気もするけど……」
真雪は試しに作った紙飛行機を軽く飛ばしてみる。
紙飛行機は真雪の手から離れた! ……と思ったら、すぐに下向きになって地面に落ちてしまった。
「あ~、やっぱり作り方が間違ってたのかな」
真雪は紙飛行機を拾い上げて、くっついた砂を手で払った。
今度は手に砂がついたので、手をぱんぱんと拍手するようにたたいて、砂を落とした。
そこで、ふと我に返った。
私、こんな所で何やってるんだろう。
オンエア部がもうすぐなくなっちゃうのに。
……。
日菜ちゃんはどう思ってるのかな?
しばらくすると、紙飛行機を取りに行っていた日菜が帰ってきた。
「ふぅ。思ってたよりずいぶん遠くまで飛んでたよろし。探すのに苦労したにょろ。……ところで、ゆきちゃんの紙飛行機は完成したよろしか?」
「うん……あのっ」
思い切って、真雪はさっき思ったことを聞いてみることにした。
「日菜ちゃんは、もしオンエア部が廃部に……きゃうっ!」
真雪の足下に大きな波が打ち寄せてきた。
靴はびしょびしょに濡れて、中の靴下までもじんわり水が染み込んできた。
「あ~、びしょびしょになった~」
「ゆきちゃん大丈夫かに? とりあえず波の届かないところに移動するなみ」
「う、うん」
二人は波の届かない、少し離れた場所まで移動した。
大きな石に腰をかけた真雪は、靴と靴下を脱いでタオルで足を拭いた。
「もう、いきなり大きな波がくるんだもん」
それに、話を聞きそびれちゃったよ。
今度こそ、日菜ちゃんにオンエア部のこれからのことを聞いてみよう。
日菜ちゃんは……いた。近くできょろきょろ地面を見てるけど……。
今が話をするチャンスだよね。
「日菜ちゃん、あの!」
「むむっ、これは大発見なり! 古代の財宝を入手したなり!」
日菜は海岸に落ちていたものを高々と拾い上げた。
それは長くて艶のある……。
「それワカメだよ! 普通にその辺に落ちてるやつ!」
「むむっ、そうだったのすか。宝探しは奥が深いでし」
そのまま日菜は、新しい宝を求めてどこかに行ってしまった。
真雪は、大きな石のある場所に残された。
「日菜ちゃん……予測不能な行動は相変わらずだよね」
真雪は日菜の後を追おうとしたが、裸足だったので行くのを諦めた。
日菜はあっという間に真雪の視界から消えていった。
「……あーあ。結局、話を聞きそびれちゃったな」
真雪だけしかいない海岸では、ザザーッという波の音が繰り返し響いている。
飛ばない紙飛行機を片手に持って、真雪は靴が乾くのをじっと待っていた。