第83話 オンエア・ミニライブ!
文字数 3,011文字
ついに新しいオンエア部の活動が始まった。
最初の活動は、誰もが予想しなかった、意外すぎるものだった。
「ねえ、明夏ちゃん、日菜ちゃん。やっぱりやめない?」
とある日の放課後。
真雪と明夏と日菜は、学校にある講堂のステージ脇に待機していた。
講堂の中は黒く厚いカーテンで閉められて真っ暗。
そこに、生徒たちがたくさん入ってきて、ざわざわとした声がステージ脇にまで聞こえてくる。
アイドルのような派手な衣装を着た真雪は、まったく落ち着けなかった。
「なに言ってるの。誰もいない空き教室でマイク持って、『みんな、ありがとう』とか言ってた真雪はどこに行ったのよ」
「うう~。でも、これはやっぱり恥ずかしいし……」
「ゆきちゃん、覚悟を決めるぴよ。みんなをあっと驚かせてこそ、新生オンエア部の始まりだぴに」
「うん。でも、時間がなくてあんまり練習できなかった……」
「大丈夫よ。トークで適当に時間つぶせば、一曲だけでも問題ないって」
そこに、進行役を務めることになった西瓜がやってきた。
「真雪ちゃんたち、準備はいい? けっこう人来てるよ。すごいねー、学校のSNSで情報流したら、こんなに人が集まるなんて」
西瓜が客席を見て、驚きの表情で言った。
今回真雪たちがやろうとしているのは、「オンエア部一年生、三人娘のミニライブ」という企画。ゲリラ的なもので、もちろん学校の許可も取っていない。
というより、取ろうと思っても絶対に取れないと思われたから、内緒ですることになった。
プルルル……。
西瓜のスマホに電話がかかってきた。
「……あ、樹々? ……うん。こっちは準備おっけー。……じゃあ、始めるよ?」
西瓜が電話を切る。
「樹々もカメラの準備ができたって。それじゃあみんな、幕を上げるからね」
「ああっ、ちょっと待って。深呼吸しなきゃ……すーはー……」
真雪が深呼吸を始めた。
それを見て、明夏と日菜も深呼吸をする。
「そんなに長い時間じゃないし、落ち着いてすれば大丈夫だから。練習通りにやればいいよ」
西瓜ウインクをして、一人でステージに上がっていった。
すると、スポットライトが一斉に西瓜に当たる。
こういうことには普段から慣れている、樹々の知り合いの演劇部員に協力してもらっていた。
「レディースアンドジェントルメーン。みんなー、毎日同じことの繰り返しで退屈してるかーい?」
講堂内が「うおおっ!」と沸き上がる。
「今からオンエア部一年生、三人娘のステージがはじまりだ! 真雪ちゃん、明夏ちゃん、日菜ちゃん、どうぞー!」
「さ、真雪、行くよ!」
「ゆきちゃん、ファイトなのですよ!」
「うん……わかった。行こう!」
真雪は衣装のスカートをふりふりさせながらステージに上がった。
明夏と日菜が、それに続く。
「わ、すげー。本格的!」
「キャー、かわいいー!」
会場からたくさんの歓声が響いた。
客席を見た真雪は、その人の多さにびっくりした。
全校生徒の三分の一くらいはいるのではないかと思われる。
だ、だだだだ……だめ。
緊張して体が……。
真雪の体がカチコチになる。
動かそうと思っても体が動かない。
「……」
それを見た明夏は、
(あちゃ~。真雪、緊張しすぎだよ。……よーし、ここは私が)
「どーもー、オンエア部一年生、三人娘でーす」
先陣を切って、話し始めた。
「よろしくおねがいしますにゅ」
日菜も続けて言う。
その後、来客の視線は一斉に真雪に向けられた。
「……」
(どうしよう……声が出ない)
真雪が何も喋らないので、客席がざわざわし始めた。
すると明夏が、真雪の肩に手を乗せる。
