第101話 雪だるま全員集合!
文字数 3,075文字
それからも、教室では雪だるまの話は続いていた。
教室内を移動しながら話をする雪だるまは、興味深いものだったに違いない。
いつの間にか客席は満員になり、廊下にまで人があふれるようになっていた。
「ようやく文化祭のあるこの学校までやってきたひゅん。狐さんの言っていたとおりいろいろな出し物があって、いま僕はとっても楽しいひゅん」
ちょうど雪だるまがオンエア席に戻ったところで話が終わった。
「真雪さん。どうやら私はあなたのことをみくびっていたようね。素晴らしいお話……いや、ステージだったわ」
オンエア席の裏にいたゴブが拍手をした。
それにつられるように、教室内と廊下からたくさんの拍手が聞こえてきた。
……はっ!
なんだか私、この場の空気に流されて大胆なことをしちゃったみたい。
真雪は集中モードからいつもの感じに戻った。
さっき自分がしていたことをちょっと恥ずかしく思い、着ぐるみの中で赤面していた。
と、そこへ、
「一緒に来た雪だるまさんたちは、どこにいるの?」
さっき真雪と握手をした少女が、真雪に質問をしてきた。
寒い国から一緒にやって来た友だちの雪だるまが、この教室にはいないからだった。
「それは……みんな途中で別れたひゅん。僕がここに来れるように、みんなが手伝ってくれたんだひゅん」
真雪は少し悲しそうに下を向いた。
この教室にやって来るまでに先に行かせてくれたオンエア部の仲間たちを思い出す。
「友だちがいないと、ちょっと寂しいね」
「うん。みんなでここに来たかったひゅん。そうすればもっと楽しかったのに」
そのとき、廊下のほうが騒がしくなってきた。
見てみると、入り口の扉から白い顔がひょっこりと出てきた。
「じゃじゃーん。友だち雪だるまの登場でーす」
教室にもう一人、雪だるまの着ぐるみが入ってきた。
「え……その声は明夏ちゃん? どうして雪だるまに……」
「まだまだいるにょすよ。ひよこ型の雪だるまだす。旅の途中でこうなっちゃったりゅ!」
「日菜さん。それはひよこ型雪だるまじゃなくて、ひよこそのものです。……っと、お待たせしました。雪だるまジッコイーンの参上よ」
「雪だるまがたくさんで盛り上がってるね、すごいじゃん。……というわけで、私も雪だるまだよ。これで一緒に来た雪だるまが全員集合!」
合わせて雪だるま三人(と、ひよこ一人)が教室に入ってきた。
女の子は、真雪の雪だるまに抱き着いて喜ぶ。
「わあ。雪だるまさんがいっぱい! 雪だるまさん、お友だち来たよ!」
「うん、とっても嬉しいひゅん!」
みんな……来てくれたんだね。しかも雪だるまの着ぐるみになって。ありがとう。
真雪は心の中で感謝した。
「真雪……じゃなかった。雪だるまさん、ここに来る途中のじゃまは全部生徒会長の仕組んだことだったんだよ。さっきこの人が白状した」
明夏の雪だるまは、ロープでぐるぐる巻きにした男を連れてきた。
明夏とゲーム対決していた関所部の男だった。
「放せ。俺は部を存続させるためにやっただけなんだよ。オンエア部のじゃまをしたら、部を廃部にせずに残してくれるって言われて」
「……へえ。オンエア部を意図的に潰そうとしたのかい? それは生徒会長らしからぬ行動だね」
西瓜の雪だるまが客席に座っていた生徒会長に詰め寄る。
「どういうことなのか、ちゃんと話を聞かせてほしいわね」
樹々の雪だるまもそれに加わっていく。
「ぐっ。これは……その……」
生徒会長は言葉に詰まった。
二人の雪だるまに言い寄られる生徒会長。周りから見るとかなり変な状況だった。
「素直に謝って説明しなさい。生徒会長、あなたはオンエア部だけでなくこのクラスの人たちにも迷惑をかけていたのですから」
いきなり誰かが会話に割り込んできた。
全身黒タイツ姿で謎の人間。その声は、相変わらず機械っぽい声だった。
「またあなたですか……。一体誰なんですか⁉ さっきから私に説教じみたことを言ってきて」
「まだわからないのですか? 生徒会長ならとっくに正体がわかっていると思っていたのですけどね……」
