第94話 教室まであと少し

文字数 1,362文字

「ありがとうございました。これで一人で教室まで歩いていけます」

 四階まで支えて連れてきてもらった真雪は、レトロゲーム部員の二人にお礼を言った。

「どういたしましてっす。楽しいオンエアを期待してるっすよ」
「はい、きっとやり遂げてみせます!」
「いい返事で安心したっす。さあ、我々は明夏殿の応援に戻るっすよ。そろそろゲームが始まってる頃っす」
「あ、部長。待ってくれでドド!」

 レトロゲーム部の二人は、階段下の踊り場に戻っていった。

 ありがとうございます。
 ……でも、あの二人はすんなりと四階まで来てたけど、関所部の人たちと戦わなくてよかったのかな。

 真雪は疑問に思ったが、今はそういうことを考えてる暇はなかった。

「こんなところでじっとしてる場合じゃなかった。みんなのためにも、早く教室に行かなくちゃ」

 もうすぐ教室にたどり着く。

 文化祭の出し物。
 初めての公開オンエア。
 
 真雪はいろいろな意味でどきどきしながら歩いていた。

「あっ、雪だるまが歩いてる!」
「握手して、握手」

 雪だるまの着ぐるみがめずらしいためか、ここでまたもや通行人たちに囲まれてしまった。
 教室まではほんの数メートル。
 あとわずかのところで、真雪の前に障害が出てきた。

「どいてください。教室に行かないと」

 真雪が言っても人はどんどん増えるばかり。
 ただでさえ着ぐるみは動きにくいのに、人が集まって身動きがとれなくなってしまった。

 どうしよう。このままじゃ教室に行けない!
 こんなことなら教室で雪だるまになればよかったのかも……。

 雪だるまがこんなに人気あるなんて、オンエア部の誰も予想できなかった。
 困っていると、マイクを持った人たちが、真雪の前に現れた。

「すいません、どいてくださーい。放送部でーす」

 放送部部長の千風と部員たちだった。
 千風がマイクを持っていて、部員たちが大きビデオカメラで撮影している。

「おおっとこれは、偶然雪だるまさんが通りかかったみたいです。ちょっとインタビューしてみましょう!」

 千風は、人混みをかきわけて真雪の近くまでやってきた。
 さっきまで真雪のそばにいた人たちは、放送部の撮影スペースを開けるように後ろに下がる。

 放送部の部員たちがカメラをセットしているちょっとした間に、千風は真雪に向かってひそひそと話し始める。

「中にいるのは真雪さんでしょ?」
「えっ、どうしてそれを」
「その話はあと。早く教室に行きたいんでしょ? 私たちがみんなの気を引きつけておくから、その間に行って」

 千風はマイクを持って話し始めた。

「残念。雪だるまさんはこれから用事があるのでインタビューには答えられないみたいです。……と、いうわけで、今からこの学校の文化祭に遊びに来ている人たちにインタビューをしてみたいと思います。じゃあ……まずあなたから! 今日はどちらから来られたのですか?」

 千風は、周りにいた人にインタビューを始めた。
 みんなインタビューのほうに気を取られて、真雪は完全にフリーになった。

「放送部のみんな……ありがとう!」

 真雪は一礼して、その場を去った。

 歩くこと数メートル。
 いよいよ真雪がオンエアをする予定の教室の前までやってきた。

 一度大きく深呼吸をして、教室の中に入る。
 そこは、真雪の想像を絶するくらいにとんでもないことになっていた。
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登場人物紹介

真雪(まゆき)


主人公。

ちょっと人見知りする高校一年生。

明夏(めいか)


真雪の親友。

活発でレトロゲームが好き。

日菜(ひな)


真雪のクラスメイト。

ちょっと変な性格で語尾が変。特技は自己流の落語。

樹々(じゅじゅ)


オンエア部の部長。

いつも冷静でクールな先輩。

メロン先輩


真雪に親切にしてくれる謎が多い先輩。

自由気ままな人。

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