「この子は緊張してるけど、本当はすごい子なんですよ。このど派手な企画をやろうって言い出したのも彼女だし」
「明夏ちゃん! それは私じゃなくて西瓜先輩が!」
「お、元気が出てきたかな? それはよかったよかった」
「あっ……どうも……」
真雪と明夏のやりとりで、客席からどっと笑いが出てきた。
明夏は、真雪にウインクして目で合図する。
明夏ちゃん、私の緊張をほぐしてくれたんだ。
新しいオンエア部をつくるって言い始めたのは私なんだから。
しっかりしなきゃ。
だんだん真雪にやる気が出てきた。
「……いろいろあったようですが、それではいってみましょう。オンエア部一年生、三人娘の歌です!」
西瓜の声のあと、講堂に音楽が流れ始める。
客席では、ペンライトを持って振っている生徒もちらほらでてきた。
すごい、本当のアイドルのライブみたい。
真雪は感極まって、じーんときた。
そして、歌が始まる。
♪~♪~♪~♪♪♪~。
客席は、その歌に聞きほれる……ことはなかった。
真雪は張り切って大きな声で歌っていたのだが、一人だけ音程を激しく外していて、歌にまとまりがついていない。
「あちゃー。真雪ちゃん、音痴だから口ぱくでいいって言ったのに」
ステージ脇に下がった西瓜先輩は頭を抱えた。
歌の練習をしていたとき、真雪が極度の音痴だということが判明した。
それでも、真雪にアイドル衣装を着せたかったみんなは、口ぱくでいいから出てとお願いしていたのだった。
「はりきって歌ってくれるのはうれしいんだけどねぇ」
真雪は気持ちよさそうに歌っている。
最初は違和感で少し静まりかけた客席も、これも演出と思ったのだろうか。それなりに楽しんでいるようだった。
「……ま、なんとかなったみたいだね」
西瓜がそうつぶやいたあと、歌が終わった。
「みんな、ありがとう!」
歌い終わったあと、真雪は思わず言ってしまった。
しまった……。
つい口に出ちゃった。
「うおおー!」
「わぁぁー!」
「キャー!」
真雪はちょっと恥ずかしかったが、客席は意外にも盛り上がっていた。
しかし、その直後。
「こらー! お前たちは何をやっているんだー!」
生徒指導の先生が、講堂の騒ぎに駆けつけてきた。
「やばいっ、逃げろ!」
「もう、いいところだったのに!」
客席の生徒たちは、いちもくさんに退散した。
あっという間に、客席から人が消える。
「あ~、ばれちゃったね。……さ、私たちも逃げるよ」
西瓜先輩の声で、三人娘はステージから離れて、外に出た。
最後は怒られてしまったが、なんだかすごく楽しかった。
みんなもそういう思いなのだろう。
ステージ開始前よりも、みんな明るい顔になった気がした。
講堂から退散したあと、四階の空き教室、昔のオンエア部の部室だった所に集まっていた。
そこで、樹々は今日録画したディスクを今までのビデオテープの並びの横に置く。
それは、三十年ぶりの新しい記録だった。
「これが、私たちオンエア部の新しい記録よ」
「すごいです。歴史を感じます。ここからまた、オンエア部の新しい活動が始まるんですね」
真雪がアイドル衣装のまま、興奮した様子で言った。
「いつかこの映像をオンエアできる場所があれば面白いよね。オンエア部だし、そこまでやらないと」
西瓜が言うと、明夏が続ける。
「そうそう。それに、真雪の大きく外した歌がオンエア部の歴史に残るのは、素晴らしいことだよね」
「それはやだな……。樹々先輩、今回のは破棄して、記録に残すのはやっぱり次からにしません?」
「だめよ。こんなに面白い映像、オンエア部としては永久保存版だわ」
「てへっ。ゆきちゃん、いさぎよくあきらめるでし」
「そんなぁ。とほほ」
