第69話 真雪VSじゃんけん王
文字数 2,750文字
明夏がリングから戻ってきた。
「明夏ちゃん、大丈夫?」
「あのやろー。真雪、絶対に負けないでよ!」
「え……そんなこと言われても……」
「さあ、次は真雪の番でしょ。リングに上がって」
「ちょ、ちょっと明夏ちゃん。押さないで~」
真雪がリングに上がった。
一方のじゃんけん王は、余裕の表情で真雪をみている。
「ほほう、さっきの生意気なサイヤ人のお友だちですか。これはおもしろいですねぇ。でも、私の手に掛かれば星の一つや二つ、破壊するのは簡単です。サイヤ人ごときに、私の計画の邪魔はさせませんよ」
「じゃんけん王、キャラ変わってます」
「ふっふっ、失礼。ちょっと調子に乗りすぎたみたいだ」
じゃんけん王は、取り巻きの言葉でいつもの感じを取り戻す。
「真雪、あなたなら勝てるかもしれない。あのじゃんけん王の野望を打ち砕くことが」
「……明夏ちゃん、なんか目的変わってない?」
「いいのよ。真雪はとりあえず、グー、チョキ、パーのどれかを出せばいいんだから」
「そんなのわかってるよ……」
レフェリーがリングに上がった。
「それでは、挑戦者とじゃんけん王はリングの中央へ」
真雪はリングに上がる。
すると、なぜか他の人以上の歓声がわき起こっていた。
あ、また緊張してきた……。
真雪は多くの人の視線を感じて、体が固くなった。
カチコチな移動で、リングの中央まで歩いていく。
「それでは二人とも、準備はいいですか?」
「もちろん、いつでもはじめてくれたまえ」
「はい……はい……」
緊張した真雪には、はいと言うのが精一杯だった。
「じゃんけん……」
じゃんけん王が身構える。
……が、
「ちょっと待った!」
じゃんけん王がレフェリーを止めた。
そして、じゃんけん王はゆっくりとコーナーまで戻っていく。
じゃんけん王のいつもとは違う感じに、場内がざわつきはじめた。
「なんだ? ……こやつ……なにを考えてるのか全くわからん。未来が予知できない。……こんな敵ははじめてだ」
じゃんけん王が、いつになく動揺していた。
真雪は相変わらず緊張している。
「じゃんけん王、もうそろそろよろしいですか?」
レフェリーがそう言うと、
「よ、よし。いま行く」
じゃんけん王は、ゆっくりとリング中央まで戻ってくる。
落ち着け。
もう一度、もう一度予知を……。
「それでは、気を取り直して……じゃーんけーん」
レフェリーが先に進めた。
「ぽーん!」
二人はそれぞれ手を出した。
「挑戦者はパー。対するじゃんけん王は……パーだ! これは驚いた! いままであいこさえなかったじゃんけん王が、はじめてあいこになったー!」
場内はわっとどよめいた。
無敗のじゃんけん王が、はじめて一回で勝てなかったのだ。
じゃんけん王と引き分けたことでも、名誉なことだった。
「まだ勝負はついていません。試合は延長戦にもつれこみました」
レフェリーが説明した。
両者、いったんコーナーに戻った。
「真雪、すごい! いったいどうやったの?」
「緊張して手が動かなくて……そのまま前に出しただけ……」
「ああ、それでパーだったのね……」
真雪の緊張はまだとけてないらしかった。
それにしても、未来予知ができると言っていたじゃんけん王がどうして引き分けたんだろう。
……もしかしたら、真雪が何を出すのか予測できなかったとか?
でもどうして……。
明夏はずっと考えていた。
さっき真雪は、何も考えなくてそのまま手を出しただけと言ってた。
だから真雪の思考の未来が見えなかったんだ。
だとしたら……。
明夏は、真雪にこっそりと耳打ちをする。
「真雪、いい? 今度は思いっきりグーサインよ」
「え、グー?」
「そう。それだったらできるでしょ?」
「う、うん。わかった」
真雪がまたリングの中央に向かう。
まだかなり緊張しているらしい。
「それでは、試合を再開します。両者構えて」
二人は向き合った。
じゃんけん王は、またも予知能力を使った。
……よし、今度は見えるぞ。
こやつは次にグーを出す。
俺がパーを出せば、間違いなく勝利だ!
「じゃーんけーん」
レフェリーがかけ声を出した。
そのとき、
「真雪! ピースは!?」
明夏が真雪に話しかけた。
ピース?
チョキのことかな?
