第8話 樹々と西瓜
文字数 1,613文字
ここは二年生の教室。
休み時間になると、樹々(じゅじゅ)は鞄の中から音楽プレーヤーを取り出して、イヤホンを耳に付けた。
それから、つい最近プレーヤーに入れた洋楽のアルバムを選曲する。
再生ボタンを押すと、両耳に軽快な音楽が流れてくる。
♪~♪~
♪♪~♪~
あ、この曲いい。
いつか、お昼の放送で流してみようかな。
目をつむって手足でリズムをとり、息苦しい教室から広い別世界へと旅立ったように自分の世界に浸っている。
短い休憩時間、そんな時間がとても心地よかった。
と、そこへ、
とんとん。
肩を触られる感じがあった。
イヤホンを外して振り向くと、後ろの席には笑顔の女子生徒が座っている。
彼女はオンエア部の部員だが、最近はまったく部に顔を出していなかった。
活発で、短いポニーテールの髪が特徴。
いつもどこにいるのかわからない、神出鬼没な樹々の同級生。
「よっ、こんな時間まで部活の下準備? やっぱり樹々部長はまじめだぁ」
久しぶりに会ったにもかかわらず、気さくに声をかけられた。
「西瓜(すいか)。最近部活に来てないけど、どうかしたの?」
西瓜と言われた女子生徒は、申し訳なさそうな顔をして頭をかいた。
「あー、それがさ。この間の中間テストの成績があまりよくなくって。ずっと補習を受けてたんだよ、まいったね~」
「そうだったんだ。1年生のころ、西瓜は私よりも成績がよかった気もするけど。ちなみに、私は赤点なかったよ?」
「あ、ううう」
じーっと怪しげに樹々から見られている西瓜は、急いで話題を変える。
「そ、そういえばオンエア部に入部希望者が来たんだって?」
「うん、一年生が二人。でも、もう部員は募集してないって断っちゃった」
「えー、もったいない。部員が増えるチャンスなのに。いつも私たち二人だけで寂しいねって言ってたじゃない」
「そうなんだけどね。入部してもすぐに廃部になっちゃうんだから、二人がかわいそうかなと思って」
「別にいいんじゃない? それを知ってて入部してくれるんだったら、廃部になっても未練はないはずだよ」
「それと、放送部とのもめごとに巻き込みたくないのよ」
「……そっちが本当の理由ですか。ま、樹々らしくまじめすぎる考え方だよね」
「そうかな?」
「うん、私だったらそんなのかまわないで入部してもらってたと思う。放送部とのことなんて、その二人には関係ないよ」
「……」
チャララ~――。
休み時間の終わりを告げる音楽が鳴った。
「あ、ちょっと用事を思い出した。樹々、今日のお昼は私が適当にオンエアするから。ゆっくり食事してていいよ」
西瓜は椅子から立ち上がると、廊下のほうに出て行く。
「うん。久々の西瓜の元気な放送、楽しみにしてるね」
「期待されるほどのものじゃないよ。あ、さっきの補習の話は冗談だから、本気にしないでね? それじゃあ」
突風のように、あっという間にいなくなってしまう。
「そんなことわかってたよ……。部員の西瓜は授業が始まるのに教室から出て行ってしまうし。あーあ、だからオンエア部はまじめに活動してないって周りに言われるんだよ」
一人になって、樹々はさっき西瓜に言われたことを思い返していた。
樹々らしくまじめすぎる考え方だよね。
「…………まじめすぎる、か」
私の考えすぎだったのかな。
せっかくオンエア部に入ってくれそうな人が現れたのに、オンエア部の良さをわかってくれる仲間ができそうだったのに。
「……」
そう思いながら、樹々は英語の教科書とノートを机の上に出しておく。
そして、しばらくすると、先生が教室に入ってきた。
「さあ、授業を始めるサボ。まずは出席とるサボ」
「?」
先生が教室にいない生徒を確認している間、樹々は違和感を覚えた。
あれ、先生が違う?
