第19話 放送部の文香
文字数 2,429文字
部活後の下校途中。
帰る方向の違う日菜と別れて、真雪と明夏は、商店街にあるCDショップに寄り道をした。
次のオンエアに流す音楽を探すため……というのは口実で、ただどこかに寄り道して帰りたかっただけだった。
「ねえ真雪、これはどう? オンエアに使えると思うんだけど」
明夏が探してきたCDを真雪に見せる。
「じゃーん。『川のせせらぎ。豪華90分!~日本編~』」
「こんなのオンエアで流してもあまり嬉しくないよ。それに、日本編って……」
「世界各国いろんなバージョンがあるみたいね。おすすめはネパール版らしいよ?」
「……他によさそうなのはある?」
「えーっとね……じゃあこれ。『波の音。豪華120分! ※リピートするとエンドレスで楽しめます』だって」
「それじゃあさっきとあまり変わらないよ!」
「むむ~。真雪が腰を抜かすような、もっと奇抜なのを探してくる」
明夏は、さっきとはまた違うジャンルのCDコーナーへと旅立っていった。
「もっと普通の音楽CDでいいのに」
真雪はというと、邦楽と洋楽コーナーの間で、どちらを見ようか迷っていた。
明夏に比べると、よくある普通の選択肢だった。
どっちにしよう。
……普段はあまり聴かない洋楽とか探してみようかな。
真雪は洋楽コーナーへ移動しようとする。
そのとき、真雪は意外な人物に話しかけられた。
「真雪も来てたんだ。やっほー」
「あ、文香ちゃん」
洋楽コーナーには、真雪のクラスメイトで放送部の文香がいた。
文香は手を小さく振ると、真雪の側まで寄って来る。
「びっくり。こんなところで真雪にあえるなんて思わなかったよ」
「私も。文香ちゃんは部活じゃなかったの?」
「今日はお休み。放送部って毎日活動があるわけじゃないんだよ? 大会前はちゃんと毎日活動してるみたいだけどね」
「へえ、そうなんだ」
やってることはオンエア部と似てる部活だから、毎日じゃないことは意外だった。
ちなみに、オンエア部は毎日部室に集まっているけど、活動とい言うほどのことはあまりやっていない。
しばらく話をした後、文香が鞄からスマホを取り出して言った。
「あのさ、よかったらこのあとカラオケに行かない? 今から同じクラスのミコとナスも呼んでさ」
「カラオケ? ……カラオケかぁ」
真雪はどうしようか迷っていた。
音痴というわけではないが、人前で歌うのは苦手。
今までもカラオケの誘いだけは断ってきた。
ちょうどそこへ、CD探しの旅から明夏が戻ってきた。
「ん? 文香じゃない。こんなところでどうしたの?」
「お、明夏もいたんだ。いまちょうど真雪をカラオケに誘ってたところなんだけど。明夏も一緒に来るでしょ?」
「カラオケ? う~ん……カラオケねぇ」
明夏は、真雪と同じような反応を見せる。
ちらりと真雪のほうを見てみると、真雪はじっと下を向いて、どうしようか悩んでいるようだった。
「……あー、ごめん。私たちこれからちょっと部の買い出しの用事があるんだ。だから今日はパス」
「部活? 二人とも、何か部活に入ったの?」
「オンエア部よ。いつもお昼に学食でオンエアしてる」
「オンエア部!?」
文香はいきなり大きな声で言った。
周りにいた人たちは、一斉に真雪たちのほうを振り向く。
「……なんか注目されてるみたい。ちょっと外に出よう?」
「うん」
あまり話をできる雰囲気ではなかったので、三人は店を出た。
そして、近くにあったハンバーガー店に入った。
注文を終えて、食べ物を席まで持って行く。
席に着いて落ち着いたところで、明夏が文香に聞いた。
「どうしたのよ。オンエア部って聞いて突然大きな声を出して」
「だって、オンエア部は不良のたまり場って話、聞いたことない? 放送部の間では有名な話なんだよ。ろくに活動してないくせに、第二放送室を占領していつも遊んでるって。第二放送室が使えればもっといい活動ができるのにって、先輩たちいつも言ってる」
