第68話 明夏VSじゃんけん王
文字数 2,276文字
文香が学食(仮)の中に入っていったあと、明夏が真雪に言った。
「文香も言ってたけど、真雪、放送部に入っちゃいなよ。案外楽しそうじゃない」
「明夏ちゃんはどうするの?」
「私? いやー、改めてレトロゲーム部に入部しないかって誘われててさー。そっちに行こうかと思って」
「そっか……放送部には入らないんだ」
もし真雪が放送部に入ったら、明夏とは違う部になってしまう。
それはちょっといやだなと思った。
「……私もレトロゲーム部に入ろうかな」
真雪が言うと、
「本当? 真雪が入ったらたぶん人気出るよ。真雪目当てで、男がわんさか寄って来るかも」
「そんなことないよ。それを言ったら明夏ちゃんだっているし」
「私? 私はだめ。男の子からあんまり人気ないんだよね。よくゲーム機壊すし」
「それでよくレトロゲーム部に誘われてるね……」
「やっぱゲームが上手だからでしょ? この間の校内レトロゲーム大会で、準優勝だったんだよ」
「知らなかった。いつの間にそんな大会が……」
「で、真雪はレトロゲーム部に入る?」
「……やっぱやめとく」
真雪はものすごくゲームが下手だった。
そんな話をしているうちに、
「あ、もうすぐ学食(仮)入れそうだよ」
列がどんどん進んでいき、真雪と明夏はようやく学食(仮)の中に入ることができた。
学食(仮)の中では、プロレスやボクシングで使うような、ロープに囲まれた特設リングがあり、そのリング上でじゃんけんが繰り広げられていた。
王者のじゃんけん王は、金の王冠に真紅のマント、おまけにチャンピオンベルトまでしている。
「うげっ。いくら演出したいからって、あれはちょっとやりすぎじゃないの? 見てるこっちが恥ずかしくなる」
「すごいよね。じゃんけん王、本当にチャンピオンみたいだよ」
「まあ、いちおうじゃんけんではチャンピオンなんだけどね」
会場には、多くの見物客もいる。
その前で、挑戦者は一人ずつリングに上がっては、じゃんけん王と勝負しているようだった。
「じゃーんけーんぽーん!」
レフェリー(じゃんけん王の取り巻き)の声で、じゃんけんをする。
そして、
「挑戦者はグー。対して、じゃんけん王はパーだ! またもやじゃんけん王の勝利~!」
会場は一斉にわきあがる。
負けた挑戦者は、とぼとぼとリングから降りていった。
それを見て、真雪のモチベーションは一気に下がっていった。
「……あの、明夏ちゃん?」
「ん? どしたの?」
「これ、挑戦者って一人ずつあそこに上がるから、すごく目立つんですけど……。私、やっぱりやめておこうかな……」
「真雪。何のために人前でオンエアする練習をやってきたと思ってるの? 今こそ、その成果を出すときじゃない」
「これは関係ないと思うけど……」
真雪が列から外れようとするのを、明夏は懸命に止めた。
そして、列は進んでいき、とうとう二人の番になった。
「まずは私から行くから。真雪も私のあとで、ちゃんとリングに上がってね」
そう言って、明夏がリングに上がる。
どうしよう。
今ならまだ引き返せる。
でも、逃げちゃだめだ。逃げちゃだめだ。
真雪はどきどきしすぎて、明夏の声が耳に入ってこなかった。
「ふっふっふ。全勝無敗の俺に勝てるかな? 生まれながらに授かった特殊能力のおかげで、この学校の英雄とあがめられているこの俺に」
「ふん、おめでたい人ね。そんな力なんて、なんの意味もないわ」
「なに? 俺は誰にも真似できない特別な人間なんだぞ。生まれながらにして、一度もじゃんけんで負けたことがないという最強のじゃんけん力がある」
