第24話 日菜のオンエア中!
文字数 2,078文字
真雪と明夏は、部室がある横の通路へとやってきた。
いつもは誰も人がいない場所だが、今日はなぜか大勢の生徒がいた。
「うう~、ここにも人がたくさん。これじゃあ部室にも入れそうにないよ~」
「学食棟に全校生徒の半分以上が集まってる感じね。みんな学食棟がなくなる前に、一通り中を見ておきたいといった感じかも」
記念撮影をしている人、動画を撮っている人、壁を背につけて瞑想している人など、人それぞれ。
中にはドアを勝手に開けようとしてる人までもいる。
そのとき、
ピンポンパンポン。
学校のスピーカーから独特の効果音が鳴った。
「お知らせです。ただいま学食棟は大変混雑しています。食事をとる人以外は、すみやかに退散してください。繰り返します。ただいま――」
校内放送が流れ始めた。
これはオンエア部ではなく、放送部によるものだった。
放送部の放送は学校中に流れていて、学食でオンエア部の放送中でも割り込みができるようになっている。
「しゃーない、戻るか」
「あと一週間あるし、また明日にでも来よう」
「どうする? 食事していくか?」
「私、お弁当だけど、今日は学食で食べていいかな?」
いろいろな台詞を残して、人混みは素直に退散していった。
「……ふう。よくわからないけど助かったみたい」
人が居なくなったおかげで、部室への道はしっかりと開かれる。
二人は帰っていく人の流れとは逆に、部室の前まで歩いた。
ドアには「オンエア中! 部外者は入室禁止!」と手書きで書かれた張り紙がしてあった。
「明夏ちゃん、入室禁止だって。どうする?」
「私たちは部外者じゃないから大丈夫なんじゃない?」
「そっか。いいよね」
なるべく音を立てないように、ゆっくりとドアを開けて注意深く中に入る。
ちょっと薄暗い室内で、日菜の後ろ姿が見えた。
「そこで言ってやったにゃるよ! わたーしーは、そんなことをした覚えはありましぇん! するとおかしなことに、この男、みんなの前で」
日菜はマイクに向かって熱弁をふるっている。
それは、相変わらず意味のわからない話だった。
「日菜はなんの話をしてるの?」
「たぶん落語……かな? 落語がしたくてオンエア部に入ったって言ってたから」
明夏の質問に、真雪が答えた。
これが落語だということは、数日前に日菜本人から聞いた話だった。
日菜は二人が入ってきたことに気付く様子もなく、ずっとしゃべり続けている。
その姿を見て真雪は思った。
日菜ちゃんってすごいな。とても気合い入ってる。
私とは大違い。
真雪は、この間の自分のオンエアを振り返っていた。
失敗してもいいや、どうせ誰も聞いてないし。
こんな感じで、いいかげんなオンエアをしていた。
真雪は自分が恥ずかしくなってきた。
「真雪、真雪」
「え、あ、明夏ちゃんどうしたの?」
「話しかけてもぜんぜん反応がないんだもん。ここで真雪の髪をツインテールにしてやろうかと思ったよ」
「もう、またそんなことを。……まあ、別に学校が休みの日ならいいけど」
「本当? じゃあ、今度の休みの日に……あ。日菜の邪魔しちゃ悪いから外に出よう」
二人は音を立てないようにして、静かに部室の外に出た。
部室の前で、真雪が明夏に言う。
「オンエア部がこれからどうなるのか、何もわからなかったね。樹々部長がいれば何か知ってたかもしれないんだけど」
「樹々部長って、私に何か用?」
「どええっ! 先輩!?」
二人の後ろには、いつの間にか樹々がいた。
真雪のリアクションを、きょとんとした表情で見つめている。
「樹々先輩、どうしてここに?」
「たぶんあなたたちと一緒よ。学食棟がなくなるって聞いて、部のほうが気になったから」
「先輩。オンエア部はこれからどうなっちゃうんですか?」
「……」
樹々はしばらく黙っていたが、
「本当は放課後に話をしようと思っていたけど。部員がみんなそろってることだし、今から話をしてもいいかもね」
「みんな? 日菜はまだオンエア中……」
明夏は肩をぽんぽんとたたかれた。
振り向いてみると、そこには日菜がえへへ~と笑った顔で立っていた。
「わっ、びっくりした! いつの間にここに来たのよ」
「ついさっきだぉ。ちょうどオンエアが終わったときに、めいちゃんとゆきちゃんが部室から出ていくのが見えたのだじょ」
「だったら、そのときに声をかけてくれればいいじゃない。本当にびっくりした~」
明夏は脱力して、真雪にもたれかかった。
「ちょっと明夏ちゃん重っ!……じゃなかった。もたれかかってこないでよ~」
「真雪、いま『重っ!』って言ったよね?」
「あー、ちょっと口が重かったから」
「この口か~。最近ちょっと太ったこと気にしてるのに~!」
明夏が真雪の唇を、両手でアヒルのようにする。
「ぶぶぶっぶぶ~!」
「はあっ……二人とも仲がいいわね」
樹々はため息をつきながら言った。
「とりあえずみんな、部室に入りましょう。今後の話はそこでするから」
「ほら、ゆきちゃんもめいちゃんも遊んでないで。これからの部活が心配にゃるよ~!」
