第82話 新生オンエア部、始動!

文字数 2,914文字

 オンエア部をもう一度最初からやりたい!
 真雪の願いは、明夏、日菜、樹々、西瓜、四人の心に通じた。

 そして今日。
 はじめてオンエア部の五人が集まった。

 五人はいま、学校の視聴覚室にいる。

「……ねえ真雪。見せたいビデオってなに? ゲーム関係?」
「日菜はお笑いのが見たいでしゅりん」
「真雪さん、どういったものを見せてくれるのかしら。楽しみだわ」
「やっぱり私は、アクション映画とか見てみたいね」

 みんなの意見は、ばらばらだった。
 他の四人が待っている間、真雪は映像を流す準備をしていた。

「えーっと……今日みんなに見せたいものは、これです」

 手に持っていたビデオテープをみんなに見せる。

「オンエア部の活動記録です。これは昔のオンエア部の活動が見られるビデオで、みんなにも見て欲しいと思って、勝手に借りてきました」

 真雪が言うと、

「なるほど。これを見て真雪がやる気に」
「おおっ、それは日菜も見てみたいザンスよ」
「勝手に借りてきたってところが気になるけど……興味はあるわ」
「へえー、面白そうじゃん」

 みんな興味をもってくれたみたいだった。
 その様子を見て、真雪は少しほっとした。

「では、上映会を始めたいと思います」

 みんなからの拍手がわき起こる。
 真雪はちょっと照れくさかった。

 ビデオデッキにテープを入れて、再生ボタンを押す。
 テレビに映像が映った。


 それは、学校のグラウンドに建てられた、特設ステージ。
 マイクを持った一人の女子生徒が、そのステージの上で話をする所から始まった。

「はい。今日のオンエア部は、学校のアイドルごうちゃんの単独ライブでーす」

 進行役はオンエア部員の女子生徒。
 ステージがどんどんズームアップされる。

「それじゃあ、みんなで呼んでみましょう。『ごうちゃーん!』さあ、ごうちゃんの登場でーす!」

 ステージの脇から、アイドル衣装の人が出てきた。
 それは、女装した男子生徒。これもオンエア部員だった。

「はい、ごうで~っす! みんな、元気ぃ~?」

 客席からは、笑い声や悲鳴、歓声などがたくさん入り乱れていた。
 すごく盛り上がっているように見える。

「では、ごうちゃんに歌ってもらいましょう。音楽スタート!」
「みんな、今日は盛り上がっていこうねぇ~ん!」
「うお~!」
「きゃー!」
「あ・な・た・の・よこがお~」

 ごうの歌は決してうまいとは言い切れないが、会場はすごく盛り上がって楽しそうだった。
 ライブが終わると、真雪は停止ボタンを押した。

「あの……真雪さん。……これ、本当にオンエア部なの?」

 樹々がひきつった顔で聞いた。

「はい。昔のオンエア部は、ラジオ番組っぽいことの他に、テレビ番組っぽいことをしていたようです。『オンエア』は番組を放送中、放送することという意味なので、これが本当のオンエア部の姿だったと思われます」

 真雪はノートに書いてきた文章をそのまま読んだ。

「いつの間にか、オンエア部の活動はラジオ主体になっていき、放送部と同視されても反論できない……ええっと……そういうことになってしまいましたとさ。おしまい」

 途中でわからなくなったので、最後は昔話のような語尾になってしまった。

「ほえー、すごいにょるね。でも、すっごく面白そうにゅす」
「あのアイドル……放送部のゴブなら喜んでやってそう」

 日菜と明夏の評価はいいようで、

「ふぅん。これはこれは」

 西瓜先輩はにやにやしながらも、よくわからない感想だった。

「……では、二本目にいってみましょう」

 真雪がテープを入れ替える。
 そして、二本目の再生ボタンを押した。

 映った映像は、今まで真雪たちもよく見てきた光景。
 今ではもう見ることのできない、にぎやかな学食の風景だった。

「わっ、学食だ。……でも、内装がすごく新しい。この時はまだ、できたばっかりだったのかな」

 真雪もこのテープは初めて見た。

 学食は今と同じで、すごく人の声が飛び交っていた。
 その中で、ひときわ目立っている人の集まっている場所があった。
 カメラがその場所に近づいていき、人混みを分けてその中心を映し出した。すると、

