第10話 オンエア部、部員再募集?

文字数 1,400文字

「日菜ちゃん、大丈夫?」

 机に足を激突させた日菜に、真雪が言った。

「だいじょーぶなのです。それより、これ見てこれ見てですよ!」

 日菜は隠し持っていた巻物を二人の前に出すと、するすると縦に開いていった。

『オンエア部が部員募集してます』

「本当に!?

 真雪と明夏は思わず大声を出した。
 その様子を見て、さらに上機嫌になった日菜は、続けて言う。

「ふっふ~ん、そうなのですよ。しかも、オンエア部のお昼の放送で、いつでも部室に遊びに来ていいと言ってたアルヨ」
「でも、この間はもう部員募集してないって」
「それが変わったみたいなんだぞい。ほら、ちょっとこれを聴いてみ?」

 日菜は鞄からボイスレコーダーを取り出した。
 辺りをきょろきょろと見回して、

「いいですか? これから流れる音声は日菜が極秘で入手したもの。そしてスパイはいつも秘密主義。他の人に言ってはなりませぬぞ」
「私たち、いつからスパイに……」
「それでは、音声スタートなのです」

 日菜は機械の扱いにちょっと戸惑いながらも、再生ボタンを見つけて押した。
 小さなスピーカーからは、人のざわめき声が聞こえてくる。

 ざわざわ。

 ざわざわざわ。

 ざわざわざわざわ。

 ……。

 ポチッ。

「以上だお」
「ざわざわとしか聞こえなかったよ! これのどこが極秘の情報なの?!
「ありゃ、おかしいなも。オンエア部の放送を聴きながら録音してたはずなのにょろ」

 日菜はボイスレコーダーをたたいてみたり振ってみたりしてみた。
 だが、何度聞いてもオンエア部の放送は聴き取れなかった。
 明夏が頭を押さえて、

「あちゃあ。それはたぶん学食の声がにぎやかすぎて、放送の声を拾えなかったんだわ」
「そうなのですか? じゃあ、日菜が録音したオンエア部の話は」
「残念だけど、入ってないと思う」
「とほほ~なのです」

 日菜はがっくりと肩を落とした。

「でっ、でも、日菜はちゃんと聴いたっす。入部希望者はいつでも来てくださいって。間違いないっす」
「真雪、どうするの? まだオンエア部に入部するチャンスが残ってるじゃない」
「私、えっと、どうしよう……。ほかの部活も考えてたんだけど」

 おどおどしている真雪の肩に明夏がぽんと手を置く。

「じゃあ、一緒にレトロゲーム部に行く?」
「え、それはちょっとやだな……」
「ゆきちゃんがオンエア部に行かなくても、日菜は行くにょろよ! 今から部室に突撃して、今度こそ入部するのですー!」

 日菜は鞄をつかむと、廊下のほうへ走っていった。

「それではお二人さん、また明日っす」
「あ、日菜ちゃん待って! それ私の鞄だよ!」

 真雪の声が聞こえなかったのか、日菜はそのままどこかへ行ってしまった。

「明夏ちゃん。私、ちょっと行ってくるね」
 
 真雪も日菜のあとを追った。

 教室に一人残された明夏。
 よく見ると、日菜は自分の鞄も持って行っていたことに気づいた。

 真雪も一緒に来るように、日菜がわざと真雪の鞄を持って行ったのだろう。

「日菜も強引だなぁ。まあ、あれくらいしないと、優柔不断の真雪は行かないか。あーあ、私もそろそろ部活、決めないとなー」

 一人になった教室で、明夏はつぶやいた。
 手に持った紙袋の中身を確認すると、使い込まれて年季の入ったゲーム機がある。 

「……でもその前に。せっかくゲーム機を借りたから、ちょっとやってみようっと」

 明夏は紙袋を持って、テレビの置いてある視聴覚室へと歩いて行った。
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登場人物紹介

真雪(まゆき)


主人公。

ちょっと人見知りする高校一年生。

明夏(めいか)


真雪の親友。

活発でレトロゲームが好き。

日菜(ひな)


真雪のクラスメイト。

ちょっと変な性格で語尾が変。特技は自己流の落語。

樹々(じゅじゅ)


オンエア部の部長。

いつも冷静でクールな先輩。

メロン先輩


真雪に親切にしてくれる謎が多い先輩。

自由気ままな人。

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