真雪は、口ぱくじゃなく大声で歌ってしまったことを後悔した。
最初の活動は、誰もが予想しなかった、意外すぎるものだった。
「ねえ、明夏ちゃん、日菜ちゃん。やっぱりやめない?」
とある日の放課後。
真雪と明夏と日菜は、学校にある講堂のステージ脇に待機していた。
講堂の中は黒く厚いカーテンで閉められて真っ暗。
そこに、生徒たちがたくさん入ってきて、ざわざわとした声がステージ脇にまで聞こえてくる。
アイドルのような派手な衣装を着た真雪は、まったく落ち着けなかった。
「なに言ってるの。誰もいない空き教室でマイク持って、『みんな、ありがとう』とか言ってた真雪はどこに行ったのよ」
「うう~。でも、これはやっぱり恥ずかしいし……」
「ゆきちゃん、覚悟を決めるぴよ。みんなをあっと驚かせてこそ、新生オンエア部の始まりだぴに」
「うん。でも、時間がなくてあんまり練習できなかった……」
「大丈夫よ。トークで適当に時間つぶせば、一曲だけでも問題ないって」
そこに、進行役を務めることになった西瓜がやってきた。
「真雪ちゃんたち、準備はいい? けっこう人来てるよ。すごいねー、学校のSNSで情報流したら、こんなに人が集まるなんて」
西瓜が客席を見て、驚きの表情で言った。
今回真雪たちがやろうとしているのは、「オンエア部一年生、三人娘のミニライブ」という企画。ゲリラ的なもので、もちろん学校の許可も取っていない。
というより、取ろうと思っても絶対に取れないと思われたから、内緒ですることになった。
プルルル……。
西瓜のスマホに電話がかかってきた。
「……あ、樹々? ……うん。こっちは準備おっけー。……じゃあ、始めるよ?」
西瓜が電話を切る。
「樹々もカメラの準備ができたって。それじゃあみんな、幕を上げるからね」
「ああっ、ちょっと待って。深呼吸しなきゃ……すーはー……」
真雪が深呼吸を始めた。
それを見て、明夏と日菜も深呼吸をする。
「そんなに長い時間じゃないし、落ち着いてすれば大丈夫だから。練習通りにやればいいよ」
西瓜ウインクをして、一人でステージに上がっていった。
すると、スポットライトが一斉に西瓜に当たる。
こういうことには普段から慣れている、樹々の知り合いの演劇部員に協力してもらっていた。
「レディースアンドジェントルメーン。みんなー、毎日同じことの繰り返しで退屈してるかーい?」
講堂内が「うおおっ!」と沸き上がる。
「今からオンエア部一年生、三人娘のステージがはじまりだ! 真雪ちゃん、明夏ちゃん、日菜ちゃん、どうぞー!」
「さ、真雪、行くよ!」
「ゆきちゃん、ファイトなのですよ!」
「うん……わかった。行こう!」
真雪は衣装のスカートをふりふりさせながらステージに上がった。
明夏と日菜が、それに続く。
「わ、すげー。本格的!」
「キャー、かわいいー!」
会場からたくさんの歓声が響いた。
客席を見た真雪は、その人の多さにびっくりした。
全校生徒の三分の一くらいはいるのではないかと思われる。
だ、だだだだ……だめ。
緊張して体が……。
真雪の体がカチコチになる。
動かそうと思っても体が動かない。
「……」
それを見た明夏は、
(あちゃ~。真雪、緊張しすぎだよ。……よーし、ここは私が)
「どーもー、オンエア部一年生、三人娘でーす」
先陣を切って、話し始めた。
「よろしくおねがいしますにゅ」
日菜も続けて言う。
その後、来客の視線は一斉に真雪に向けられた。
「……」
(どうしよう……声が出ない)
真雪が何も喋らないので、客席がざわざわし始めた。
すると明夏が、真雪の肩に手を乗せる。
「この子は緊張してるけど、本当はすごい子なんですよ。このど派手な企画をやろうって言い出したのも彼女だし」
