第50話 樹々先輩の教室へ

文字数 1,589文字

「さ、ゆきちゃん。行くでっしゃろ。準備はいいかヨ?」

 放課後、帰り支度をしていた真雪のところに、すぐに日菜がやってきた。

「ついに行くんだね。約束の地へ」
「そうにょす。もう戻れない、危険な旅になるかもしれないなす」

 ザッザッザッ。

 大げさに言っていた二人が向かうのは、部長の樹々がいる二年生の教室だった。
 堂々とした二人の歩き姿に、先輩である二年生たちも思わず横によけてしまうほどのオーラがある。

 ガラララッ!

「樹々部長、たのもー!」

 勇ましい姿をそのままに、教室の扉を開けた日菜が、樹々のいる教室の前で叫んだ。

「樹々さんならもう教室にはいませんよ」

 クラスの女子が、冷静な態度で答える。

「うひょ? いったいどこへ!?
「さあ、知らないわ。ただ、帰りの挨拶が終わってすぐに教室を出ていったみたいだから。いそいでどこかに向かったんじゃないかと思われます」
「そうっすか。失礼しましたのす」

 がっくりと、日菜は肩を落とす。

「日菜ちゃん、まだ終わってないよ。携帯で樹々先輩に電話すれば、居場所がすぐにわかるよ」

 真雪はポケットから、さっとガラケーを取り出す。

「ゆきちゃん、先輩の携帯番号を知ってるにょ?」
「私は知らないんだけど。……日菜ちゃんが知ってるんじゃないの?」
「日菜も知らんにょる」
「ええっ、どうしよう……。本当に樹々先輩がどこに行ったのか、わからなくなっちゃった」
「……めいちゃんは? ちょっと電話して聞いてみるなす!」

 日菜は明夏に電話した。

「あ、めいちゃんでしか? こちらスパイ135号。樹々先輩の携帯番号、教えて欲しいにょす。暗号、プリーズ。…………え、知らない? ……了解。こちらで任務を続行する」

 日菜が電話を切る。
 お手上げ状態と言わんばかりに、両手をあげて首を振る。

「だめにょす。めいちゃんも知らないらしいなる」
「だめだったんだ……。というか、今の会話で明夏ちゃんに通じてたんだ……」

 日菜の電話の話し方は、真雪にはよくわからなかった。

「困ったなりね。ゆきちゃん、いい考えはありまするか?」
「樹々先輩のクラスの人に聞いてみよう? きっと誰か携帯番号を知ってるはずだよ」

 真雪はもう一度、先輩のクラスの前にやってきた。

 そーっと扉を開けて、

「あのー、樹々先輩の携帯番号、知ってる人いませんか?」

 恥ずかしいので、小さい声で言った。

「……」

 教室内からは返事がない。
 不思議に思った真雪は、扉から顔を出すように、そーっと中をのぞく。

「……って、もう教室の中に誰もいなーい!」

 真雪は今日いちばんの大声で言った。
 日菜は、真雪の肩にぽんと手をおいた。

「ゆきちゃん、ドンマイ。気を取り直して、先輩を捜しに行こうぞよ」

 こうして二人は、樹々先輩を捜しに行くこととなった。

「ゆきちゃん、どうしたみょ? 乗り気じゃない顔をして」
「私、最近いつも何かをさがしてばかりの気がするから……」

 明夏、部室の次は樹々先輩さがし。
 たてつづけに何かをさがすイベントが続くと、真雪もさすがに疲れてきていた。


「日菜ちゃん。樹々先輩を捜すと言っても、どこを捜すの?」
「やっぱりここは、樹々先輩が行きそうな場所に行ってみるのがいいっすね。ゆきちゃん、心当たりはありゅ?」
「樹々先輩の行きそうなところ」

 真雪は考えた。

 樹々先輩って頭良さそうだから、図書室で本を読んでるイメージがあるよね。他には……あ、音楽とか好きそうだから音楽室? それに、真面目だから生徒会室とか。

 よくわからない考え方で、真雪はいろんな場所を候補にあげていた。

「ゆきちゃん……さっきから頭ぐるんぐるんまわして獅子舞みたいっす。どうしたにょすか?」
「いろいろありそうで頭が……。図書室! 図書室に行ってみようよ!」
「おお、ゆきちゃん自信ありっすね。じゃ、さっそく行ってみるっす」

 真雪が悩んだ結果、二人は図書室へ行くことにした。
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登場人物紹介

真雪(まゆき)


主人公。

ちょっと人見知りする高校一年生。

明夏(めいか)


真雪の親友。

活発でレトロゲームが好き。

日菜(ひな)


真雪のクラスメイト。

ちょっと変な性格で語尾が変。特技は自己流の落語。

樹々(じゅじゅ)


オンエア部の部長。

いつも冷静でクールな先輩。

メロン先輩


真雪に親切にしてくれる謎が多い先輩。

自由気ままな人。

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