第97話 真雪らしいオンエア

文字数 2,613文字

 今までとは違う。
 真雪の心は、やる気で満ちあふれていた。

 とにかく何か話さないと。
 ええっと……今日は文化祭だから……。

 普段あまり使わない頭をフル回転で稼働させる。

「今日は文化祭! ということで、文化祭にちなんだとってもためになる話をしてみたいと思うひゅん! そもそも文化祭というのは」

 言ったあと、真雪はふと思った。

 私、ためになる話なんて何も知らない。
 いきおいで言ってしまったけど、次の言葉が出てこなかった。
 もし自分が物知りな樹々先輩なら、できたかもしれないけど……。

 真雪はめげることなく、次の話をする。

「……ではなく、旅のお話! みんながあっと驚くような冒険の話です! ええっと……」

 また、言葉が続かなかった。

 旅のお話、驚くような冒険の話って?
 自分で言っておいて、まったく何も思い浮かばなかった。
 いろいろな場所を旅してそうな西瓜先輩なら、ずっとお話ができたかもしれない。

「……やっぱり面白い話といえばお笑いだよね。ここで僕がお笑いのネタをやってみるよ! ……えーっと、雪だるまの体がどうして白いのか知ってる? 雪でできてるからやー!」

 ……。
 喫茶店内は一瞬でしらけてしまった。

 お笑いっぽく関西弁使ってみたけど、ぜんぜんうけてない!
 ……やっぱり私、笑いの才能がないのかな……。
 日菜ちゃんだったら、みんなを笑わせることができたかもしれないのに。

「……ははっ、あはは。面白くなかったよね~。じゃあみんな、僕とゲームで遊ぼうよ。誰かわからないけど、ここにゲーム機を用意してくれていたみたいだし」

 真雪が近くに置いてあった携帯ゲーム機を手に取った。
 だが……、

「手が届かない! ……やっぱり両手使うのは無理みたい。これはまいったな~」

 失敗しても、とにかく明るく振る舞うようにした。
 だが、心の中ではものすごく焦っていた。

 どうしよう。
 明夏ちゃんだったら片手でも名人芸みたいにゲームできたかもしれないけど、私には無理だよ。
 これからいったいどうしたら……。

 真雪はいよいよ追い込まれてしまった。

「……ねえ、他のところを見にいかない?」
「そうね。あんまり楽しくないし」

 廊下から見ていた人が次々と去っていった。
 残ったのは、教室の客席にいるオンエア部の活動をあまりよく思っていない先生方と生徒会のメンバーだけになった。

「あの……えと……」

 さっきよりも重い空気が教室内を流れ始める。

 いよいよ追いつめられた真雪。
 そんなとき、生徒会長が立ち上がって真雪に近づいてきた。

「……もうやめませんか?」
「え?」
「人がいなくなってわかったでしょう? これが現実です。最初は物珍しさに人が集まって来たけど、結局人は去っていった」
「……」

 雪だるまは身動きひとつせずにじっとしていた。
 生徒会長は続けて言う。

「オンエア部は過去のもの。もうこの学校には必要ないんです」
「そんなことない!」

 真雪は雪だるまになっていることを忘れて、大声で言った。

「今でもオンエア部はみんなを楽しませることができるよ! だって私も、昔のオンエア部のビデオを見たとき、すごく面白いと思ったから。今の私にはまだ力不足かもしれないけど……いつかきっと最高のオンエアをしてみせる! だから、部活動をやりたいんです!」
「……考え方は人それぞれ。そのことに関しては、意見を言うつもりはありません。だが、オンエア部は一度廃部になった部活動です。生徒会としても、これ以上このようなゲリラ的な活動を認めるわけにはいきません。今すぐにでもやめていただかないと」
「ちょっと待った!」

 文香が話に割り込んできた。
 二人の間に入り込み、人差し指をびしっと立ててから言った。

「これはオンエア部の活動ではありません。私たちクラスの出し物なんです。真雪は私たちのクラスメイト。その真雪がやっていることなのだから、何の問題もないはずです」

 文香の気迫に、生徒会長も少しひるんだ様子だった。

「……わかりました。少し出過ぎた真似をしてしまいましたね。どうぞ、お続けください」

 生徒会長は何か言いたそうにしていたが、素直に席に戻っていった。

「文香ちゃん、ありがとう。助けてくれて」
「そんな、お礼を言われるようなことじゃないって。……それより大丈夫なの? トークがうまくいってないみたいだけど」
「なかなかいいお話が思いつかなくて……どうしよう」
「いつもの真雪らしい話でいいと思うけどな~。真雪の話って、ちょっと変なところあるけど聴いてて面白いよ」
「え、そうなの?」
「うん。文化祭の準備をしているとき、みんな言ってた。早く真雪のオンエアを聴いてみたいって」
「私の……」

 今まで他の誰かのように上手にオンエアしようとしていた。
 でもそれは、本当の意味で自分のオンエアじゃない。

 私の……私らしいオンエアは……。

 真雪はしばらく普段の学校生活を思い出していた。

 とある日の、明夏ちゃんとの会話――。


「だって、そこに円盤型のUFOが着陸してたんだよ? それがびっくりしてなんかほんとにびっくりだったよ!」
「あの~、真雪? さっきから、UFOびっくりってことしか言ってないんだけど」
「だってあれだよ? もうぜったいびっくりするって! UFOだよ?」
「……」


 UFOみたいなものを見つけたときの話だけど、あの時は明夏ちゃんあきれてたな……。
 本当はUFOのことを詳しく話そうと思ってたんだけど……私って、あんまり語彙力ないのかも。

 思い出して、少し後悔する。
 文香の言っている聴いてて面白い話というのは、おそらく違うものだろう。

「真雪、しっかりね!」

 文香がバックに戻り、オンエア席に真雪の雪だるまが一人、残されてしまった。

 ど、どうしよう。
 どういうところが面白いのか聞いておけばよかったかも。
 どんな話をすれば……。

 真雪が何も言えないでいるそのとき、

「ひゅるるる~るるる~」

 哀愁のただよう声とともに、廊下から下駄の音が聞こえてきた。
 足音はだんだんと大きくなり、教室の前で音が止まった。

「……どうやらここのようだな。行くぞ、ヤローども!」
「押忍!」

 学ランを着た大男の指示で、数人の男たちが教室の中に入ってきた。
 一瞬にして、教室内が緊張感が走る。

「あれは、未公認で活動している応援団のメンバーたち! なぜ……なぜ彼らがこんなところに!」

 生徒会長はいきなりの来客に驚きを隠せなかった。
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登場人物紹介

真雪(まゆき)


主人公。

ちょっと人見知りする高校一年生。

明夏(めいか)


真雪の親友。

活発でレトロゲームが好き。

日菜(ひな)


真雪のクラスメイト。

ちょっと変な性格で語尾が変。特技は自己流の落語。

樹々(じゅじゅ)


オンエア部の部長。

いつも冷静でクールな先輩。

メロン先輩


真雪に親切にしてくれる謎が多い先輩。

自由気ままな人。

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