第53話 樹々先輩の勉強部屋
文字数 2,353文字
「わあ、ここが樹々先輩の家。大きいな~」
「すごいでっすー。おお、これはこれは。お屋敷みたいな感じにょろ」
真雪は両手を広げて驚いていたが、日菜は虫めがねを持って、家の表札をチェックしていた。
樹々の家は、昔ながらの大きな日本家屋だった。
「二人とも、こっちよ」
二人は、立派な入り口ではなく、家の裏口のような小さなドアがあるところから中に入った。
入ると広い庭園があり、家とは別に、小さな小屋のようなものがある。
二人は、その小屋の前まで連れてこられた。
「……先輩、ここは?」
「ここは勉強部屋。家の離れにあって、いつもここで勉強してるの。ま、最近は自分の部屋としても使ってるかな。家にいると、いろいろと面倒なのよね」
樹々はポケットから鍵を取り出して、ドアを開けた。
「さ、入って」
樹々は先に小屋に入っていった。
二人も樹々のあとに続く。
「……なんだかすごいね。家の外に専用の勉強部屋まであるなんて」
「さすが部長だがや。我々とは、スケールが違うのれすよ」
真雪と日菜が中にはいると、壁一面に本がぎっしりとあるのが見えた。部屋の端の方には勉強机があり、真ん中にはぽつんと小さなちゃぶ台が置いてある。
「難しそうな本がいっぱい。……ふえええ、日菜はめまいがしてきただすよ……」
「すごい部屋……。それにこの本の数。図書室みたい」
「あ、この本? 私のじゃなくて、お父さんの。この部屋は昔、お父さんが書斎として使ってたの。いまはこの家にいないんだけどね」
「すごいお父さんだ……」
真雪は自分のお父さんのことを考えてみた。
お父さんが勉強をしているところは見たことがない。
そのかわり、家に帰ってきてお酒とか飲んでるところはよく見る。
「先輩のお父さんは今どこに行ってるにょすか?」
日菜が聞くと、
「外国よ。研究でいろんな国に行ってるみたい。いまどこにいるかもわからないんだけどね……。私のお父さん、学者なのよ」
「おおっ、それはすごいもす!」
「ほんと。ちょっと憧れる」
「そんなことないわよ。いつもどこかに行ってるから、なかなか会えないし。普通に家に帰ってくるお父さんの方がいいよ」
二人は珍しい部屋の中を、飽きもせずにきょろきょろと見ていた。
樹々はこほんと咳払いをして、改めて二人に向かって言う。
「さ、本題に入るわね。……真雪さんに日菜さん、今からあなたたちに会ってもらいたい人がいます」
「学校にいるときからずっと思ってたんですけど、その会ってもらいたい人って誰ですか?」
「元オンエア部の大先輩。私のおばあちゃんよ」
「なんと! 樹々先輩のおばあちゃんはオンエア部だったのですか? それはとってもあっちょんぶりけ」
「……あの、でもどうして私たちに?」
「おばあちゃんの頃のオンエア部は、まだ放送機材が使えなかった頃のオンエア部だったみたいなの。今でこそオンエア部は放送部と同じようなことをしているけど、元々は全く別の、違った活動をしていたらしいわ」
オンエア部の過去。
真雪は最初から今のような活動でやってきていたと思っていた。
自分の先輩たちが過去にどんな活動をしてきたのか、真雪は今まで考えたことがなかった。
「日菜わかっちゃったっす! その大先輩に、放送機材なしでオンエアするコツみたいなものを教えてもらおうという作戦っすね!」
「ま、そういったところかしら。それに話を聞けば、生オンエアをやりたがらなかった真雪さんも、少しは考え直してくれるんじゃないかと思って」
樹々と日菜は真雪の方を見た。
「え? え? 急にどうしたの?」
じっと見られ続けているのに耐えられなくなり、真雪は赤くなって下を向いてしまった。
「そ、そんなに見られると恥ずかしいです……」
「……前途多難みたいね」
「ゆきちゃん、リラックス。リラックスだひょ」
