第74話 真雪のおつかい

文字数 1,190文字

「ただいま~」
「おかえりなさい。今日は早かったね」
「……うん。部活、なかったから」

 家に帰った真雪は、玄関で偶然母に会った。
 母はちょうど出かける前だったらしく、靴を履いている途中だった。

「ママ、どこか行くの?」
「買い物。味噌汁をつくろうと思ってたけど、お味噌をちょうど切らしてて……ちょうどよかったわ。真雪ちゃん、おつかいに行ってきてくれる?」
「うん、いいよ」
「よかったー。これで先に別のおかずの準備ができるわ。じゃあこれ、買い物袋とお財布。お願いねー」

 母はスキップをしながらキッチンへと戻っていった。
 真雪は家に入らずに、そのまま出かけることにした。

 着替えて行こうかと思ったけど……ま、制服のままでもいいや。

 真雪は鞄を玄関に置いて出かけた。
 家を出ると、そこはよく見慣れた風景。
 真雪は自転車ではなく、歩いていくことにした。

 家の近所を少し歩くと、昔よく遊んだ公園がある。
 そこでは、小学生たちが縄跳びをして遊んでいた。

 それからしばらくすると、明夏とよく買い食いをしていた駄菓子屋があった。
 誰も客はいなかったが、まだお店は続いているみたいだ。

 ……こうやっておつかいをするのも久しぶり。
 部活とかで帰りが遅くなってから、ぜんぜん行かなくなってたんだよね。

 ……でも、部活をやっていたら、今だって……。

 そう思うと、少し気分が落ち込んでくる。

 ……。
 だめだめ!
 そんなこと、考えないようにしよう。

 真雪はスーパーに着くと、目当ての味噌をかごに入れて、すぐにレジに並んだ。
 味噌が一つだけだったので、レジはすぐに終わった。

 そして帰り道、真雪は行きとは違う道を通って帰ることにした。
 
 少し遠回りになるが、大通り沿いをまっすぐ。
 この時間は下校中の生徒や買い物に来た人が多く、にぎやかな印象があった。

 ここの先に、おいしいたい焼き屋があるんだよね。
 よく部活帰りにみんなで行ったっけ。
 ぱりぱりの皮の中に、つぶあんがぎっしりと詰まってて……。

 店の前では、学校帰りの高校生たちが、おしゃべりをしながらたい焼きを食べていた。

 いいな、私もなんだか……。

 匂いにつられるように、真雪は知らず知らずのうちに、たい焼き屋の目の前まで来ていた。
 店の人にも顔を覚えられているらしく、すぐに声をかけられた。

「いらっしゃい。今日は一人? 何にする?」
「あ、いえ。その……」

 そこで真雪ははじめて、自分がたい焼き屋の前にいることに気がついた。

「あー、今日はいいです……」

 真雪は小走りで店の前から去っていった。
 そして、首をぶるぶると振る。

「いけないいけない。ついあの雰囲気につられてしまったよ」

 そして、たい焼き屋のほうを振り返る。
 また新しい高校生のグループが、たい焼きを買っている姿が見えた。

「……やっぱり、みんなで食べたほうがおいしいよね」

 真雪はとぼとぼと家に帰っていった。
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登場人物紹介

真雪(まゆき)


主人公。

ちょっと人見知りする高校一年生。

明夏(めいか)


真雪の親友。

活発でレトロゲームが好き。

日菜(ひな)


真雪のクラスメイト。

ちょっと変な性格で語尾が変。特技は自己流の落語。

樹々(じゅじゅ)


オンエア部の部長。

いつも冷静でクールな先輩。

メロン先輩


真雪に親切にしてくれる謎が多い先輩。

自由気ままな人。

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