第16話 学食大盛りチャレンジ?
文字数 2,234文字
「あ、来た来た。おーい、真雪!」
学食にあるテーブルの隅のほうから、ひときわ元気な女子生徒が手を振りながら真雪のことを呼んだ。
真雪の友だちでクラスメイトの明夏だった。
真雪は声に気が付いて、明夏のところへ行く。
「明夏ちゃん、待っててくれたんだ」
「待ってた! ……っていうより、まだ食べ終わってないだけなんだけどね」
「こんな時間まで何を食べて……って、すごっ!」
明夏の前には、超大きなお皿に載った、超大盛りのカレーライスがあった。
山盛りという言葉があるが、まさに山のように積まれたごはんだ。
「これでもかなり食べたつもりなんだけど、なかなか減らなくて。真雪も食べるのを手伝ってよ。なんなら、残り全部食べてもいいけど」
「カレーライスは大好きだけど、その量は無理だよ! それにしてもこんなメニュー、この学食にあったんだ。カレー好きの私もまったく知らなかった」
「これぞ噂の、今週限定『超ジャンボカレー』! 私もどんなものなのか、ずっと気になってたからさ、ついに頼んでみたんだよ」
まるで大食いチャレンジをやっているような光景に、真雪はあぜんとしていた。明夏は続けて、
「このメニュー、2000円もするから誰も頼もうとしないんだって。私が初めてって言われて喜ばれたよ」
「だろうね……。2000円の学食メニューとか、普通は誰も頼まないもん」
「うう~、今月のお小遣いがすっからかんになった」
明夏は財布を逆さまにして上下に振りながら言った。
そこまでしてなぜ……と言いかけた真雪だが、なんだか明夏が可哀想に思えてきて言えなくなった。
「それに、さっきまでいろんな人に囲まれてて食べにくかったんだから。写メ撮っていく人とか、新聞部の人からインタビューされたりもう大変」
「大変だったんだね……。じつは私も大変だったんだよ」
部室でさっき起こったことを思い出す。
正直、誰にも聴いててほしくないと思えるようなオンエアの内容だった。
でも、明夏の超ジャンボカレーで学食が騒然となっていたなら、自分のオンエアは誰も聴いてないだろう。
真雪は正直、ほっとした気分だった。
「真雪はお昼まだでしょ? 一緒に食べようよ。一人じゃ食べきるのは無理だから」
「私はいいよ……。そのカレー、量がおおすぎるもん」
「『量が多いけど一人で大丈夫?』 って聞かれたときに、『カレーライスが大好きな友だちと一緒に食べるから大丈夫です!』って言っちゃった。残したら学食のおばちゃん、とっても恐いよ?」
「うっ、……わかった。やっぱり食べる」
真雪は以前、日替わり定食が全部食べきれずに残したとき、こっぴどく怒られたことを思い出した。
この高校の学食は、食べ物の大切さを学ぶ場所でもある。
真雪はカウンターから大きなお皿を借りてきて、ジャンボカレーライスの半分近くを受け持った。
「これだけでも特盛りカレーみたい。すごい迫力……」
「真雪、早く食べよう。昼休みが終わっちゃう」
「私、食べきれるのかな……」
二人は集中して目の前のカレーライスを食べ始めた。
もぐもぐ。
もぐもぐ。
このままでは間に合いそうにないので、真雪は少し食べるペースを上げる。
もぐもぐもぐもぐ。
もぐもぐもぐもぐ。
もう少しだけ、ペースを上げてみる。
もぐもぐもぐもぐもぐもぐもぐもぐも……ぶふぉっ!
