第44話 学校の地下室

文字数 1,931文字

「ふええ。これが休みの日の学校。いつもとぜんぜん違うみたい」

 静かな校舎。
 人の気配はほとんどなく、グラウンドから運動部の声がたまに聞こえてくるくらいだった。
 真雪はそのめずらしさに、必要以上に辺りをきょろきょろした。

「ちょっと真雪、周りの人から田舎者に思われちゃうからやめてよ」
「田舎者って……明夏ちゃんって面白いことを言う人だねえ。うんうん、そういうの好き」

 メロン先輩は、一人でうなずいていた。

「で、どこから探すんですか? 私、校舎の中はだいたい探し終わったんですが」
「そっかー。……じゃあ、地下室なんか調べた?」

 明夏の質問に、メロンが答えた。

「え……この学校、地下室があるんですか?」

 今度は真雪が少し怖がるような声で言うと、

「大きな声では言えないけど、地下に通じる秘密の通り道があるんだよ」

 メロン先輩はひそひそ話で言った。

「そんな場所があったなんて……」
「ま、私も偶然見つけたんだけど。こっちだよ」

 メロン先輩は、二人の先を進んでいった。
 真雪と明夏は、無言でメロン先輩のあとをついていく。

 校舎一階の階段下。
 二階に上がる階段の裏側が空洞になっていて、隅の方には掃除用具入れがぽつんと置かれていた。
 掃除用具入れの近く、壁になっている所の前まで来て、メロン先輩は立ち止まった。

「あの、ここって行き止まりじゃないんですか?」
「しっ。……周り誰も見てないよね?」

 メロン先輩は小声で言った。
 真雪と明夏は、階段下の入り口辺りまで戻って、誰か人がいないか確認をした。

「はい、誰もいませんでした」
「こっちもおっけーでーす」
「よし。それじゃあ行くよ。……あ、最初に言っておくけど、この場所のことは誰にも言ったらだめだよ?」

 メロン先輩は壁に両手を当てた。
 何をしているのかと思った次の瞬間、メロン先輩が壁を押すと、何もなかった壁が引っ込んで、そこからくるんと回転した。
 壁の向こう側には、しばらく歩いて行けそうな空間ができている。

「わっ、これ見たことある。真雪と一緒に行った、忍者屋敷にあったやつだ!」
「あのときの明夏ちゃん、いきなり壁から出てきて通行人を驚かせてたよね……」
「静かにっ。誰かに見つかっちゃう。二人とも黙ってついてきて」

 空いたすきまから、三人は空間に入っていった。
 メロン先輩は小型の懐中電灯をポケットから取り出して、前に進んでいった。
 明夏はメロン先輩の服のすそを、真雪は明夏の服のすそを持って、はぐれないように慎重に歩いた。

 壁の裏は、細長い通路になっていた。
 小窓の外から光が入っていて、真っ暗というわけではなかったが、それでも明かりがないとうっすらとしか見えない状態だった。

 その道をしばらく進んだ先に、下へと続く階段があった。

「……明夏ちゃん。私、ちょっと怖い」
「わ、私だってそうだよ。メロン先輩、こんなところでも平気だなんてメンタル強すぎる」
「ん? 何か言った?」

 メロン先輩は、二人の会話を聞いてなかったようだ。

「さて、これから地下に行くけど、階段で転ばないように足下気をつけてね」

 メロン先輩は、平然と先に進んでいった。
 外からの光も届かなくなった。
 真っ暗な中で、足音だけが響く空間。
 真雪と明夏は、階段を下りていくたびに、怖さがどんどん増していった。

「……あの、先輩。やっぱりやめません? こんなところが部室になっても、誰も来たくなくなると思うんですけど……」
「そう言わないでさ~、ちょっとだけ見ていこうよ。絶対に気に入ると思うから」

 階段を最後まで下りていくと、そこには重そうな鉄の扉があった。
 メロン先輩は、迷うことなく鉄の扉を開ける。

 ガチャッ。
 ギィィィィ……。

 そして、そのまま扉の中へと入っていった。
 真雪と明夏もメロン先輩から離れないようにして、続けて中に入る。

 ぱちっ。

 メロン先輩が、部屋の明かりをつけると、部屋の中が鮮明に見えるようになった。
 そこには特別変わった様子もない、使われていない椅子や段ボールに入った書類などが置いてあるだけだった。

「あれ、意外と普通……」
「でしょ? 二人とも気に入っちゃった?」

 気に入っちゃったと言われても……。

 真雪は、秘密結社のアジトとして使うなら絶好の場所だと思った。

「……ここはちょっと……怖くてあまり来たくないです」

 真雪が正直に言った。
 明夏も黙ってうなずく。

「そう? ざ~んねん。隠れ家的な部室で、いい場所だと思ったんだけど。でも、まだまだ候補の場所はあるから、今度は別の場所に行ってみようか」

 部室候補がいきなりこんな場所だったなんて……。
 この先どんな場所に連れて行かれるんだろう?

 メロン先輩はノリノリだったが、真雪はだんだんと不安になってきた。
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登場人物紹介

真雪(まゆき)


主人公。

ちょっと人見知りする高校一年生。

明夏(めいか)


真雪の親友。

活発でレトロゲームが好き。

日菜(ひな)


真雪のクラスメイト。

ちょっと変な性格で語尾が変。特技は自己流の落語。

樹々(じゅじゅ)


オンエア部の部長。

いつも冷静でクールな先輩。

メロン先輩


真雪に親切にしてくれる謎が多い先輩。

自由気ままな人。

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