第95話 廊下からのオーラ

文字数 1,495文字

 教室内は外とは別空間のように暗い雰囲気に覆われていた。
 ホール係の人たちは隅のほうで黙って立っていて、客席はがらんとしていて誰もいなかった。
 そしてオンエア席では、すでに燃え尽きたゴブがテーブルに突っ伏していた。

「ゴブ! いったいどうしたの?」

 真雪が近づいて話しかける。
 ゴブは顔を上げて、

「そ……その声は真雪さんね……。真雪さんが来るまで時間稼ぎをしようと思っていたけれど……私としたことが、この場の雰囲気にのまれてしまったわ」
「でも、ゴブはオンエア部のことをあれだけいやがっていたのに」
「気まぐれかしらね……ふふっ。私もオンエア部みたいに、楽しそうなことをしたくなったのよ。……でも、いきなり慣れないことをするもんじゃないわね。トークが続かなかったせいで、お客さんはみんな出て行ってしまった……私のせいよ」 
「そんな……。ゴブのせいじゃない! 私が途中で逃げてしまったから、だから」
「……私をかばってくれるのね。ありがとう、真雪さん……あとはまかせたわ。オンエア部のあなたならきっと……ガクッ」

 ゴブがまた突っ伏して意識を失った。
 そばにいたクラスメイト数人が、無言でゴブを担架にのせてそのまま保健室まで運んでいった。

「よかった。戻ってきてくれたんだね」

 文香が真雪に話かけてきた。

「文香ちゃん、この状況は」
「いま教室内は異様な雰囲気に包まれているわ。廊下を見て。活動禁止中のオンエア部が活動することがばれたみたい。いま、外から監視されてる」

 真雪は廊下のほうを見た。
 そこには、教頭先生、生徒指導の先生、生徒会長や生徒会の面々が、黙ってこちらのほうを見ていた。

「この重ぐるしい空気の原因はあれだったんだ」
「みんなオンエア部の活動を好意的に思っていない人たちよ。ゴブも最初は楽しそうにトークしてたけど、廊下からの視線に気づいてから、ちょっと様子がおかしくなってしまったの」
「たしかに、あんなに見られてたらすごくやりづらかも……」
「ゴブもよくやってくれてたけど、この異様な空気に耐えられなくなってあの状態よ。真雪、それでもオンエアするの? もし無理そうだったらやめてもいいけど」

 廊下から発せられるオーラは、明らかにオンエア部への敵対心そのものだった。
 教室の中にいる真雪たちのほうまでオーラが感じられる。
 だが、

「……私、やるよ」

 真雪の気持ちはひとつもゆるがなかった。

「本気なの?」
「うん。今日のために、クラスのみんなも協力してくれた。さっきも私がここに戻って来るために、たくさんの人が協力してくれた。そして、ゴブも私が来るまでオンエアをつないでくれていた。オンエア部のためだけじゃなく、みんなのためにも私、やらないと」
「真雪……わかった」

 雪だるまの着ぐるみで顔は見えなかったが、真雪の決意は言葉からも感じられた。
 文香は雪だるまの頭をぽんとたたく。

「しっかりね、雪だるまさん」

 真雪は雪だるまの手を動かしてそれに答えた。
 そして、ついに念願のオンエア席に入った。

 そのとき、

 ザッザッザッ……。

 廊下で監視していたメンバーたちが、無言で教室の中に入ってきた。
 それぞれ、空いていた席に座る。

「い、いらっしゃいませ……」
「コーヒーを」
「では、私はコッフィー頼もうかな」
「ふむ。抹茶あずきケーキで」
「ホットケーキプリーズ」

 それぞれ注文を終えて、静かにオンエア席のほうに注目していた。
 廊下から感じられたオーラとは違い、教室の中ではいちだんと威圧感があった。

 真雪……大丈夫なの?
 あなたはこの状況で、ちゃんとオンエアできるの?

 文香は、雪だるまの中にいる真雪のことが心配だった。
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登場人物紹介

真雪(まゆき)


主人公。

ちょっと人見知りする高校一年生。

明夏(めいか)


真雪の親友。

活発でレトロゲームが好き。

日菜(ひな)


真雪のクラスメイト。

ちょっと変な性格で語尾が変。特技は自己流の落語。

樹々(じゅじゅ)


オンエア部の部長。

いつも冷静でクールな先輩。

メロン先輩


真雪に親切にしてくれる謎が多い先輩。

自由気ままな人。

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