第22話 真雪、再びお弁当を忘れる
文字数 1,616文字
チャラリラ~。
午前の授業が終わって、昼休みの時間。
今日、オンエアの当番ではない真雪は、教室でお弁当を食べる予定だった。
「おべんとおべんと。今日は忘れてないよね」
うきうきの気分で鞄の中に手を入れる。
手探りで、お弁当があることがすぐにわかった。
「よかった。ちゃんとあるみたい。ふふっ。今日のお弁当は、ハンバーグが入ってるから特に嬉しい」
真雪は、にへ~っとだらしない笑顔を見せる。
と、そこへ、
「真雪~、見て見て~」
明夏がつま先立ちで歩いてきた。
よろよろとしていて、いまにも倒れそうな感じである。
「明夏ちゃん、今日はまたいちだんと変なことを……。何やってるの?」
「今日はね、教室の中で『つま先だけで歩く』っていうマイルールを作ったんだよ。でも、さすがにこの時間になってくるとつらくなってきた……」
「動機はよくわからないけど、なんだかすごいよね。チャレンジャーって雰囲気出てるよ」
「でしょ? でも、もうそろそろつらいから、早く学食に行こう? 今すぐにでも教室から出たいんだよ」
「ごめん、今日はお弁当だから教室で食べるよ」
「なぬっ!? おおっ、足がつりそう……っと、セーフ」
明夏はよろけて、真雪の肩をつかむ。
そして、なんとか誰もいない真雪のとなりの席の椅子に座った。
「椅子の上はつま先立ちじゃなくてもセーフなんだ」
「つま先は歩くときだけ。そうじゃなかったらもうギブアップしてるよ。それより、本当に今日はお弁当?」
「うん。この鞄の中にあるよ」
真雪は明夏に見せようとして、鞄の中からお弁当を取り出そうとした。
がさごそ。
がさごそ。
だが、どんなによく調べても、お弁当らしき物は見当たらない。
「あれ、おかしいな。さっきはあると思ったんだけど」
真雪は鞄に顔をつっこむようにして中をのぞいた。
「ああ、あった。これこれ。じゃーん、お弁当箱~……ん?」
真雪はお弁当箱らしき物を取り出す。
だが、それはちょっと違うものだった。
「どうしてお裁縫箱が入ってるの? 授業でも使わないのに」
真雪はお裁縫箱を鞄に戻した。
それから、またごそごそと鞄の中を探してみる。
「あれ? おかしいな。さっきはお弁当箱の感触があったと思ったのに」
「真雪。もしかしてお弁当箱とお裁縫箱、間違えて持ってきた? その二つ、形が似てると思うんだけど」
明夏がなんとなく聞いてみた。
すると、真雪の周囲は、一瞬にしてどんよりとした暗い陰で覆われてしまう。
「うへっ……真雪、まさか本当に……」
「ううっ。うううぅ~」
明夏に返事をするかわりに、真雪は今にも泣きそうな顔をした。
「どうしよう。今日の朝、テーブルの上にあったのはわかってたのに。間違えてお裁縫箱を持って来ちゃった」
「それは……惜しかったね……」
真雪の落ち込みように、明夏はいいなぐさめの言葉が思い浮かばなかった。
真雪はさらに落ち込んで、どんよりとした空気がますます大きくなる。
「うっ、このどんよりはいつもよりも強烈……。じゃ、じゃあさ。やっぱり学食に行こうよ。ほら、最近面白いメニューが追加されたって噂だし、どんなものか見てみないと」
「……」
真雪の沈黙に、しばらく重い空気が流れた。
しばらくしてから、
「……………………そうだよね。落ち込んでてもしょうがない。明夏ちゃん。私、学食に行くよ」
真雪はようやく現実を受け入れた。
ガタッ。
ヒュルルル~。
真雪は悲しいオーラをまとったまま、席を立って歩き始める。
「あ、ちょっと待ってよ。私はつま先歩きなんだから、ゆっくり歩いて……って、え?」
真雪の足取りは、スローモーションを見ているように遅かった。
つま先歩きの明夏でさえ、すぐに真雪に追いついた。
「……真雪、そんなにショックだった?」
「うん。今日は特にね。ハンバーグがおいしそうだったから……」
重い足取りと、つま先歩き。
