第72話 真雪、放送部へ

文字数 2,093文字

 数日後。

「じゃあね、真雪。また明日」
「ゆきちゃん、さよならなのですよ」
「うん、ばいばい」

 放課後になり、明夏、日菜と挨拶をして、真雪は自分も部活動へ行く準備をした。

 あれから真雪は、放送部に入ることに決めた。
 他にやりたいことがみつからなかったので、放送部に入って、オンエアを続けていこうと決めたのだった。

「真雪、準備はできた?」

 真雪は文香に声をかけられた。
 文香は真雪のクラスメイトで、放送部の部員。
 真雪の初日となる今日は、一緒に部室に行こうと約束していたのだった。

「大丈夫かな……私、みんなとうまくやっていけるかな……」
「問題ないよ。放送部はいま、私含めて5人しかいないんだから。……あ、真雪も入れると6人だね」

 真雪が思っていたよりも少ない人数。
 もっと人が多いかと思っていたので、ちょっと意外なことだった。

「さ、行こう」

 文香に連れられて、真雪は第一放送室までやってきた。
 職員室近くの目立つ場所にあり、学食棟にひっそりとあった第二放送室とは全然違う。

 真雪が第一放送室に入ろうとすると、

「あ、そっちは放送をするときだけ使うから。放送部って、普段はこっちを使ってるんだ」

 文香に案内されたのは、放送部の隣にある「放送準備室」。
 放送機材がたくさん置かれた、教室くらいの広さがある部屋だった。

「まだ誰も来てないみたいね。私、ちょっと準備してくるから。適当に座って待っててよ」
「あ、うん」

 家に招待されたかのような感じ。
 真雪は鞄をおいて、隅のほうにあった椅子に座った。
 あらためて、部屋の中を見回す。

 棚にはビデオカメラや三脚、コードのようなものまであり、そこに置かれているかごの中に、たくさんのマイクが入っていた。
 その他にも、放送に関するありとあらゆる物がある。
 この学校の、放送施設の中核であることは見るだけでわかった。
 最低限の道具しかない、オンエア部の部室とは全く違う。

 そこへ、

「あー、今日も日差しが強かったわー。本当、日焼け止めしておいてよかったー」

 真雪のクラスメイトで放送部の五文太(ゴブ)が入ってきた。
 ゴブは真雪の存在に気付いてないのか、その辺にあった椅子に座ると、鞄の中から手鏡を取り出して、自分の顔をなめるように眺めていた。

 あ、ゴブだ。
 ……同じ放送部になるんだし、いちおう挨拶をしておいたほうがいいよね。

 真雪がゴブに近づく。
 ゴブは鏡に夢中で、真雪の存在にはまだ気がついていない。

 真雪は後ろから話しかけてみた。

「……あの」
「うひょわっぷぉうぇ!」

 ゴブは驚きのあまり椅子から転げ落ちて、何語かわからない言葉を発して逃げ出しそうになった。
 だが、真雪の姿を確認して、少し冷静さを取り戻す。

「……はっ、なんだ。真雪さんじゃないですか。もう、びっくりさせないでくださいよ」
「あ、ごめんなさい。驚かすつもりはなかったんだけど……あの、今日から放送部に入ることになったのであいさつをしておこうかなって思って」
「そうですか。オンエア部が廃部になってしまったことは災難だったわね。……ま、よろしくお願いします」
「はい。よろしくお願いします……」

 それっきりで会話は終わり、ゴブはまたさっきのように鏡で自分の顔を見始めた。

 ……よかった。
 あいさつはちゃんとできた。

 態度には表さなかったが、心の中では、ほっとしていた。

 それからまた、待っている時間が続いた。
 相変わらずゴブは自分の顔に夢中。
 真雪は一人、暇をもてあましていた。

 文香ちゃん遅いな。
 早く戻ってきてくれないかな。

 真雪がそんなことを思っていると、

 ばんっ!

 いきなり放送準備室のドアが勢いよく開いた。
 驚いたゴブは、またもや椅子から転げ落ちてしまった。

「真雪さん、ついに放送部に入ってくれるのね!」

 それは、放送部の部長である千風だった。
 千風は中に入ってきたかと思うと、他には目もくれずに真っ先に真雪のところにやってきた。

「よく来てくれたね。もう大歓迎、私、すっごく嬉しい!」
「あ、ありがとうございます……」

 千風のテンションに、真雪はちょっと押され気味になる。
 そこに、横からゴブが書類のような物を持ってきて、千風に話しかけた。

「あ、部長。今度の放送大会の、スピーチの内容を考えてきました。見てくれませんかしら?」
「ちょっと待ってて五文太くん。その話はあとで。いまはちょっと真雪さんタイムでいそがしいから」
「は、はあ……」

 ゴブはとぼとぼと戻っていく。
 真雪は、軽くあしらわれてしまったゴブのことがちょっと気の毒に思えてきた。

「真雪さん。これからうちの部は、大会とか学校行事でたくさん活躍できる場所があるの。真雪さんのオンエア活動と並行になるだろうけど、一緒に頑張っていこう、ね?」
「はい。よろしくお願いします。……えっと、わからないことだらけなので、いろいろと教えていただければ嬉しいです」
「おっけー。五文太くん、早速準備よ。それじゃあ、まずは放送室の使い方からね。行きましょう」

 真雪は千風に連れられて、第一放送室のほうに行った。
 こうして、真雪の放送部としての部活動が始まった。
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登場人物紹介

真雪(まゆき)


主人公。

ちょっと人見知りする高校一年生。

明夏(めいか)


真雪の親友。

活発でレトロゲームが好き。

日菜(ひな)


真雪のクラスメイト。

ちょっと変な性格で語尾が変。特技は自己流の落語。

樹々(じゅじゅ)


オンエア部の部長。

いつも冷静でクールな先輩。

メロン先輩


真雪に親切にしてくれる謎が多い先輩。

自由気ままな人。

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