「ぽーん!」
グーを出す予定だった真雪は、とっさにチョキを出した。
対するじゃんけん王はパーを出している。
「………………」
場内がしんと静まり返った。
レフェリーも、いつもの解説を忘れてしまうほどの衝撃。
そう、無敗をほこっていたじゃんけん王が、ついに敗れる瞬間が訪れたのだ。
じゃんけん王の手がぶるぶると震えた。
そして、がくっとひざをついた。
「なぜだ……俺は生まれながらの特殊能力に恵まれた最強の男だぞ? それが、普通の人間に簡単に負けてしまうなんて、そんなことがあっていいものなのか?」
「もしあなたが予知なんかに頼らなければ、真雪に十分勝てたんじゃない? 真雪はね、ものすごくじゃんけんが弱いのよ。真雪に負けた人なんて見たことがないくらいに。私だって10回やったら、10回全部勝てるわよ。自分の力におぼれすぎて、普通にじゃんけんができなくなってしまったのがあなたの敗因よ!」
じゃんけん王は、明夏の話を黙って聞いていた。
そして、絶対使わないと公言していた小さな白旗を揚げて、それを左右に振った。
「俺の……負けだ……」
その瞬間、静まり返っていた場内が、今日いちばんの歓声に包まれた。
それは他の誰でもない、真雪に対するものだった。
「え……もしかして、私、勝っちゃった?」
真雪はようやく正気に戻って、目の前のことを理解した。
「真雪、おめでとう~!」
明夏がリングに上がってきて、真雪に抱きついてほおずりをした。
「ちょっと、明夏ちゃん。大げさだよ」
「だって、だって。じゃんけんに負けてばっかりだった真雪が、あの無敗のじゃんけん王に勝ったんだよ! 嬉しいに決まってるじゃない!」
場内は祝福の拍手が起こった。
今日の主役は、じゃんけん王ではなく、真雪に変わってしまった。
「真雪、インタビューいいかな? すっごいよ、本当に」
放送部の文香が、真雪の元にやってきた。
「おめでとう、真雪。今の気持ちを一言でお願いします」
「はい、嬉しい……のかな。あまり実感がわかないです」
「あのじゃんけん王に勝ったことはものすごい快挙なんですが、どういう作戦で勝負に挑んだのですか?」
「は……はは。ピースはチョキで、それだけです」
リング上の真雪は一躍英雄になっていた。
リングサイドでその姿を見ていた、眼鏡をかけたとある女子生徒がいた。
「オンエア部にあんな子がいたなんて、これは面白そう。彼女はほうってはおけないね」
女子生徒は、ふふふと笑いながら、学食(仮)を去っていった。
「明夏ちゃん、大丈夫?」
「あのやろー。真雪、絶対に負けないでよ!」
「え……そんなこと言われても……」
「さあ、次は真雪の番でしょ。リングに上がって」
「ちょ、ちょっと明夏ちゃん。押さないで~」
真雪がリングに上がった。
一方のじゃんけん王は、余裕の表情で真雪をみている。
「ほほう、さっきの生意気なサイヤ人のお友だちですか。これはおもしろいですねぇ。でも、私の手に掛かれば星の一つや二つ、破壊するのは簡単です。サイヤ人ごときに、私の計画の邪魔はさせませんよ」
「じゃんけん王、キャラ変わってます」
「ふっふっ、失礼。ちょっと調子に乗りすぎたみたいだ」
じゃんけん王は、取り巻きの言葉でいつもの感じを取り戻す。
「真雪、あなたなら勝てるかもしれない。あのじゃんけん王の野望を打ち砕くことが」
「……明夏ちゃん、なんか目的変わってない?」
「いいのよ。真雪はとりあえず、グー、チョキ、パーのどれかを出せばいいんだから」
「そんなのわかってるよ……」
レフェリーがリングに上がった。
「それでは、挑戦者とじゃんけん王はリングの中央へ」
真雪はリングに上がる。
すると、なぜか他の人以上の歓声がわき起こっていた。
あ、また緊張してきた……。
真雪は多くの人の視線を感じて、体が固くなった。
カチコチな移動で、リングの中央まで歩いていく。
「それでは二人とも、準備はいいですか?」
「もちろん、いつでもはじめてくれたまえ」
「はい……はい……」
緊張した真雪には、はいと言うのが精一杯だった。
「じゃんけん……」
じゃんけん王が身構える。
……が、
「ちょっと待った!」
じゃんけん王がレフェリーを止めた。
そして、じゃんけん王はゆっくりとコーナーまで戻っていく。
じゃんけん王のいつもとは違う感じに、場内がざわつきはじめた。
「なんだ? ……こやつ……なにを考えてるのか全くわからん。未来が予知できない。……こんな敵ははじめてだ」
じゃんけん王が、いつになく動揺していた。
真雪は相変わらず緊張している。
「じゃんけん王、もうそろそろよろしいですか?」
レフェリーがそう言うと、
「よ、よし。いま行く」
じゃんけん王は、ゆっくりとリング中央まで戻ってくる。
落ち着け。
もう一度、もう一度予知を……。
「それでは、気を取り直して……じゃーんけーん」
レフェリーが先に進めた。
「ぽーん!」
二人はそれぞれ手を出した。
「挑戦者はパー。対するじゃんけん王は……パーだ! これは驚いた! いままであいこさえなかったじゃんけん王が、はじめてあいこになったー!」
場内はわっとどよめいた。
無敗のじゃんけん王が、はじめて一回で勝てなかったのだ。
じゃんけん王と引き分けたことでも、名誉なことだった。
「まだ勝負はついていません。試合は延長戦にもつれこみました」
レフェリーが説明した。
両者、いったんコーナーに戻った。
「真雪、すごい! いったいどうやったの?」
「緊張して手が動かなくて……そのまま前に出しただけ……」
「ああ、それでパーだったのね……」
真雪の緊張はまだとけてないらしかった。
それにしても、未来予知ができると言っていたじゃんけん王がどうして引き分けたんだろう。
……もしかしたら、真雪が何を出すのか予測できなかったとか?