「明夏ちゃん! それは私じゃなくて西瓜先輩が!」
「お、元気が出てきたかな? それはよかったよかった」
「あっ……どうも……」
真雪と明夏のやりとりで、客席からどっと笑いが出てきた。
明夏は、真雪にウインクして目で合図する。
明夏ちゃん、私の緊張をほぐしてくれたんだ。
新しいオンエア部をつくるって言い始めたのは私なんだから。
しっかりしなきゃ。
だんだん真雪にやる気が出てきた。
「……いろいろあったようですが、それではいってみましょう。オンエア部一年生、三人娘の歌です!」
西瓜の声のあと、講堂に音楽が流れ始める。
客席では、ペンライトを持って振っている生徒もちらほらでてきた。
すごい、本当のアイドルのライブみたい。
真雪は感極まって、じーんときた。
そして、歌が始まる。
♪~♪~♪~♪♪♪~。
客席は、その歌に聞きほれる……ことはなかった。
真雪は張り切って大きな声で歌っていたのだが、一人だけ音程を激しく外していて、歌にまとまりがついていない。
「あちゃー。真雪ちゃん、音痴だから口ぱくでいいって言ったのに」
ステージ脇に下がった西瓜先輩は頭を抱えた。
歌の練習をしていたとき、真雪が極度の音痴だということが判明した。
それでも、真雪にアイドル衣装を着せたかったみんなは、口ぱくでいいから出てとお願いしていたのだった。
「はりきって歌ってくれるのはうれしいんだけどねぇ」
真雪は気持ちよさそうに歌っている。
最初は違和感で少し静まりかけた客席も、これも演出と思ったのだろうか。それなりに楽しんでいるようだった。
「……ま、なんとかなったみたいだね」
西瓜がそうつぶやいたあと、歌が終わった。
「みんな、ありがとう!」
歌い終わったあと、真雪は思わず言ってしまった。
しまった……。
つい口に出ちゃった。
「うおおー!」
「わぁぁー!」
「キャー!」
真雪はちょっと恥ずかしかったが、客席は意外にも盛り上がっていた。
しかし、その直後。
「こらー! お前たちは何をやっているんだー!」
生徒指導の先生が、講堂の騒ぎに駆けつけてきた。
「やばいっ、逃げろ!」
「もう、いいところだったのに!」
客席の生徒たちは、いちもくさんに退散した。
あっという間に、客席から人が消える。
「あ~、ばれちゃったね。……さ、私たちも逃げるよ」
西瓜先輩の声で、三人娘はステージから離れて、外に出た。
最後は怒られてしまったが、なんだかすごく楽しかった。
みんなもそういう思いなのだろう。
ステージ開始前よりも、みんな明るい顔になった気がした。
講堂から退散したあと、四階の空き教室、昔のオンエア部の部室だった所に集まっていた。
そこで、樹々は今日録画したディスクを今までのビデオテープの並びの横に置く。
それは、三十年ぶりの新しい記録だった。
「これが、私たちオンエア部の新しい記録よ」
「すごいです。歴史を感じます。ここからまた、オンエア部の新しい活動が始まるんですね」
真雪がアイドル衣装のまま、興奮した様子で言った。
「いつかこの映像をオンエアできる場所があれば面白いよね。オンエア部だし、そこまでやらないと」
西瓜が言うと、明夏が続ける。
「そうそう。それに、真雪の大きく外した歌がオンエア部の歴史に残るのは、素晴らしいことだよね」
「それはやだな……。樹々先輩、今回のは破棄して、記録に残すのはやっぱり次からにしません?」
「だめよ。こんなに面白い映像、オンエア部としては永久保存版だわ」
「てへっ。ゆきちゃん、いさぎよくあきらめるでし」
「そんなぁ。とほほ」
真雪は、口ぱくじゃなく大声で歌ってしまったことを後悔した。