第20話 真雪、部屋でもオンエア部?

文字数 2,258文字

 初めての一人オンエア。
 学食の巨大カレーライス。
 放課後の反省会。
 CDショップで文香との偶然の出会い。

 いろいろなことがあった今日が終わり、静かな夜になった。
 真雪は自分の部屋のベッドに寝そべって、音楽を聴きながらくつろいでいた。

 ちらっと時計の時間をみる。
 午後8時59分。

「あ、もう少しで始まっちゃう。危うく忘れるところだった」

 音楽を止めて、ラジオに切り替えた。

 真雪がオンエアの参考に聴いている、FMの番組が始まる時間だった。
 インターネットラジオで聴くという方法もあるが、生放送の臨場感を大切にする真雪は、ちゃんとラジオから聴くことにしている。

 ぽっ、ぽっ、ぽっ、ぴーーーー。

 時報がなったあと、番組が始まった。
 番組名は、「マサのこだわりヒップホップアワーチェケラ」
 一見チャラそうだが、一応ちゃんとした音楽番組だった。

「HEY、みんな元気してたカナ? 今日もこの時間がやってきてしまったぜ? みんなのお相手はおなじみのDJマサだ。よろしくー」

「へぇい、みんな元気してたかい? 今日も学食にこの時間がやってきたぜ? そしてみんなのお相手はおなじみ真雪です……じゃなかった。真雪だよ! ヨロシクな!」

 ラジオの真似をしてみたが、どうもしっくりこない。

 ……なんか違うな。
 もうちょっと可愛らしいほうがいいかな。今日のオンエアも樹々先輩に少し笑われてたし。

「では早速番組宛に届いたメールを読んでみようウワァオ! まずは、東京都にお住まいのペンネーム『ゴミキング』さんから、いつもアリガトーイエーアゥ! ブオッフォン! ちょっとむせた。食事中のみんな、ソーリーゲッチュ!」

 異常に高いテンションを保ったまま、DJマサのオンエアは続く。
 真雪もその感じを真似してみる。

「では、第二放送室のパソコンに届いたメールを読んでみようイエォ! 2年5組のペンネーム『プチマンモス』さんから。センキューイマジネーション! ごふぉっ! ちょっとむせた。学食でこんなことしてたら周りの人から嫌がられるぜ!」

 ……。
 なんだろう。
 ものすごく理想とかけ離れていってる感じがする。
 もしかしたら、このお手本が私に合ってないのかな?

 毎日欠かすことなくこの番組を聴き始めて2週間、真雪はようやくそのことに気がついた。
 DJマサの軽快すぎるトークは続いたが、真雪の耳には入ってこなかった。

 気分を変えて、違うチャンネルにしてみる。

 ザザッ。

「このアルバムは私たちの青春が詰まったものです。言うなれば青春。そう、青春の1ページなんです。青春とは」

 ザザザッ。

「剣を抜け! そして私と戦え! 異世界から転生してきた、チートな俺が退治してやる! ぬわっはっはっは!」

 ザザッザッ。

「♪~♪~~♪~♬♩♫~~~☆§ΓΨξ」

 プチッ。

 電源を切った。

「……全部違う。私のやりたいことって、なんなんだろう?」

 真雪は自分のオンエアの方向性を悩んでいた。

 私、どんなことがしたいの?
 普通に気に入った音楽を流すだけでも、間には自分のトークが入ってくる。
 そこも重要であることに、入部してやってみてから初めて気が付いた。

 日菜ちゃんは落語をオンエアしたいと言ってた。
 じゃあ、私は?

 ………………答えは出ない。

 今日は集中して自分のオンエアを探し出そう。
 たとえどんな誘惑があろうとも!

 真雪は机に向かい、真っ白なノートを広げた。

「うむむ。まずは私がどういうふうにオンエアしたいかだよね。私がやりたいことは、ええっと………………何だろう」

 ……。

 何も思いつかないまま時間だけが過ぎていく。
 真雪もいつの間にか、シャーペンを指でくるくる回しているだけになっていた。

 くるくるくる、ぽとっ。

「あ、また失敗。もうちょっと上手になったらなぁ」

 すでに当初の目的も薄れかけてきたとき、

「真雪ちゃーん、イチゴののったスペシャルケーキあるけど食べるー?」
「食べるYOー!」

 真雪はあっけなく誘惑に負けて部屋を出ていった。
 それでもDJっぽい返事をするところから、オンエアの潜在意識はかろうじて残っていたみたいだ。

 しばらくして、真雪がケーキを食べた後、

「あー、こんな夜遅くに甘いもの食べちゃって、太らないか心配」

 部屋に戻ってきた真雪は、ちょっとだけ後悔した。
 それから、机の上にあるノートを見て、さっきまで自分がやっていたことを思い出した。

「……ラジオの続きを聴いてみようかな。参考になることがあるかもしれない」

 気を取り直してラジオのスイッチを入れて、もう一度聴いてみる。

「――というわけで、今日も終了の時間になりました」

「もう終わってる!」

 真雪はがっくりして、ベッドにダイブした。
 ごろんと寝返りをして、しばらく天井を見つめる。

「結局、なにも決まらなかったなぁ。……もうお風呂に入って寝よう」

 真雪はお風呂に入り、疲れていたこともあって、いつもよりも早めにベッドに入った。

 部屋を暗くしてベッドで横になっている時間。
 なかなか寝付けない真雪は、

「もしかしたら、今ならいいアイデアが出るかも。ちょっと考えてみよう。えーっと、私がオンエアでやりたいこと。やりたいことといえば……」

 結局、真雪は眠らずに、横になったままあれこれ考えていた。




 そして、次の日の朝。

「あー、ちーこーくーすーるー! 結局昨日は考えすぎてなかなか眠れなかったし、おまけに寝坊してしまったよー!」

 昨日はいつもよりも早くベッドに入ったにもかかわらず、真雪はいそがしい朝をむかえていた。
ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

真雪(まゆき)


主人公。

ちょっと人見知りする高校一年生。

明夏(めいか)


真雪の親友。

活発でレトロゲームが好き。

日菜(ひな)


真雪のクラスメイト。

ちょっと変な性格で語尾が変。特技は自己流の落語。

樹々(じゅじゅ)


オンエア部の部長。

いつも冷静でクールな先輩。

メロン先輩


真雪に親切にしてくれる謎が多い先輩。

自由気ままな人。

ビューワー設定

文字サイズ
  • 特大
背景色
  • 生成り
  • 水色
フォント
  • 明朝
  • ゴシック
組み方向
  • 横組み
  • 縦組み