でもどうして……。
明夏はずっと考えていた。
さっき真雪は、何も考えなくてそのまま手を出しただけと言ってた。
だから真雪の思考の未来が見えなかったんだ。
だとしたら……。
明夏は、真雪にこっそりと耳打ちをする。
「真雪、いい? 今度は思いっきりグーサインよ」
「え、グー?」
「そう。それだったらできるでしょ?」
「う、うん。わかった」
真雪がまたリングの中央に向かう。
まだかなり緊張しているらしい。
「それでは、試合を再開します。両者構えて」
二人は向き合った。
じゃんけん王は、またも予知能力を使った。
……よし、今度は見えるぞ。
こやつは次にグーを出す。
俺がパーを出せば、間違いなく勝利だ!
「じゃーんけーん」
レフェリーがかけ声を出した。
そのとき、
「真雪! ピースは!?」
明夏が真雪に話しかけた。
ピース?
チョキのことかな?
「ぽーん!」
グーを出す予定だった真雪は、とっさにチョキを出した。
対するじゃんけん王はパーを出している。
「………………」
場内がしんと静まり返った。
レフェリーも、いつもの解説を忘れてしまうほどの衝撃。
そう、無敗をほこっていたじゃんけん王が、ついに敗れる瞬間が訪れたのだ。
じゃんけん王の手がぶるぶると震えた。
そして、がくっとひざをついた。
「なぜだ……俺は生まれながらの特殊能力に恵まれた最強の男だぞ? それが、普通の人間に簡単に負けてしまうなんて、そんなことがあっていいものなのか?」
「もしあなたが予知なんかに頼らなければ、真雪に十分勝てたんじゃない? 真雪はね、ものすごくじゃんけんが弱いのよ。真雪に負けた人なんて見たことがないくらいに。私だって10回やったら、10回全部勝てるわよ。自分の力におぼれすぎて、普通にじゃんけんができなくなってしまったのがあなたの敗因よ!」
じゃんけん王は、明夏の話を黙って聞いていた。
そして、絶対使わないと公言していた小さな白旗を揚げて、それを左右に振った。
「俺の……負けだ……」
その瞬間、静まり返っていた場内が、今日いちばんの歓声に包まれた。
それは他の誰でもない、真雪に対するものだった。
「え……もしかして、私、勝っちゃった?」
真雪はようやく正気に戻って、目の前のことを理解した。
「真雪、おめでとう~!」
明夏がリングに上がってきて、真雪に抱きついてほおずりをした。
「ちょっと、明夏ちゃん。大げさだよ」
「だって、だって。じゃんけんに負けてばっかりだった真雪が、あの無敗のじゃんけん王に勝ったんだよ! 嬉しいに決まってるじゃない!」
場内は祝福の拍手が起こった。
今日の主役は、じゃんけん王ではなく、真雪に変わってしまった。
「真雪、インタビューいいかな? すっごいよ、本当に」
放送部の文香が、真雪の元にやってきた。
「おめでとう、真雪。今の気持ちを一言でお願いします」
「はい、嬉しい……のかな。あまり実感がわかないです」
「あのじゃんけん王に勝ったことはものすごい快挙なんですが、どういう作戦で勝負に挑んだのですか?」
「は……はは。ピースはチョキで、それだけです」
リング上の真雪は一躍英雄になっていた。
リングサイドでその姿を見ていた、眼鏡をかけたとある女子生徒がいた。
「オンエア部にあんな子がいたなんて、これは面白そう。彼女はほうってはおけないね」
女子生徒は、ふふふと笑いながら、学食(仮)を去っていった。