第71話 それぞれ進む道

文字数 1,091文字

 放課後。

「あ、明夏ちゃん。ちょっと待って!」

 真雪は、すぐに帰ろうとした明夏を止めた。

「どうしたの? 変顔でもやってくれるの?」
「やりません! ちょっと話があるんだけど」
「話って……他人に聞かれたらちょっと恥ずかしくなりそうな自作の童話?」
「それでもない! ……あ、ちょっと待っててね」

 真雪が教室から出て行った。
 ……と思ったら、廊下にいた日菜を教室に連れ戻してきた。

「ゆきちゃん、どうしたぞえ? 日菜と漫才コンビを組みたいのすか?」
「違うよ……明夏ちゃんと日菜ちゃんに、話があるの」

 真雪、明夏、日菜のオンエア部トリオがそろったところで、真雪が二人の前に出て、にこにこの笑顔で言う。

「みんな、一緒に放送部に入ろう?」
「え? どうしたのいきなり」
「わぉ。ゆきちゃん、積極的ですねん」

 二人はそれぞれの反応をする。

「うん、じつはね」

 真雪は昼休みに購買で、放送部部長の千風から聞いたことをそのまま言った。
 放送部に入っても、オンエア活動できるということを。

「……なるほど。それだったら今までとあまり変わらない状態で活動できそうね」
「そうなの。だから、みんなで行こうよ、ね?」
「でもねぇ……」
「でもなのです……」

 二人はあまり乗り気ではなかった。

「私、正式にレトロゲーム部に入ることに決めたんだよ」
「日菜は、落語教室に通うことになったのにゅす」

 二人がこれからどうするか、真雪ははじめて聞いた。
 本当はまた一緒に活動したかったが、二人が自分で決めたことを、無理を言ってやめさせるわけにもいかなかった。

「……そっか……知らなかったよ。二人とも、もうこれからのことを考えてたんだね」
「ごめんね、真雪」
「ゆきちゃん、ごめんなちゃい」
「ううん、いいよ。私こそ、変なこと言ってごめんね」

 真雪は明るい素振りを見せる。
 そして、自分の席へと、とぼとぼ歩いていった。
 そのまま椅子に座って、ぼんやりと外を眺めはじめる。

「真雪……」
「めいちゃん。やっぱり、考え直してみるっすか? ゆきちゃんがかわいそうっすよ」
「……」

 

 気がついたら、教室は真雪一人になっていた。

「もう帰らないと」

 真雪は教室の戸締まりをして、鍵を閉めた。

 私、どうしようかな。
 放送部に入っても、明夏ちゃんと日菜ちゃんがいないし。
 ……でも、こういうのって自分がやりたいことを選ぶのが本当だよね。

 明夏ちゃんだって、レトロゲーム部に入るって言ってた。
 日菜ちゃんだって、自分の好きな落語教室に通うみたい。
 私は……どうしたいんだろう。

 みんなそれぞれの道を歩きだしていた。
 真雪も自分の道を決めなくてはいけないと思い始めていた。
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登場人物紹介

真雪(まゆき)


主人公。

ちょっと人見知りする高校一年生。

明夏(めいか)


真雪の親友。

活発でレトロゲームが好き。

日菜(ひな)


真雪のクラスメイト。

ちょっと変な性格で語尾が変。特技は自己流の落語。

樹々(じゅじゅ)


オンエア部の部長。

いつも冷静でクールな先輩。

メロン先輩


真雪に親切にしてくれる謎が多い先輩。

自由気ままな人。

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