真雪はあわてすぎて、思わずむせてしまった。
「…………真雪、大丈夫? 口の中からきらきらした謎の物体を盛大に吐き出しちゃったけど」
「うみゅ、ばいぼーぶ(うん、大丈夫)」
真雪は口をもぐもぐさせながら、いろんなものが散らばっているテーブルをふきんで拭いた。
「真雪ったら、そんなに慌てて食べることないのに」
「はっへ、ふふん、ふふん!(だって、時間、時間!)」
真雪が自分の腕時計を指さしながら言う。
明夏は自分の腕時計の時間を確認した。
「なによ、まだ昼休みは30分くらいあるじゃない」
「ふふほふへへふ! はほほふんしははいほ!(それ遅れてる! あと5分しかないよ!)」
「復活の呪文?」
「ひはーう!(ちがーう!)」
真雪は自分の時計を見せた。
それを見た明夏の顔は、みるみる青ざめていく。
「やばい。このペースじゃ絶対に食べ終わらないじゃん」
「はははひほひへるの!(だから急いでるの!)」
明夏も真雪のように口いっぱいにほおばり始めた。
お互い競い合うようにしているその光景は、本当に大食い選手権のようになってきた。
と、そこへ、
「あんたたち、もうギブアップかい?」
学食を作ってくれているおばちゃんが、二人の横に現れた。
「残ってるカレーライスはタッパーに入れて冷蔵庫に保管しといてあげるから、二人とも放課後取りに来なさい」
そう言うと、手に持っていた大きなタッパーに、あざやかにカレーライスを押し込んでいく。
真雪たちの前のカレーライスはあっという間になくなった。
「食器、片付けとくんだよ」
びしっ!(敬礼)
「はひはほうほはいはふ(ありがとうございます)」
それぞれの感謝の気持ちの表し方で、二人はお礼を言った。
「た、助かった。一時はどうなることかと思ったよ」
「もう、明夏ちゃん。学食であんまり無茶しないでよ。私いっつも学食のおばちゃんに残すなって言われてるんだから」
「ごめんごめん。あ、来週は超ジャンボ素うどんが出てくるらしいよ。真雪、一緒に挑戦してみる?」
「ぜんぜん反省してなーい!」
くだらない話をしながら、二人はいつも通りの感じで教室に戻っていった。
学食にあるテーブルの隅のほうから、ひときわ元気な女子生徒が手を振りながら真雪のことを呼んだ。
真雪の友だちでクラスメイトの明夏だった。
真雪は声に気が付いて、明夏のところへ行く。
「明夏ちゃん、待っててくれたんだ」
「待ってた! ……っていうより、まだ食べ終わってないだけなんだけどね」
「こんな時間まで何を食べて……って、すごっ!」
明夏の前には、超大きなお皿に載った、超大盛りのカレーライスがあった。
山盛りという言葉があるが、まさに山のように積まれたごはんだ。
「これでもかなり食べたつもりなんだけど、なかなか減らなくて。真雪も食べるのを手伝ってよ。なんなら、残り全部食べてもいいけど」
「カレーライスは大好きだけど、その量は無理だよ! それにしてもこんなメニュー、この学食にあったんだ。カレー好きの私もまったく知らなかった」
「これぞ噂の、今週限定『超ジャンボカレー』! 私もどんなものなのか、ずっと気になってたからさ、ついに頼んでみたんだよ」
まるで大食いチャレンジをやっているような光景に、真雪はあぜんとしていた。明夏は続けて、
「このメニュー、2000円もするから誰も頼もうとしないんだって。私が初めてって言われて喜ばれたよ」
「だろうね……。2000円の学食メニューとか、普通は誰も頼まないもん」
「うう~、今月のお小遣いがすっからかんになった」
明夏は財布を逆さまにして上下に振りながら言った。
そこまでしてなぜ……と言いかけた真雪だが、なんだか明夏が可哀想に思えてきて言えなくなった。
