第23話 学食の大行列

文字数 2,197文字

 お弁当を忘れて、明夏と学食に行くことになった真雪。
 教室を出たころは暗い表情だったが、学食に近づくと、いつもどおりの明るい感じに戻っていた。

「そういえば、真雪がお弁当を忘れて学食行くのって、真雪が初めて学食に行ったとき以来だよね」
「うん。あのときは本当に昼食抜きだと思ってたから、学食があって助かったよ」

 その日は私にとって、運命の日でもあったんだよね。

 真雪は、初めて学食に行ったときのことを思い出した。

 真雪は初めての学食で、オンエア部の放送があるのを知った。
 それがきっかけで真雪はオンエア部に興味を持ち、最終的には入部するまでになったのだった。
 もしそのとき、お弁当を忘れてなかったら、真雪はオンエア部には入部してなかったと思っている。

 校舎を出て学食棟の近くまで来ると、なにやらいつもよりも騒がしい雰囲気だった。

「ん? 今日はやけに人が多いような気がするけど」
「本当だ。学食の外まで行列ができてるよ」

 いつも人が多い学食だが、ここまで列が並ぶことめったにない。
 二人はそこにできている列の一番後ろに並んだ。

「明夏ちゃん。行列、長いよね。私たち昼休み中に食べられるかな」
「わかんない。ま、私は教室のつま先立ちから解放されてるだけでも嬉しいけど」
「つま先立ちチャレンジまだやるつもりなんだ……。あ、建物の写真撮ってる人もいる」

 いつもは学食棟の写真を撮る人なんて見たことがない。
 その光景が、真雪には少し不思議に思えた。

「う~む、列もなかなか進まないし、やっぱりいつもとは何か違う。もしかしたら、だれか有名人が、サプライズで学食に来てるとか?」
「本当だったら嬉しいかも。私たちもサインとかもらえるかな?」

 謎の予想をしながら、真雪と明夏は列が進むのを待った。
 そして、5分が経過した。

「……明夏ちゃん。私たち、この場所から前に進めてないよね?」
「おかしい。本当に中で何かあってるのかな……。真雪は並んでて。私が何があってるのか、列の前のほう見てくるから」

 明夏が列を離れた。
 列の外でも人が多くて、明夏が中に入るのに苦労しているのが見えた。

「明夏ちゃん、大丈夫かな。この人混みで身動きがとれなくならないといいんだけど」

 真雪が並ぶ列がようやく1mくらい進んだとき、明夏があせった表情で走って戻ってきた。

「間違えた! この列は、相撲部にレンタル移籍した松君の握手会の列だ! 真雪こっちに急いで!」
「え?」

 真雪は明夏に手を引かれて、隣にある列に移動した。
 そして、

「まじかよっ! 松の握手の列だったのかよ!」
「おい、学食はこっちだってよ!」

 近くで明夏の話を聞いていた人も、一斉に動き始める。
 間違えてる人も多かったみたいで、松君の握手会の列は、半分くらいに減った。
 それでも半分くらい松君の握手会に残っているところをみると、松君もかなり人気があるらしい。

「……ふう、よかった。こっちが本当の列ね」
「こっちの列は渡り廊下通り越して、校舎の入り口くらいまで列があるよ」
「松君の握手会よりも多いわね。でも、なんでだろう。もしかしたら新メニューが大人気なのかも。学食史上最強のメニューって書いてあったし」
「そのメニュー、ちょっと食べてみたいかも」
「注文した人は別室に通されて、暗闇の中で食べるらしいよ?」
「やっぱり食べたくない……」

 しばらく待って、ようやく学食棟の入り口まで列が進んだ。
 そこでようやく、真雪はあることに気が付いた。

「? なんだろう。あんなの今までなかったのに」

 学食棟の入り口に、目立つように大きな看板があった。
 その周りには、列とは別の人だかりができている。

「ここからじゃなんて書いてるのか見えないよ」
「気になるから、真雪が見てきてよ。私はさっき松君の列を見てきたでしょ?」
「えっ、私? 昼食を食べ終わった後で見るから……って、ちょっと明夏ちゃん。押さないで~!」

 真雪は看板の前の人だかりのなかに押し込まれた。

「ぐしょ~!」

 真雪は謎の叫び声を上げた。
 そして、底なし沼にはまっていくように、真雪の体は人混みに吸い込まれていく。

「明夏ちゃん助けて~」

 しゅるるるる。

 真雪の体が完全に人混みに飲み込まれた。
 その姿は、もうどこにも見えない。

「真雪。あなたのことはずっと忘れないよ」

 明夏が手を合わせてお祈りしていると、

「ええ~!?

 ひときわ大きな声が響いた。
 どうしたんだろうと思い、明夏が辺りを見回すと、真雪がさっきの人混みの中から「ぐぬぬ~」とか言いながら這い上がってきた。

「明夏ちゃん、大変だよ~!」

 真雪は自力で人混みから脱出して、明夏の並ぶ列に戻ってきた。

「……真雪って、けっこうたくましいところがあるよね。かわいいキャラでありたいと思ってる割には」
「そんなこと言ってる場合じゃないよ! 学食が今週いっぱいで閉鎖されるんだって!」
「あ~、なるほど。もうすぐ閉鎖するから人がこんなに多かったんだ」
「感心してる場合じゃないよ! 学食がなくなったら私たち、部活ができなくなっちゃうよ!」
「うっ、言われてみれば」

 真雪に言われて、明夏は事態の深刻さを感じた。

「明夏ちゃん。とりあえず部室に行ってみよう? 誰かいて、事情を知ってるかもしれない」
「う~ん、学食食べられなくなるのは残念だけど。仕方ないよね」

 二人は学食へ続く列を離れ、部室がある隣の通路の方へと移動した。
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登場人物紹介

真雪(まゆき)


主人公。

ちょっと人見知りする高校一年生。

明夏(めいか)


真雪の親友。

活発でレトロゲームが好き。

日菜(ひな)


真雪のクラスメイト。

ちょっと変な性格で語尾が変。特技は自己流の落語。

樹々(じゅじゅ)


オンエア部の部長。

いつも冷静でクールな先輩。

メロン先輩


真雪に親切にしてくれる謎が多い先輩。

自由気ままな人。

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