「力なんてものは、努力して、自ら磨き上げていくもの。その力とは、自分の弱さに勝つ力なのよ! あなたみたいに何もせずに得た能力なんて、何の意味もない!」
会場がどっとわいた。
どこかで聞いたことのあるような明夏の台詞が、とてもかっこよかったからだ。
「さあ、盛り上がったところで、両者ともじゃんけんの準備をしてください」
二人がそれぞれのコーナーについた。
「明夏ちゃん、きっと勝てるから。応援してるよ!」
さっきまで緊張して何も言えなかった真雪だが、いつの間にかセコンド役になって明夏を激励している。
「まかせて。あんな奴には絶対に負けないんだから」
明夏も真雪に向かって、ピースサインをみせた。
「さあ、両者こちらへ」
レフェリーの声で、明夏とじゃんけん王はリングの中央へ。
「それでは、試合を開始します」
緊張の一瞬。
みんなまばたきもせずに、リングの中央を見つめている。
「ふふふ。俺の特殊能力は予知。お前がじゃんけんで出す手は、すでにわかっているのだ」
「それはどうかしらぁ? 予知できない未来だってあるのよ」
「言ってくれる。勝負だ!」
二人の気合いはマックスまで高まっている。
「それでは、じゃんけんを始めたいと思います」
レフェリーの声に、いっそう場内の緊張感が増した。
「じゃんけん……」
明夏が構えた。
じゃんけん王は髪を逆立てて、体が金色に輝いていた。
なんだ、このプレッシャーは!?
圧倒的なオーラを前に、明夏の集中力が少し下がった。
「ぽん!」
レフェリーの声に、明夏はあわてて手を出す。
「さあ、挑戦者の出した手はチョキ、じゃんけん王は……グーだ! やった! じゃんけん王、これで999連勝! ついに1000連勝に王手をかけた!」
「ふふっ。口だけは威勢がよかったな。世の中楽してオレツエーが正義。努力なんてそんな古い言葉では、誰にも振り向かれないぜ」
「あんたなんか、いつかぜったいに後悔するんだからね!」
明夏はかなり悔しがっていた。
「文香も言ってたけど、真雪、放送部に入っちゃいなよ。案外楽しそうじゃない」
「明夏ちゃんはどうするの?」
「私? いやー、改めてレトロゲーム部に入部しないかって誘われててさー。そっちに行こうかと思って」
「そっか……放送部には入らないんだ」
もし真雪が放送部に入ったら、明夏とは違う部になってしまう。
それはちょっといやだなと思った。
「……私もレトロゲーム部に入ろうかな」
真雪が言うと、
「本当? 真雪が入ったらたぶん人気出るよ。真雪目当てで、男がわんさか寄って来るかも」
「そんなことないよ。それを言ったら明夏ちゃんだっているし」
「私? 私はだめ。男の子からあんまり人気ないんだよね。よくゲーム機壊すし」
「それでよくレトロゲーム部に誘われてるね……」
「やっぱゲームが上手だからでしょ? この間の校内レトロゲーム大会で、準優勝だったんだよ」
「知らなかった。いつの間にそんな大会が……」
「で、真雪はレトロゲーム部に入る?」
「……やっぱやめとく」
真雪はものすごくゲームが下手だった。
そんな話をしているうちに、
「あ、もうすぐ学食(仮)入れそうだよ」
列がどんどん進んでいき、真雪と明夏はようやく学食(仮)の中に入ることができた。
学食(仮)の中では、プロレスやボクシングで使うような、ロープに囲まれた特設リングがあり、そのリング上でじゃんけんが繰り広げられていた。
王者のじゃんけん王は、金の王冠に真紅のマント、おまけにチャンピオンベルトまでしている。
「うげっ。いくら演出したいからって、あれはちょっとやりすぎじゃないの? 見てるこっちが恥ずかしくなる」
「すごいよね。じゃんけん王、本当にチャンピオンみたいだよ」
「まあ、いちおうじゃんけんではチャンピオンなんだけどね」
