第30話 通りすがりの応援団
文字数 1,520文字
レトロゲームが好きそうな男子に部室の場所を聞いてみたあと、真雪は走ってその場所を去っていた。
気がつくと、いつの間にか校舎のいちばん端まで来ている。
「緊張した~。……レトロゲームが好きそうな男の子でも部の存在は知らないんだ。レトロゲーム部って、謎が多いなあ」
行き止まりなので来た道を戻ろうとすると、
「ファイ、オー、ファイ、オー」
グラウンドからランニングをしている人たちの声が聞こえてきた。
真雪が窓から見てみると、制服のまま走っている数人の男子生徒たちの声だった。
どこの部活だろう。
運動部だったらもっと動きやすそうな格好で走ってるよね。
真雪は不思議に思った。
はちまきをした体の大きい人を先頭に、一列になってグラウンドの隅を走り続けている。
あれ?
学生服だけど、ちょっと変わった服……それに、下駄履いてる。
もしかしたら、あれがレトロゲーム部なのかな?
レトロゲームで必要な体力をつけるトレーニングとか。
気になった真雪は頬杖をついて、窓から走っている様子をずっと目で追っていた。
一方、走っている男子生徒たちも真雪に見られていることに気が付き始めた。
「おい、見ろよ。校舎の窓から女子が俺たちのことをじっと見てるぜ?」
「まじかよ!? いったいなぜ……はっ! もしかしたら、俺たちの中にその女子の気になる人がいるじゃ……」
「誰だよ! そんなうらやましい奴は!」
ランニングの列にいる男子たちがざわつき始めた。
かけ声も次第にばらばらになってきている。
「ストップ! ストーップ!」
いちばん前を走っていた大男が、ランニングを止めた。
大男は振り返り、鬼のような形相で後ろにいた男子たちを見た。
「お前たち、ランニング中に何を話しているんだ。いくらシーズンオフとはいえ、少したるんでるぞ」
大男が部員に向けて厳しく言った。
後ろのほうにいたヒョロい男子が、大男のそばに来て、ひそひそと耳打ちをする。
「団長、大変っすよ。校舎の窓から女子がじっとこっち見てるっす」
「何、女子だと? どこだ!?」
大男改め団長は、ヒョロい男の目線の先を確認した。
たしかに、女子(真雪)がこちらのほうをじっと見つめていた。
「信じられん……。我が応援団に興味のある女子がいるとは。入部希望者だったら、今すぐにでも話を」
「団長、それは違うと思うっす。あの女子が我々の誰かに好意を寄せているのかと」
「なに?」
「……もしかしたら、団長のことが気になっているのかもしれないですぜ?」
「なっ……ば、馬鹿なことを言うな! 俺はいつでも誰かの応援に全力投球。自分の幸せなど……二の次だ!」
団長は少し顔が赤くなっていた。
「団長……その献身的な姿勢、素敵っす。俺、ずっと団長についていくことにしたっすよ!」
「ヒョロ男、わかってくれたか。……まあでも、好意を寄せてくれている相手を、何もしないで無視するのも失礼だ。手を振って応えるくらいなら問題はない」
団長は、校舎のほうを向いて、
「おーい、応援ありがとう~!」
いつもとはぜんぜん違う、さわやかな声を出して手を振った。
「……団長。あの子、もうどこかに行っちゃったみたいですよ?」
「ぬわにぃ!? せっかく女子と仲良くできるチャンスだったのに!」
「それが本音だったんすね……」
「よしお前ら、ランニングはあと三十周追加だ! 全校生徒の女子たちに、俺たちのかっこいい姿を見せてやろうぜ!」
「げっ……そんなに走るんすか!? 団長、今まで彼女できたことないからって、必死になりすぎっすよ!」
「行くぞ! ファイオーファイオー!」
団長がやる気になって、部員たちはがっかりした。
そして、応援団はその後も、延々とグラウンドを走り続けていた。
気がつくと、いつの間にか校舎のいちばん端まで来ている。
「緊張した~。……レトロゲームが好きそうな男の子でも部の存在は知らないんだ。レトロゲーム部って、謎が多いなあ」
行き止まりなので来た道を戻ろうとすると、
「ファイ、オー、ファイ、オー」
グラウンドからランニングをしている人たちの声が聞こえてきた。
真雪が窓から見てみると、制服のまま走っている数人の男子生徒たちの声だった。
どこの部活だろう。
運動部だったらもっと動きやすそうな格好で走ってるよね。
真雪は不思議に思った。
はちまきをした体の大きい人を先頭に、一列になってグラウンドの隅を走り続けている。
あれ?
学生服だけど、ちょっと変わった服……それに、下駄履いてる。
もしかしたら、あれがレトロゲーム部なのかな?
レトロゲームで必要な体力をつけるトレーニングとか。
気になった真雪は頬杖をついて、窓から走っている様子をずっと目で追っていた。
一方、走っている男子生徒たちも真雪に見られていることに気が付き始めた。
「おい、見ろよ。校舎の窓から女子が俺たちのことをじっと見てるぜ?」
「まじかよ!? いったいなぜ……はっ! もしかしたら、俺たちの中にその女子の気になる人がいるじゃ……」
「誰だよ! そんなうらやましい奴は!」
ランニングの列にいる男子たちがざわつき始めた。
かけ声も次第にばらばらになってきている。
「ストップ! ストーップ!」
いちばん前を走っていた大男が、ランニングを止めた。
大男は振り返り、鬼のような形相で後ろにいた男子たちを見た。
「お前たち、ランニング中に何を話しているんだ。いくらシーズンオフとはいえ、少したるんでるぞ」
大男が部員に向けて厳しく言った。
後ろのほうにいたヒョロい男子が、大男のそばに来て、ひそひそと耳打ちをする。
「団長、大変っすよ。校舎の窓から女子がじっとこっち見てるっす」
「何、女子だと? どこだ!?」
大男改め団長は、ヒョロい男の目線の先を確認した。
たしかに、女子(真雪)がこちらのほうをじっと見つめていた。
「信じられん……。我が応援団に興味のある女子がいるとは。入部希望者だったら、今すぐにでも話を」
「団長、それは違うと思うっす。あの女子が我々の誰かに好意を寄せているのかと」
「なに?」
「……もしかしたら、団長のことが気になっているのかもしれないですぜ?」
「なっ……ば、馬鹿なことを言うな! 俺はいつでも誰かの応援に全力投球。自分の幸せなど……二の次だ!」
団長は少し顔が赤くなっていた。
「団長……その献身的な姿勢、素敵っす。俺、ずっと団長についていくことにしたっすよ!」
「ヒョロ男、わかってくれたか。……まあでも、好意を寄せてくれている相手を、何もしないで無視するのも失礼だ。手を振って応えるくらいなら問題はない」
団長は、校舎のほうを向いて、
「おーい、応援ありがとう~!」
いつもとはぜんぜん違う、さわやかな声を出して手を振った。
「……団長。あの子、もうどこかに行っちゃったみたいですよ?」
「ぬわにぃ!? せっかく女子と仲良くできるチャンスだったのに!」
「それが本音だったんすね……」
「よしお前ら、ランニングはあと三十周追加だ! 全校生徒の女子たちに、俺たちのかっこいい姿を見せてやろうぜ!」
「げっ……そんなに走るんすか!? 団長、今まで彼女できたことないからって、必死になりすぎっすよ!」
「行くぞ! ファイオーファイオー!」
団長がやる気になって、部員たちはがっかりした。
そして、応援団はその後も、延々とグラウンドを走り続けていた。