日菜は二人の間を取り持って、一緒に部室へと入っていった。
いつもは誰も人がいない場所だが、今日はなぜか大勢の生徒がいた。
「うう~、ここにも人がたくさん。これじゃあ部室にも入れそうにないよ~」
「学食棟に全校生徒の半分以上が集まってる感じね。みんな学食棟がなくなる前に、一通り中を見ておきたいといった感じかも」
記念撮影をしている人、動画を撮っている人、壁を背につけて瞑想している人など、人それぞれ。
中にはドアを勝手に開けようとしてる人までもいる。
そのとき、
ピンポンパンポン。
学校のスピーカーから独特の効果音が鳴った。
「お知らせです。ただいま学食棟は大変混雑しています。食事をとる人以外は、すみやかに退散してください。繰り返します。ただいま――」
校内放送が流れ始めた。
これはオンエア部ではなく、放送部によるものだった。
放送部の放送は学校中に流れていて、学食でオンエア部の放送中でも割り込みができるようになっている。
「しゃーない、戻るか」
「あと一週間あるし、また明日にでも来よう」
「どうする? 食事していくか?」
「私、お弁当だけど、今日は学食で食べていいかな?」
いろいろな台詞を残して、人混みは素直に退散していった。
「……ふう。よくわからないけど助かったみたい」
人が居なくなったおかげで、部室への道はしっかりと開かれる。
二人は帰っていく人の流れとは逆に、部室の前まで歩いた。
ドアには「オンエア中! 部外者は入室禁止!」と手書きで書かれた張り紙がしてあった。
「明夏ちゃん、入室禁止だって。どうする?」
「私たちは部外者じゃないから大丈夫なんじゃない?」
「そっか。いいよね」
なるべく音を立てないように、ゆっくりとドアを開けて注意深く中に入る。
ちょっと薄暗い室内で、日菜の後ろ姿が見えた。
「そこで言ってやったにゃるよ! わたーしーは、そんなことをした覚えはありましぇん! するとおかしなことに、この男、みんなの前で」
日菜はマイクに向かって熱弁をふるっている。
それは、相変わらず意味のわからない話だった。
「日菜はなんの話をしてるの?」
「たぶん落語……かな? 落語がしたくてオンエア部に入ったって言ってたから」
明夏の質問に、真雪が答えた。
これが落語だということは、数日前に日菜本人から聞いた話だった。
日菜は二人が入ってきたことに気付く様子もなく、ずっとしゃべり続けている。
その姿を見て真雪は思った。
日菜ちゃんってすごいな。とても気合い入ってる。
私とは大違い。
真雪は、この間の自分のオンエアを振り返っていた。
失敗してもいいや、どうせ誰も聞いてないし。
こんな感じで、いいかげんなオンエアをしていた。
真雪は自分が恥ずかしくなってきた。
「真雪、真雪」
「え、あ、明夏ちゃんどうしたの?」
「話しかけてもぜんぜん反応がないんだもん。ここで真雪の髪をツインテールにしてやろうかと思ったよ」
「もう、またそんなことを。……まあ、別に学校が休みの日ならいいけど」
「本当? じゃあ、今度の休みの日に……あ。日菜の邪魔しちゃ悪いから外に出よう」
二人は音を立てないようにして、静かに部室の外に出た。
部室の前で、真雪が明夏に言う。
「オンエア部がこれからどうなるのか、何もわからなかったね。樹々部長がいれば何か知ってたかもしれないんだけど」
「樹々部長って、私に何か用?」
「どええっ! 先輩!?」
二人の後ろには、いつの間にか樹々がいた。
真雪のリアクションを、きょとんとした表情で見つめている。
「樹々先輩、どうしてここに?」
「たぶんあなたたちと一緒よ。学食棟がなくなるって聞いて、部のほうが気になったから」
「先輩。オンエア部はこれからどうなっちゃうんですか?」
「……」
樹々はしばらく黙っていたが、
「本当は放課後に話をしようと思っていたけど。部員がみんなそろってることだし、今から話をしてもいいかもね」
「みんな? 日菜はまだオンエア中……」
明夏は肩をぽんぽんとたたかれた。
振り向いてみると、そこには日菜がえへへ~と笑った顔で立っていた。
「わっ、びっくりした! いつの間にここに来たのよ」
「ついさっきだぉ。ちょうどオンエアが終わったときに、めいちゃんとゆきちゃんが部室から出ていくのが見えたのだじょ」
「だったら、そのときに声をかけてくれればいいじゃない。本当にびっくりした~」
明夏は脱力して、真雪にもたれかかった。
「ちょっと明夏ちゃん重っ!……じゃなかった。もたれかかってこないでよ~」
「真雪、いま『重っ!』って言ったよね?」
「あー、ちょっと口が重かったから」
「この口か~。最近ちょっと太ったこと気にしてるのに~!」
明夏が真雪の唇を、両手でアヒルのようにする。
「ぶぶぶっぶぶ~!」
「はあっ……二人とも仲がいいわね」
樹々はため息をつきながら言った。
「とりあえずみんな、部室に入りましょう。今後の話はそこでするから」
「ほら、ゆきちゃんもめいちゃんも遊んでないで。これからの部活が心配にゃるよ~!」
日菜は二人の間を取り持って、一緒に部室へと入っていった。