そうは言っても、声を変えている全身黒タイツの正体は誰にもわからないと思う。
「……あ、そこの君。ちょっと後ろのチャックを開けてくれませんか?」
謎の人間は、クラスの男子に後ろのチャックを開けてもらった。
背中が割れて、まるで脱皮するような感じで黒タイツを脱いでいく。
その中からは、誰もがよく知る人物が現れた。
「どうです? これでわかったでしょう」
「あなたは……校長先生! なぜこのような格好で」
「校長の格好で歩き回っていたら生徒たちが委縮すると思ってね。素のままの生徒たちが見たかったから変装していたんだよ」
「とは言ってもその格好では……」
全身黒タイツでは別の意味で委縮するのでは。
そう思ったが、生徒会長はこれ以上は何も言わなかった。
「生徒会長。権力は私利私欲のために使ってはいけません。生徒たちみんなのためにその力を使わなくては、誰からも信用されなくなりますよ」
「……」
「本来ならば生徒会長失格なのですが、今回のことは特別に見逃してあげます。これからは改心して、みんなに慕われるような生徒会長になってください」
「……はい。すいませんでした」
生徒会長はずいぶん反省しているようだった。
真雪たちに謝ったあと、一人でとぼとぼと教室から出て行った。
「……さて、オンエア部の皆さん。あなたたちの部活動の件ですが」
真雪たちはどきどきしながら聞いていた。
「あなたたちの行動はずっと見ていました。ちょっとやりすぎなところもありますが、みんなと楽しい時間を過ごしたい、そんな気持ちがこちらにも伝わってくるような印象を受けました。入学希望者も減っていくばかりで、なんの魅力もない今のわが校には、あなたたちみたいな人も必要なのかもしれません。よって……」
まさか、まさか。
真雪は高まる気持ちを抑えながらその次の言葉を待った。
そして、校長先生は真雪たちがずっと待ち焦がれていた言葉を言ってくれた。
「……正式にオンエア部を部活動として認めましょう。なくなってしまった部室もちゃんとこちらで用意します。これからは堂々と活動してください」
「やったあ‼」
雪だるま全員が飛び上がって喜んだ。
教室内のみんなから、再び拍手が送られた。
誰が用意したかわからないが、紙吹雪が教室に舞い散ったり、クラッカーが鳴り響いたりした。
「やった! 真雪、ついにオンエア部再開だよ!」
「ぐぼっ!」
明夏が雪だるまのまま抱き着こうとしたが、着ぐるみの体がじゃまして真雪を体当たりで吹き飛ばす感じになった。
「なんと、オンエア部完全復活とな。またみんなで活動できるし、日菜も嬉しいでござる」
日菜がひよこの着ぐるみを脱いだ。
中から忍者のコスプレをした日菜の姿が現れ、周囲の人を驚かせている。
「樹々、よかったじゃん。またみんなでオンエア部ができるみたいだね」
「ええ。いま本当に……本当に素晴らしい後輩たちが入部してくれていたんだなと思ってるわ」
西瓜と樹々の雪だるまは、がっちりと握手をした。
着ぐるみで見えなかったが、樹々の目からは嬉しさのあまり涙がこぼれていた。
真雪は今までのことを思い返していた。
わくわくしながら入った初めての部活動。
しばらくして部活動できなくなってから、いろいろなことがあった。
途中であきらめそうになったけど、仲間に助けられながらなんとかやってこれた。
つらいこともあったけど、最後まで続けてきてよかった。
真雪は心の底から思った。
教室内を移動しながら話をする雪だるまは、興味深いものだったに違いない。
いつの間にか客席は満員になり、廊下にまで人があふれるようになっていた。
「ようやく文化祭のあるこの学校までやってきたひゅん。狐さんの言っていたとおりいろいろな出し物があって、いま僕はとっても楽しいひゅん」
ちょうど雪だるまがオンエア席に戻ったところで話が終わった。
「真雪さん。どうやら私はあなたのことをみくびっていたようね。素晴らしいお話……いや、ステージだったわ」
オンエア席の裏にいたゴブが拍手をした。
それにつられるように、教室内と廊下からたくさんの拍手が聞こえてきた。
……はっ!