会場には、多くの見物客もいる。
その前で、挑戦者は一人ずつリングに上がっては、じゃんけん王と勝負しているようだった。
「じゃーんけーんぽーん!」
レフェリー(じゃんけん王の取り巻き)の声で、じゃんけんをする。
そして、
「挑戦者はグー。対して、じゃんけん王はパーだ! またもやじゃんけん王の勝利~!」
会場は一斉にわきあがる。
負けた挑戦者は、とぼとぼとリングから降りていった。
それを見て、真雪のモチベーションは一気に下がっていった。
「……あの、明夏ちゃん?」
「ん? どしたの?」
「これ、挑戦者って一人ずつあそこに上がるから、すごく目立つんですけど……。私、やっぱりやめておこうかな……」
「真雪。何のために人前でオンエアする練習をやってきたと思ってるの? 今こそ、その成果を出すときじゃない」
「これは関係ないと思うけど……」
真雪が列から外れようとするのを、明夏は懸命に止めた。
そして、列は進んでいき、とうとう二人の番になった。
「まずは私から行くから。真雪も私のあとで、ちゃんとリングに上がってね」
そう言って、明夏がリングに上がる。
どうしよう。
今ならまだ引き返せる。
でも、逃げちゃだめだ。逃げちゃだめだ。
真雪はどきどきしすぎて、明夏の声が耳に入ってこなかった。
「ふっふっふ。全勝無敗の俺に勝てるかな? 生まれながらに授かった特殊能力のおかげで、この学校の英雄とあがめられているこの俺に」
「ふん、おめでたい人ね。そんな力なんて、なんの意味もないわ」
「なに? 俺は誰にも真似できない特別な人間なんだぞ。生まれながらにして、一度もじゃんけんで負けたことがないという最強のじゃんけん力がある」
「力なんてものは、努力して、自ら磨き上げていくもの。その力とは、自分の弱さに勝つ力なのよ! あなたみたいに何もせずに得た能力なんて、何の意味もない!」
会場がどっとわいた。
どこかで聞いたことのあるような明夏の台詞が、とてもかっこよかったからだ。
「さあ、盛り上がったところで、両者ともじゃんけんの準備をしてください」
二人がそれぞれのコーナーについた。
「明夏ちゃん、きっと勝てるから。応援してるよ!」
さっきまで緊張して何も言えなかった真雪だが、いつの間にかセコンド役になって明夏を激励している。
「まかせて。あんな奴には絶対に負けないんだから」
明夏も真雪に向かって、ピースサインをみせた。
「さあ、両者こちらへ」
レフェリーの声で、明夏とじゃんけん王はリングの中央へ。
「それでは、試合を開始します」
緊張の一瞬。
みんなまばたきもせずに、リングの中央を見つめている。
「ふふふ。俺の特殊能力は予知。お前がじゃんけんで出す手は、すでにわかっているのだ」
「それはどうかしらぁ? 予知できない未来だってあるのよ」
「言ってくれる。勝負だ!」
二人の気合いはマックスまで高まっている。
「それでは、じゃんけんを始めたいと思います」
レフェリーの声に、いっそう場内の緊張感が増した。
「じゃんけん……」
明夏が構えた。
じゃんけん王は髪を逆立てて、体が金色に輝いていた。
なんだ、このプレッシャーは!?
圧倒的なオーラを前に、明夏の集中力が少し下がった。
「ぽん!」
レフェリーの声に、明夏はあわてて手を出す。
「さあ、挑戦者の出した手はチョキ、じゃんけん王は……グーだ! やった! じゃんけん王、これで999連勝! ついに1000連勝に王手をかけた!」
「ふふっ。口だけは威勢がよかったな。世の中楽してオレツエーが正義。努力なんてそんな古い言葉では、誰にも振り向かれないぜ」
「あんたなんか、いつかぜったいに後悔するんだからね!」
明夏はかなり悔しがっていた。