第15話 真雪の初オンエア!

文字数 2,408文字

 高校の昼休み。
 授業という難関をくぐり抜けた学生にとって、これ以上ない憩いの時間。
 その昼休みの時間にも、ひっそりと活動している部活動がある。

「オンエア部」
 オンエア部は昼休みだけ、学食(学生食堂)での放送活動が認められている部活動だ。
 だが、学食での放送はいつも生徒たちの話し声によってかき消され、放送自体あることを知らない生徒も多い。

 高校で部活動デビューを果たした真雪は、オンエア部に入部することになった。

 ここは学食と同じ建物の中にある、第二放送室。
 真雪は、初めて一人でオンエアをすることとなった。
 言わば、オンエア部の活動デビュー戦。
 いつになく少し硬い表情で、放送マイクの前に座っていた。

「えーっと、放送を始めるときは……たしかこのスイッチを入れるんだよね。あとは……どうするんだっけ? あ~、こんなことになるなら、使い方をもっと細かく聞いておけばよかった」

 真雪はどうしたらいいのかわからずに、あたふたとしていた。
 昼休みが始まってすぐにここにやってきた。
 だが、今はもう昼休みの半分くらいが終わろうとしている。

「早くしないと間に合わない~! どうしよどうしよどうしよ!」

 真雪が慌てて部室内を駆け回る。
 地面に置かれた資材箱に足をつまづきながらも、さらに駆け回って考える。

 なにかヒントになるようなものはないのかな。
 説明書とか。

 真雪が落ち着いて辺りを見回すと、テーブルに「機材の操作方法」と書いてある古いノートが置いてあった。

「あった! これだ!」

 真雪はいそいでノートを手にとって、最初のページをめくってみる。

 空白。

 次のページをめくってみる。

 空白。

「このノート、何も書いてない……」

 少し不安になりながらも、その次のページをめくってみた。

 ぺらっ。

 オンエア部心得その一
 機材は大切に扱うべし

 ぺらっ。

 心得その二
 機材は正しい扱い方をするべし

「操作方法じゃなくて、心得とか書いてる……」

 少し不安になりつつも、ページをめくってみる。

 ぺらっ。

 心得その三
 機材の操作方法は次のページから書いてあるとおりに行うべし

「やった。これで操作方法がわかる!」

 真雪は焦る気持ちで、次のページを見てみた。

 ぺらっ。

 おしまい。製作:星空中央高校オンエア部

「あれ? ……終わっちゃったよ! どこにも操作方法が書いてない!」

 よくみると、ページの真ん中に破られた後らしき物があった。
 真雪は丁寧に一枚ずつめくってみたが、他は真っ白なページばかり。
 そして、最後のページにはこういうことが書かれていた。

 事実は小説よりも奇なり。

「なんだろうこれ。意味がわからないけど、ちょっと怖い」

 真雪はノートを元の場所に戻して、時計をちらっと見る。
 いつの間にか、昼休みの時間は残り少なくなっている。

「……こうなったら、やるしかない!」

 真雪は、うろ覚えの知識で、機械を扱ってみることにした。

 まずは、備え付けのヘッドホンを頭に装着する。
 ちょっと気持ちが高ぶってきた。

「真雪、いきまーす!」

 機械の電源らしきところを押してみると、あちこちでランプが点灯し始める。

「よし! たぶんここまでは合ってる! ……あとは、たしかこのスイッチを入れれば放送ができるはず!」

 真雪はスイッチを入れた。
 すると、「ポッ」とマイクの入る音がして、あちこちでランプが点灯し始めた。

「やっぱりこのボタンだったんだ。よかった~。一時はどうなることかと思ったけど、なんとかなったみたい」

 真雪は嬉しさのあまり、その場で拍手をした。
 しかし、よく見るとすでにオンエアランプが点灯している。

「え? もしかしてもうオンエアが始まっちゃってるの!? え、えーと」

 どうしよう、どうすればいいんだろう。
 わからないけど、確かこんな感じで。

 目の前にあるレコードプレーヤーのようなものに手を添えた。
 そして、それを前後に動かしてDJっぽい動きをする。

 ちなみに、音はまったく出ていない。

「ハァイ、みんな元気にしてたかな? 今日もお昼のオンエア部の放送が始まっちゃうよ? 準備はいいかい?」

 すべて想像で、ちょっとノリのいいDJっぽい口調で話してみた。
 その口調とは正反対に、真雪の顔は恥ずかしさで真っ赤になっている。

「それじゃあ、最初の曲から始めてみようぜ。チェケラ!」

 準備していた音楽を流して、急いでマイクの電源を切った。

「恥ずかしかった~!」

 羞恥心と一種の達成感が相まって、真雪はデスクに顔を伏せて足をばたばたさせる。

「……」

 しばらくすると、流していた音楽が終わった。

「ただいま聴いていただいた曲は、レッツゴーオンエア部でした」

 今度は冷静な口調で言った。
 さっきノリノリDJの真似をしたことを少し後悔している。

「今日のお昼のオンエアはこれで終了です。また明日」

 時間にして5分くらい。
 今日の短いオンエアはここで終わった。

 真雪はほっと一息。
 しばらくして落ち着いたあと、ある重大な失敗に気が付いた。

「あ、マイクの電源切ったままだった! これって曲流したあと。そのまま何も言わないでオンエアが終わったってことなのかな」

 真雪はちょっと青ざめた。
 開始のノリのままオンエアが終わったことに、ますます恥ずかしさが募っていく。
 慌ててマイクの電源を入れなおそうと思ったが、ふと手が止まった。

「……さすがにもう遅いよね。今日は練習、練習だったんだよ、うん」

 オンエア部の放送は、学食の人の声がうるさすぎてほとんど聞こえていない。
 部の存在自体もあまり知られていないので、真面目に放送を聴いている人はいないと思われている。

 そして、今日は練習だと自分に言い聞かせて、今日の放送はこれでよしとした。

 ぎゅるるる~。

 真雪のお腹がなった。

「お腹が空いたなぁ。お昼食べてこようっと」

 真雪は部室を後にして、隣にあるにぎやかな学食のほうに向かって行った。
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登場人物紹介

真雪(まゆき)


主人公。

ちょっと人見知りする高校一年生。

明夏(めいか)


真雪の親友。

活発でレトロゲームが好き。

日菜(ひな)


真雪のクラスメイト。

ちょっと変な性格で語尾が変。特技は自己流の落語。

樹々(じゅじゅ)


オンエア部の部長。

いつも冷静でクールな先輩。

メロン先輩


真雪に親切にしてくれる謎が多い先輩。

自由気ままな人。

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