なんだか私、この場の空気に流されて大胆なことをしちゃったみたい。
真雪は集中モードからいつもの感じに戻った。
さっき自分がしていたことをちょっと恥ずかしく思い、着ぐるみの中で赤面していた。
と、そこへ、
「一緒に来た雪だるまさんたちは、どこにいるの?」
さっき真雪と握手をした少女が、真雪に質問をしてきた。
寒い国から一緒にやって来た友だちの雪だるまが、この教室にはいないからだった。
「それは……みんな途中で別れたひゅん。僕がここに来れるように、みんなが手伝ってくれたんだひゅん」
真雪は少し悲しそうに下を向いた。
この教室にやって来るまでに先に行かせてくれたオンエア部の仲間たちを思い出す。
「友だちがいないと、ちょっと寂しいね」
「うん。みんなでここに来たかったひゅん。そうすればもっと楽しかったのに」
そのとき、廊下のほうが騒がしくなってきた。
見てみると、入り口の扉から白い顔がひょっこりと出てきた。
「じゃじゃーん。友だち雪だるまの登場でーす」
教室にもう一人、雪だるまの着ぐるみが入ってきた。
「え……その声は明夏ちゃん? どうして雪だるまに……」
「まだまだいるにょすよ。ひよこ型の雪だるまだす。旅の途中でこうなっちゃったりゅ!」
「日菜さん。それはひよこ型雪だるまじゃなくて、ひよこそのものです。……っと、お待たせしました。雪だるまジッコイーンの参上よ」
「雪だるまがたくさんで盛り上がってるね、すごいじゃん。……というわけで、私も雪だるまだよ。これで一緒に来た雪だるまが全員集合!」
合わせて雪だるま三人(と、ひよこ一人)が教室に入ってきた。
女の子は、真雪の雪だるまに抱き着いて喜ぶ。
「わあ。雪だるまさんがいっぱい! 雪だるまさん、お友だち来たよ!」
「うん、とっても嬉しいひゅん!」
みんな……来てくれたんだね。しかも雪だるまの着ぐるみになって。ありがとう。
真雪は心の中で感謝した。
「真雪……じゃなかった。雪だるまさん、ここに来る途中のじゃまは全部生徒会長の仕組んだことだったんだよ。さっきこの人が白状した」
明夏の雪だるまは、ロープでぐるぐる巻きにした男を連れてきた。
明夏とゲーム対決していた関所部の男だった。
「放せ。俺は部を存続させるためにやっただけなんだよ。オンエア部のじゃまをしたら、部を廃部にせずに残してくれるって言われて」
「……へえ。オンエア部を意図的に潰そうとしたのかい? それは生徒会長らしからぬ行動だね」
西瓜の雪だるまが客席に座っていた生徒会長に詰め寄る。
「どういうことなのか、ちゃんと話を聞かせてほしいわね」
樹々の雪だるまもそれに加わっていく。
「ぐっ。これは……その……」
生徒会長は言葉に詰まった。
二人の雪だるまに言い寄られる生徒会長。周りから見るとかなり変な状況だった。
「素直に謝って説明しなさい。生徒会長、あなたはオンエア部だけでなくこのクラスの人たちにも迷惑をかけていたのですから」
いきなり誰かが会話に割り込んできた。
全身黒タイツ姿で謎の人間。その声は、相変わらず機械っぽい声だった。
「またあなたですか……。一体誰なんですか⁉ さっきから私に説教じみたことを言ってきて」
「まだわからないのですか? 生徒会長ならとっくに正体がわかっていると思っていたのですけどね……」
そうは言っても、声を変えている全身黒タイツの正体は誰にもわからないと思う。