「そんなこと言われても……」
「とりあえず、おばあちゃんに連絡してみるね。話を聞けば、真雪さんも絶対に何かが変わると思うから」
樹々はスマホを取り出して、それを耳に当てた。
おばあちゃんに電話をしているのだろう。
「………………あ、おばあちゃん? 私、樹々。………………うん、元気。………………あのさ、おばあちゃん今時間ある? 部活の部員を連れてそっちに行こうと思ってるんだけど………………え、旅行? いつ帰ってくるの? …………………………ふーん、わかった。じゃあ、また今度ね。うん、それじゃあ」
樹々は電話を切った。
そのまま、持っていたスマホを絨毯の上に置く。
「おばあちゃん、いま旅行に行ってるみたい。しばらくは帰ってこないらしいわ」
「それじゃあ今日はもう」
「ええ、残念だけど会えないわね。困ったわ、どうしよう」
樹々先輩のおばあちゃんが来たら、話だけでは終わらない。
きっと何かやらなければいけないと思っていた真雪は、少しほっとした表情になった。
「本当に残念だわ。真雪さんの貧弱な精神を、徹底的に鍛え直してもらおうと思ってたのに」
「先輩……。そんなこと考えていたんですか……」
どうやら、真雪の想像以上のことだったらしい。
「仕方ないわ。今日はここで生オンエアの練習をしましょう」
「練習?!」
「みんな一人ずつ、ここで生オンエアをやってみるの。そして他の人は、その感想を言う。いつもの反省会みたいな感じね。これでどうかしら?」
「で、でも、明夏ちゃんがいないし。こういうのは部員全員揃ったところでやるのがいいと思うので、今日はちょっと……」
「じゃあ、今からめいちゃんもここに呼ぶぴょろ。日菜が電話してみるぴょ」
「あっ、やっぱりいいです。このメンバーでやりましょう!」
真雪はとっさに言った。
明夏に自分の生オンエアを見せたら、しばらくの間はそれをネタにしてからかわれると思うので、それだけは阻止したかった。
「すごいでっすー。おお、これはこれは。お屋敷みたいな感じにょろ」
真雪は両手を広げて驚いていたが、日菜は虫めがねを持って、家の表札をチェックしていた。
樹々の家は、昔ながらの大きな日本家屋だった。
「二人とも、こっちよ」
二人は、立派な入り口ではなく、家の裏口のような小さなドアがあるところから中に入った。
入ると広い庭園があり、家とは別に、小さな小屋のようなものがある。
二人は、その小屋の前まで連れてこられた。
「……先輩、ここは?」
「ここは勉強部屋。家の離れにあって、いつもここで勉強してるの。ま、最近は自分の部屋としても使ってるかな。家にいると、いろいろと面倒なのよね」
樹々はポケットから鍵を取り出して、ドアを開けた。
「さ、入って」
樹々は先に小屋に入っていった。
二人も樹々のあとに続く。
「……なんだかすごいね。家の外に専用の勉強部屋まであるなんて」
「さすが部長だがや。我々とは、スケールが違うのれすよ」
真雪と日菜が中にはいると、壁一面に本がぎっしりとあるのが見えた。部屋の端の方には勉強机があり、真ん中にはぽつんと小さなちゃぶ台が置いてある。
「難しそうな本がいっぱい。……ふえええ、日菜はめまいがしてきただすよ……」
「すごい部屋……。それにこの本の数。図書室みたい」
「あ、この本? 私のじゃなくて、お父さんの。この部屋は昔、お父さんが書斎として使ってたの。いまはこの家にいないんだけどね」
「すごいお父さんだ……」
真雪は自分のお父さんのことを考えてみた。
お父さんが勉強をしているところは見たことがない。
そのかわり、家に帰ってきてお酒とか飲んでるところはよく見る。
「先輩のお父さんは今どこに行ってるにょすか?」
日菜が聞くと、
「外国よ。研究でいろんな国に行ってるみたい。いまどこにいるかもわからないんだけどね……。私のお父さん、学者なのよ」