周囲を見渡すと、みんなの机の上には化学の教科書やノートが並べられている。
「……あ、間違えた」
樹々は顔を赤くして、鞄から化学の教科書とノートを取り出した。
休み時間になると、樹々(じゅじゅ)は鞄の中から音楽プレーヤーを取り出して、イヤホンを耳に付けた。
それから、つい最近プレーヤーに入れた洋楽のアルバムを選曲する。
再生ボタンを押すと、両耳に軽快な音楽が流れてくる。
♪~♪~
♪♪~♪~
あ、この曲いい。
いつか、お昼の放送で流してみようかな。
目をつむって手足でリズムをとり、息苦しい教室から広い別世界へと旅立ったように自分の世界に浸っている。
短い休憩時間、そんな時間がとても心地よかった。
と、そこへ、
とんとん。
肩を触られる感じがあった。
イヤホンを外して振り向くと、後ろの席には笑顔の女子生徒が座っている。
彼女はオンエア部の部員だが、最近はまったく部に顔を出していなかった。
活発で、短いポニーテールの髪が特徴。
いつもどこにいるのかわからない、神出鬼没な樹々の同級生。
「よっ、こんな時間まで部活の下準備? やっぱり樹々部長はまじめだぁ」
久しぶりに会ったにもかかわらず、気さくに声をかけられた。
「西瓜(すいか)。最近部活に来てないけど、どうかしたの?」
西瓜と言われた女子生徒は、申し訳なさそうな顔をして頭をかいた。
「あー、それがさ。この間の中間テストの成績があまりよくなくって。ずっと補習を受けてたんだよ、まいったね~」
「そうだったんだ。1年生のころ、西瓜は私よりも成績がよかった気もするけど。ちなみに、私は赤点なかったよ?」
「あ、ううう」
じーっと怪しげに樹々から見られている西瓜は、急いで話題を変える。
「そ、そういえばオンエア部に入部希望者が来たんだって?」
「うん、一年生が二人。でも、もう部員は募集してないって断っちゃった」
「えー、もったいない。部員が増えるチャンスなのに。いつも私たち二人だけで寂しいねって言ってたじゃない」
「そうなんだけどね。入部してもすぐに廃部になっちゃうんだから、二人がかわいそうかなと思って」
「別にいいんじゃない? それを知ってて入部してくれるんだったら、廃部になっても未練はないはずだよ」
「それと、放送部とのもめごとに巻き込みたくないのよ」
「……そっちが本当の理由ですか。ま、樹々らしくまじめすぎる考え方だよね」
「そうかな?」
「うん、私だったらそんなのかまわないで入部してもらってたと思う。放送部とのことなんて、その二人には関係ないよ」
「……」
チャララ~――。
休み時間の終わりを告げる音楽が鳴った。
「あ、ちょっと用事を思い出した。樹々、今日のお昼は私が適当にオンエアするから。ゆっくり食事してていいよ」
西瓜は椅子から立ち上がると、廊下のほうに出て行く。
「うん。久々の西瓜の元気な放送、楽しみにしてるね」
「期待されるほどのものじゃないよ。あ、さっきの補習の話は冗談だから、本気にしないでね? それじゃあ」
突風のように、あっという間にいなくなってしまう。
「そんなことわかってたよ……。部員の西瓜は授業が始まるのに教室から出て行ってしまうし。あーあ、だからオンエア部はまじめに活動してないって周りに言われるんだよ」
一人になって、樹々はさっき西瓜に言われたことを思い返していた。
樹々らしくまじめすぎる考え方だよね。
「…………まじめすぎる、か」
私の考えすぎだったのかな。
せっかくオンエア部に入ってくれそうな人が現れたのに、オンエア部の良さをわかってくれる仲間ができそうだったのに。
「……」
そう思いながら、樹々は英語の教科書とノートを机の上に出しておく。
そして、しばらくすると、先生が教室に入ってきた。
「さあ、授業を始めるサボ。まずは出席とるサボ」
「?」
先生が教室にいない生徒を確認している間、樹々は違和感を覚えた。
あれ、先生が違う?
周囲を見渡すと、みんなの机の上には化学の教科書やノートが並べられている。
「……あ、間違えた」
樹々は顔を赤くして、鞄から化学の教科書とノートを取り出した。