「オンエア部って周りからそんなふうに見られてたんだ……」
真雪が言うと、
「そんなことないよ。部長はすごく真面目な人だし、他は私たちだけだから。不良なんか誰もいないよ」
明夏がフォローした。
「本当に? 適当に授業さぼってる風来坊が出現するって聞いたけど」
「ああ、それは本当かもしれない。よくわかんないけど」
明夏は樹々先輩からその人のことを聞いたことがある。
だが、部に姿を現したこともなければ、当然会ったこともない。幻の先輩だった。
「大丈夫なの? 活動内容はあまり変わらないみたいだし、二人とも放送部のほうに入らない? そっちのほうが絶対にいいと思う」
文香が心配そうに言う。
「ありがとう。でも、せっかく二人で入った部活だし、オンエア部のほうで楽しんでみるよ」
「そう? わかった。もしオンエア部が嫌になったらいつでも言ってね?」
それから、文香は他のメンバーとカラオケに行くと言ってすぐに出て行った。
残された真雪と明夏は、しばらく店の中で話を続けた。
「……オンエア部ってあんまり評判よくないみたいだね。知らなかった」
真雪が言うと、
「オンエア部の存在をよく知ってるのは、やってることの近い放送部くらいだよ。以前はオンエア部から放送部に移籍する人がたくさんいたみたいだし」
「そうなの?」
「先輩から聞いた。文香の言うとおり、昔はオンエア部も荒れてたみたいだからね」
「なんか恐いな……」
「まあでも、今はそんな人いないこと、真雪も知ってるでしょ?」
「うん、そうだよね」
真雪はほっとした顔になった。
「そ・れ・よ・り・も。さっきカラオケに誘われたとき、真雪のために断ったんだから。感謝してよ?」
「明夏ちゃん、ありがとう。私、カラオケだけは苦手で、あまり行きたくなかったんだ」
「あ、お礼は学食のうどんでいいよ。最近学食にある謎うどんがマイブームなのよ」
「はいはい。もう、ちゃっかりしてるなあ」
このあと二人は、店内で一時間くらいどうでもいい話をして、盛り上がっていた。
帰る方向の違う日菜と別れて、真雪と明夏は、商店街にあるCDショップに寄り道をした。
次のオンエアに流す音楽を探すため……というのは口実で、ただどこかに寄り道して帰りたかっただけだった。
「ねえ真雪、これはどう? オンエアに使えると思うんだけど」
明夏が探してきたCDを真雪に見せる。
「じゃーん。『川のせせらぎ。豪華90分!~日本編~』」
「こんなのオンエアで流してもあまり嬉しくないよ。それに、日本編って……」
「世界各国いろんなバージョンがあるみたいね。おすすめはネパール版らしいよ?」
「……他によさそうなのはある?」
「えーっとね……じゃあこれ。『波の音。豪華120分! ※リピートするとエンドレスで楽しめます』だって」
「それじゃあさっきとあまり変わらないよ!」
「むむ~。真雪が腰を抜かすような、もっと奇抜なのを探してくる」
明夏は、さっきとはまた違うジャンルのCDコーナーへと旅立っていった。
「もっと普通の音楽CDでいいのに」
真雪はというと、邦楽と洋楽コーナーの間で、どちらを見ようか迷っていた。
明夏に比べると、よくある普通の選択肢だった。
どっちにしよう。
……普段はあまり聴かない洋楽とか探してみようかな。
真雪は洋楽コーナーへ移動しようとする。
そのとき、真雪は意外な人物に話しかけられた。
「真雪も来てたんだ。やっほー」
「あ、文香ちゃん」
洋楽コーナーには、真雪のクラスメイトで放送部の文香がいた。
文香は手を小さく振ると、真雪の側まで寄って来る。
「びっくり。こんなところで真雪にあえるなんて思わなかったよ」
「私も。文香ちゃんは部活じゃなかったの?」
「今日はお休み。放送部って毎日活動があるわけじゃないんだよ? 大会前はちゃんと毎日活動してるみたいだけどね」
「へえ、そうなんだ」
やってることはオンエア部と似てる部活だから、毎日じゃないことは意外だった。