「それに、さっきまでいろんな人に囲まれてて食べにくかったんだから。写メ撮っていく人とか、新聞部の人からインタビューされたりもう大変」
「大変だったんだね……。じつは私も大変だったんだよ」
部室でさっき起こったことを思い出す。
正直、誰にも聴いててほしくないと思えるようなオンエアの内容だった。
でも、明夏の超ジャンボカレーで学食が騒然となっていたなら、自分のオンエアは誰も聴いてないだろう。
真雪は正直、ほっとした気分だった。
「真雪はお昼まだでしょ? 一緒に食べようよ。一人じゃ食べきるのは無理だから」
「私はいいよ……。そのカレー、量がおおすぎるもん」
「『量が多いけど一人で大丈夫?』 って聞かれたときに、『カレーライスが大好きな友だちと一緒に食べるから大丈夫です!』って言っちゃった。残したら学食のおばちゃん、とっても恐いよ?」
「うっ、……わかった。やっぱり食べる」
真雪は以前、日替わり定食が全部食べきれずに残したとき、こっぴどく怒られたことを思い出した。
この高校の学食は、食べ物の大切さを学ぶ場所でもある。
真雪はカウンターから大きなお皿を借りてきて、ジャンボカレーライスの半分近くを受け持った。
「これだけでも特盛りカレーみたい。すごい迫力……」
「真雪、早く食べよう。昼休みが終わっちゃう」
「私、食べきれるのかな……」
二人は集中して目の前のカレーライスを食べ始めた。
もぐもぐ。
もぐもぐ。
このままでは間に合いそうにないので、真雪は少し食べるペースを上げる。
もぐもぐもぐもぐ。
もぐもぐもぐもぐ。
もう少しだけ、ペースを上げてみる。
もぐもぐもぐもぐもぐもぐもぐもぐも……ぶふぉっ!
真雪はあわてすぎて、思わずむせてしまった。
「…………真雪、大丈夫? 口の中からきらきらした謎の物体を盛大に吐き出しちゃったけど」
「うみゅ、ばいぼーぶ(うん、大丈夫)」
真雪は口をもぐもぐさせながら、いろんなものが散らばっているテーブルをふきんで拭いた。
「真雪ったら、そんなに慌てて食べることないのに」
「はっへ、ふふん、ふふん!(だって、時間、時間!)」
真雪が自分の腕時計を指さしながら言う。
明夏は自分の腕時計の時間を確認した。
「なによ、まだ昼休みは30分くらいあるじゃない」
「ふふほふへへふ! はほほふんしははいほ!(それ遅れてる! あと5分しかないよ!)」
「復活の呪文?」
「ひはーう!(ちがーう!)」
真雪は自分の時計を見せた。
それを見た明夏の顔は、みるみる青ざめていく。
「やばい。このペースじゃ絶対に食べ終わらないじゃん」
「はははひほひへるの!(だから急いでるの!)」
明夏も真雪のように口いっぱいにほおばり始めた。
お互い競い合うようにしているその光景は、本当に大食い選手権のようになってきた。
と、そこへ、
「あんたたち、もうギブアップかい?」
学食を作ってくれているおばちゃんが、二人の横に現れた。
「残ってるカレーライスはタッパーに入れて冷蔵庫に保管しといてあげるから、二人とも放課後取りに来なさい」
そう言うと、手に持っていた大きなタッパーに、あざやかにカレーライスを押し込んでいく。
真雪たちの前のカレーライスはあっという間になくなった。
「食器、片付けとくんだよ」
びしっ!(敬礼)
「はひはほうほはいはふ(ありがとうございます)」
それぞれの感謝の気持ちの表し方で、二人はお礼を言った。
「た、助かった。一時はどうなることかと思ったよ」
「もう、明夏ちゃん。学食であんまり無茶しないでよ。私いっつも学食のおばちゃんに残すなって言われてるんだから」
「ごめんごめん。あ、来週は超ジャンボ素うどんが出てくるらしいよ。真雪、一緒に挑戦してみる?」
「ぜんぜん反省してなーい!」
くだらない話をしながら、二人はいつも通りの感じで教室に戻っていった。