二人は教室にいるクラスメイトに強烈な印象を残して、その場を去っていった。
午前の授業が終わって、昼休みの時間。
今日、オンエアの当番ではない真雪は、教室でお弁当を食べる予定だった。
「おべんとおべんと。今日は忘れてないよね」
うきうきの気分で鞄の中に手を入れる。
手探りで、お弁当があることがすぐにわかった。
「よかった。ちゃんとあるみたい。ふふっ。今日のお弁当は、ハンバーグが入ってるから特に嬉しい」
真雪は、にへ~っとだらしない笑顔を見せる。
と、そこへ、
「真雪~、見て見て~」
明夏がつま先立ちで歩いてきた。
よろよろとしていて、いまにも倒れそうな感じである。
「明夏ちゃん、今日はまたいちだんと変なことを……。何やってるの?」
「今日はね、教室の中で『つま先だけで歩く』っていうマイルールを作ったんだよ。でも、さすがにこの時間になってくるとつらくなってきた……」
「動機はよくわからないけど、なんだかすごいよね。チャレンジャーって雰囲気出てるよ」
「でしょ? でも、もうそろそろつらいから、早く学食に行こう? 今すぐにでも教室から出たいんだよ」
「ごめん、今日はお弁当だから教室で食べるよ」
「なぬっ!? おおっ、足がつりそう……っと、セーフ」
明夏はよろけて、真雪の肩をつかむ。
そして、なんとか誰もいない真雪のとなりの席の椅子に座った。
「椅子の上はつま先立ちじゃなくてもセーフなんだ」
「つま先は歩くときだけ。そうじゃなかったらもうギブアップしてるよ。それより、本当に今日はお弁当?」
「うん。この鞄の中にあるよ」
真雪は明夏に見せようとして、鞄の中からお弁当を取り出そうとした。
がさごそ。
がさごそ。
だが、どんなによく調べても、お弁当らしき物は見当たらない。
「あれ、おかしいな。さっきはあると思ったんだけど」
真雪は鞄に顔をつっこむようにして中をのぞいた。
「ああ、あった。これこれ。じゃーん、お弁当箱~……ん?」
真雪はお弁当箱らしき物を取り出す。
だが、それはちょっと違うものだった。
「どうしてお裁縫箱が入ってるの? 授業でも使わないのに」
真雪はお裁縫箱を鞄に戻した。
それから、またごそごそと鞄の中を探してみる。
「あれ? おかしいな。さっきはお弁当箱の感触があったと思ったのに」
「真雪。もしかしてお弁当箱とお裁縫箱、間違えて持ってきた? その二つ、形が似てると思うんだけど」
明夏がなんとなく聞いてみた。
すると、真雪の周囲は、一瞬にしてどんよりとした暗い陰で覆われてしまう。
「うへっ……真雪、まさか本当に……」
「ううっ。うううぅ~」
明夏に返事をするかわりに、真雪は今にも泣きそうな顔をした。
「どうしよう。今日の朝、テーブルの上にあったのはわかってたのに。間違えてお裁縫箱を持って来ちゃった」
「それは……惜しかったね……」
真雪の落ち込みように、明夏はいいなぐさめの言葉が思い浮かばなかった。
真雪はさらに落ち込んで、どんよりとした空気がますます大きくなる。
「うっ、このどんよりはいつもよりも強烈……。じゃ、じゃあさ。やっぱり学食に行こうよ。ほら、最近面白いメニューが追加されたって噂だし、どんなものか見てみないと」
「……」
真雪の沈黙に、しばらく重い空気が流れた。
しばらくしてから、
「……………………そうだよね。落ち込んでてもしょうがない。明夏ちゃん。私、学食に行くよ」
真雪はようやく現実を受け入れた。
ガタッ。
ヒュルルル~。
真雪は悲しいオーラをまとったまま、席を立って歩き始める。
「あ、ちょっと待ってよ。私はつま先歩きなんだから、ゆっくり歩いて……って、え?」
真雪の足取りは、スローモーションを見ているように遅かった。
つま先歩きの明夏でさえ、すぐに真雪に追いついた。
「……真雪、そんなにショックだった?」
「うん。今日は特にね。ハンバーグがおいしそうだったから……」
重い足取りと、つま先歩き。
二人は教室にいるクラスメイトに強烈な印象を残して、その場を去っていった。