ちなみに、オンエア部は毎日部室に集まっているけど、活動とい言うほどのことはあまりやっていない。
しばらく話をした後、文香が鞄からスマホを取り出して言った。
「あのさ、よかったらこのあとカラオケに行かない? 今から同じクラスのミコとナスも呼んでさ」
「カラオケ? ……カラオケかぁ」
真雪はどうしようか迷っていた。
音痴というわけではないが、人前で歌うのは苦手。
今までもカラオケの誘いだけは断ってきた。
ちょうどそこへ、CD探しの旅から明夏が戻ってきた。
「ん? 文香じゃない。こんなところでどうしたの?」
「お、明夏もいたんだ。いまちょうど真雪をカラオケに誘ってたところなんだけど。明夏も一緒に来るでしょ?」
「カラオケ? う~ん……カラオケねぇ」
明夏は、真雪と同じような反応を見せる。
ちらりと真雪のほうを見てみると、真雪はじっと下を向いて、どうしようか悩んでいるようだった。
「……あー、ごめん。私たちこれからちょっと部の買い出しの用事があるんだ。だから今日はパス」
「部活? 二人とも、何か部活に入ったの?」
「オンエア部よ。いつもお昼に学食でオンエアしてる」
「オンエア部!?」
文香はいきなり大きな声で言った。
周りにいた人たちは、一斉に真雪たちのほうを振り向く。
「……なんか注目されてるみたい。ちょっと外に出よう?」
「うん」
あまり話をできる雰囲気ではなかったので、三人は店を出た。
そして、近くにあったハンバーガー店に入った。
注文を終えて、食べ物を席まで持って行く。
席に着いて落ち着いたところで、明夏が文香に聞いた。
「どうしたのよ。オンエア部って聞いて突然大きな声を出して」
「だって、オンエア部は不良のたまり場って話、聞いたことない? 放送部の間では有名な話なんだよ。ろくに活動してないくせに、第二放送室を占領していつも遊んでるって。第二放送室が使えればもっといい活動ができるのにって、先輩たちいつも言ってる」
「オンエア部って周りからそんなふうに見られてたんだ……」
真雪が言うと、
「そんなことないよ。部長はすごく真面目な人だし、他は私たちだけだから。不良なんか誰もいないよ」
明夏がフォローした。
「本当に? 適当に授業さぼってる風来坊が出現するって聞いたけど」
「ああ、それは本当かもしれない。よくわかんないけど」
明夏は樹々先輩からその人のことを聞いたことがある。
だが、部に姿を現したこともなければ、当然会ったこともない。幻の先輩だった。
「大丈夫なの? 活動内容はあまり変わらないみたいだし、二人とも放送部のほうに入らない? そっちのほうが絶対にいいと思う」
文香が心配そうに言う。
「ありがとう。でも、せっかく二人で入った部活だし、オンエア部のほうで楽しんでみるよ」
「そう? わかった。もしオンエア部が嫌になったらいつでも言ってね?」
それから、文香は他のメンバーとカラオケに行くと言ってすぐに出て行った。
残された真雪と明夏は、しばらく店の中で話を続けた。
「……オンエア部ってあんまり評判よくないみたいだね。知らなかった」
真雪が言うと、
「オンエア部の存在をよく知ってるのは、やってることの近い放送部くらいだよ。以前はオンエア部から放送部に移籍する人がたくさんいたみたいだし」
「そうなの?」
「先輩から聞いた。文香の言うとおり、昔はオンエア部も荒れてたみたいだからね」
「なんか恐いな……」
「まあでも、今はそんな人いないこと、真雪も知ってるでしょ?」
「うん、そうだよね」
真雪はほっとした顔になった。
「そ・れ・よ・り・も。さっきカラオケに誘われたとき、真雪のために断ったんだから。感謝してよ?」
「明夏ちゃん、ありがとう。私、カラオケだけは苦手で、あまり行きたくなかったんだ」
「あ、お礼は学食のうどんでいいよ。最近学食にある謎うどんがマイブームなのよ」
「はいはい。もう、ちゃっかりしてるなあ」
このあと二人は、店内で一時間くらいどうでもいい話をして、盛り上がっていた。