「おおっ、それはすごいもす!」
「ほんと。ちょっと憧れる」
「そんなことないわよ。いつもどこかに行ってるから、なかなか会えないし。普通に家に帰ってくるお父さんの方がいいよ」
二人は珍しい部屋の中を、飽きもせずにきょろきょろと見ていた。
樹々はこほんと咳払いをして、改めて二人に向かって言う。
「さ、本題に入るわね。……真雪さんに日菜さん、今からあなたたちに会ってもらいたい人がいます」
「学校にいるときからずっと思ってたんですけど、その会ってもらいたい人って誰ですか?」
「元オンエア部の大先輩。私のおばあちゃんよ」
「なんと! 樹々先輩のおばあちゃんはオンエア部だったのですか? それはとってもあっちょんぶりけ」
「……あの、でもどうして私たちに?」
「おばあちゃんの頃のオンエア部は、まだ放送機材が使えなかった頃のオンエア部だったみたいなの。今でこそオンエア部は放送部と同じようなことをしているけど、元々は全く別の、違った活動をしていたらしいわ」
オンエア部の過去。
真雪は最初から今のような活動でやってきていたと思っていた。
自分の先輩たちが過去にどんな活動をしてきたのか、真雪は今まで考えたことがなかった。
「日菜わかっちゃったっす! その大先輩に、放送機材なしでオンエアするコツみたいなものを教えてもらおうという作戦っすね!」
「ま、そういったところかしら。それに話を聞けば、生オンエアをやりたがらなかった真雪さんも、少しは考え直してくれるんじゃないかと思って」
樹々と日菜は真雪の方を見た。
「え? え? 急にどうしたの?」
じっと見られ続けているのに耐えられなくなり、真雪は赤くなって下を向いてしまった。
「そ、そんなに見られると恥ずかしいです……」
「……前途多難みたいね」
「ゆきちゃん、リラックス。リラックスだひょ」
「そんなこと言われても……」
「とりあえず、おばあちゃんに連絡してみるね。話を聞けば、真雪さんも絶対に何かが変わると思うから」
樹々はスマホを取り出して、それを耳に当てた。
おばあちゃんに電話をしているのだろう。
「………………あ、おばあちゃん? 私、樹々。………………うん、元気。………………あのさ、おばあちゃん今時間ある? 部活の部員を連れてそっちに行こうと思ってるんだけど………………え、旅行? いつ帰ってくるの? …………………………ふーん、わかった。じゃあ、また今度ね。うん、それじゃあ」
樹々は電話を切った。
そのまま、持っていたスマホを絨毯の上に置く。
「おばあちゃん、いま旅行に行ってるみたい。しばらくは帰ってこないらしいわ」
「それじゃあ今日はもう」
「ええ、残念だけど会えないわね。困ったわ、どうしよう」
樹々先輩のおばあちゃんが来たら、話だけでは終わらない。
きっと何かやらなければいけないと思っていた真雪は、少しほっとした表情になった。
「本当に残念だわ。真雪さんの貧弱な精神を、徹底的に鍛え直してもらおうと思ってたのに」
「先輩……。そんなこと考えていたんですか……」
どうやら、真雪の想像以上のことだったらしい。
「仕方ないわ。今日はここで生オンエアの練習をしましょう」
「練習?!」
「みんな一人ずつ、ここで生オンエアをやってみるの。そして他の人は、その感想を言う。いつもの反省会みたいな感じね。これでどうかしら?」
「で、でも、明夏ちゃんがいないし。こういうのは部員全員揃ったところでやるのがいいと思うので、今日はちょっと……」
「じゃあ、今からめいちゃんもここに呼ぶぴょろ。日菜が電話してみるぴょ」
「あっ、やっぱりいいです。このメンバーでやりましょう!」
真雪はとっさに言った。
明夏に自分の生オンエアを見せたら、しばらくの間はそれをネタにしてからかわれると思うので、それだけは阻止したかった。