「……あ、そこの君。ちょっと後ろのチャックを開けてくれませんか?」
謎の人間は、クラスの男子に後ろのチャックを開けてもらった。
背中が割れて、まるで脱皮するような感じで黒タイツを脱いでいく。
その中からは、誰もがよく知る人物が現れた。
「どうです? これでわかったでしょう」
「あなたは……校長先生! なぜこのような格好で」
「校長の格好で歩き回っていたら生徒たちが委縮すると思ってね。素のままの生徒たちが見たかったから変装していたんだよ」
「とは言ってもその格好では……」
全身黒タイツでは別の意味で委縮するのでは。
そう思ったが、生徒会長はこれ以上は何も言わなかった。
「生徒会長。権力は私利私欲のために使ってはいけません。生徒たちみんなのためにその力を使わなくては、誰からも信用されなくなりますよ」
「……」
「本来ならば生徒会長失格なのですが、今回のことは特別に見逃してあげます。これからは改心して、みんなに慕われるような生徒会長になってください」
「……はい。すいませんでした」
生徒会長はずいぶん反省しているようだった。
真雪たちに謝ったあと、一人でとぼとぼと教室から出て行った。
「……さて、オンエア部の皆さん。あなたたちの部活動の件ですが」
真雪たちはどきどきしながら聞いていた。
「あなたたちの行動はずっと見ていました。ちょっとやりすぎなところもありますが、みんなと楽しい時間を過ごしたい、そんな気持ちがこちらにも伝わってくるような印象を受けました。入学希望者も減っていくばかりで、なんの魅力もない今のわが校には、あなたたちみたいな人も必要なのかもしれません。よって……」
まさか、まさか。
真雪は高まる気持ちを抑えながらその次の言葉を待った。
そして、校長先生は真雪たちがずっと待ち焦がれていた言葉を言ってくれた。
「……正式にオンエア部を部活動として認めましょう。なくなってしまった部室もちゃんとこちらで用意します。これからは堂々と活動してください」
「やったあ‼」
雪だるま全員が飛び上がって喜んだ。
教室内のみんなから、再び拍手が送られた。
誰が用意したかわからないが、紙吹雪が教室に舞い散ったり、クラッカーが鳴り響いたりした。
「やった! 真雪、ついにオンエア部再開だよ!」
「ぐぼっ!」
明夏が雪だるまのまま抱き着こうとしたが、着ぐるみの体がじゃまして真雪を体当たりで吹き飛ばす感じになった。
「なんと、オンエア部完全復活とな。またみんなで活動できるし、日菜も嬉しいでござる」
日菜がひよこの着ぐるみを脱いだ。
中から忍者のコスプレをした日菜の姿が現れ、周囲の人を驚かせている。
「樹々、よかったじゃん。またみんなでオンエア部ができるみたいだね」
「ええ。いま本当に……本当に素晴らしい後輩たちが入部してくれていたんだなと思ってるわ」
西瓜と樹々の雪だるまは、がっちりと握手をした。
着ぐるみで見えなかったが、樹々の目からは嬉しさのあまり涙がこぼれていた。
真雪は今までのことを思い返していた。
わくわくしながら入った初めての部活動。
しばらくして部活動できなくなってから、いろいろなことがあった。
途中であきらめそうになったけど、仲間に助けられながらなんとかやってこれた。
つらいこともあったけど、最後まで続けてきてよかった。
真雪は心の底から思った。