「あっ! これは!」
「いいっ? こんなことって」
「うっ……なんだか練習を思い出した」
「えっ、みんな一斉に驚いてどうしたの?」
「おおっ! これは偶然にょるす!」

 西瓜以外の人は、この映像を見て驚いていた。
 そこには、真雪たちがやろうとしていたことを、実際にやっていた映像があった。

「……公開生オンエアだ!」

 そこには、テーブルの上にマイクとラジカセが置かれており、食事をする人はもちろん、それを見に来ただけの人も多かった。
 トークをして音楽を流すという、今のオンエア部にもあった形のスタイル。だが、みんな面白がって集まってきていて、誰も聞いていない今のオンエア部とは大違いだった。

「……あったんだ、こういうの。それに、みんな楽しそう」
「そうね。これこそが、私たちが目標としていた姿だわ」

 公開生オンエアは昼休みの半分以上、長い時間続いた。
 そして、見ていた生徒たちに惜しまれながら終了していく姿は、感動すら覚えた。

 それを見終わったあと、五人全員がしばらく何もしゃべらなかった。

「……すごいね、昔のオンエア部って」

 自然に出てきた言葉だった。
 その感想は、他のみんなも同じだったようで、

「面白いね。こういう部活なら、毎日でも出たいって思うよ」
「本当かしら。西瓜のことだから、すぐに飽きて違う部活とかの助っ人やってそう」
「いいや、私は続けるね。こういうオンエア部だったら、何でもありって感じが私には合ってるよ」

 樹々と西瓜、二人とも楽しそうに笑っている。

「ねえ、真雪はこれからこういう活動をするつもりなの?」

 明夏に聞かれると、

「うん。これよりも、もっと楽しくて面白いものを、つくっていけたらなあって。学食で樹々先輩のオンエアを聞いて最初に感じた気持ち。……それってさ、みんなで共有できる、こういう時間に憧れてたんだと思う」

 真雪はそう答えた。
 すると、明夏はぷぷっと吹き出して笑ってしまう。

「ひどーい! 人が真面目に言ってるのに!」
「いや~、ごめんごめん。私にとっては、真雪の口からそういう言葉が出てくることがいちばん面白いよ」
「ぶぅ~」
「……でも、私もやってみたくなったな。こういう部活」
「え? 明夏ちゃん、本当?」
「うん。真雪の面白いところを、これからたくさん見られると思うとすごくわくわくする」
「それって、部じゃなくて私が面白そうってことだよね……」

 真雪はちょっと複雑な気持ちだった。

「ゆきちゃんどんまい。日菜もすっごくやる気が出てきたっすよ」
「本当? 日菜ちゃん、ありがとう!」
「普段の大人しいゆきちゃんとのギャップが見れるオンエア部は、日菜も見てみたいにょろ!」
「日菜ちゃんまで!?
「ちなみに、私も見てみたいわね」
「うんうん。真雪ちゃん、本当に面白いよね」
「樹々先輩と西瓜先輩まで私が面白そうって……。もういいです」

 真雪は、なんだかどうでもよくなってきた。


 それあと、五人でこれからの活動についての話し合いが行われた。
 これが新生オンエア部(非公認)、活動のはじまりだった。
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登場人物紹介

真雪(まゆき)


主人公。

ちょっと人見知りする高校一年生。

明夏(めいか)


真雪の親友。

活発でレトロゲームが好き。

日菜(ひな)


真雪のクラスメイト。

ちょっと変な性格で語尾が変。特技は自己流の落語。

樹々(じゅじゅ)


オンエア部の部長。

いつも冷静でクールな先輩。

メロン先輩


真雪に親切にしてくれる謎が多い先輩。

自由気ままな人。

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