第49話 仮の学食
文字数 1,838文字
休み時間、多くの生徒が廊下に出ていた。
そこから見えるのは学食棟。
ちょうどいま、学食棟の周りにネットが張り巡らされているところだった。
真雪と明夏も、野次馬の中に紛れ込んで、その様子をずっと見ていた。
「ついにこのときが来たんだね……。もう学食には行けないんだよ。私にとって、部活を始めるきっかけになった思い出深い場所だったのに」
真雪がしみじみと言った。
「お、みてみてこの雑誌。真雪の欲しがってたテレビのリモコン、3名様にプレゼントだって」
「そんなの欲しくないよ! ……もう、明夏ちゃんって全く緊張感がないんだから」
「そんなことないよ。私だって学食ロスになって、いますごく落ちこんでるんだから。……あ! こっちには、ガチャガチャでよくあるバネの大量セットが! これは欲しい!」
「そんなに落ち込んでるようには見えないんだけど……」
マイペースな明夏を見て、真雪は自分との温度差を感じていた。
と、そこへ、
「ゆきちゃんめいちゃん、大変にょす大変にょす! ビックニュースにょす!」
二人の前に、どこからともなく日菜が現れた。
その額は、汗できらきらと光っている。
「どうしたの日菜ちゃん、汗びっしょり。長距離走ってきたみたいになってるけど」
「寝坊して遅刻したから、家から走ってきたのん。疲れたにゅー。……そんなことより、大変なことがあってるのす! 日菜、さっきすごいものを見てしまったアル! こっち来てほしいずら」
「えっ? ちょっと日菜ちゃん!?」
日菜は真雪の手を引っ張って教室の中に入っていった。
そして、真雪に教室のほうの窓から見えるグラウンドを見せた。
「あれあれあれれ! あれを見て欲しいのす」
「あれ?」
日菜が指差した先。グラウンドの隅の方に、プレハブの建物が急ピッチで建てられているのが見える。
「ああ、あれか。私も今日の朝、学校に来るとき見かけたよ。何の建物なのかな?」
「日菜がさっき工事してる人に聞いてみたなすが、あれは学食を建て替える間、仮の学食として使われる予定の建物らしいっす。学食はしばらくなくなるわけじゃないということれす!」
「学食が残るということは……私たちも部活を続けられるのかな?」
「あの学食でオンエアできれば問題ないにょろ! やったにゅす~!」
日菜は大げさにバンザイをした。
真雪もつられて、両手をあげて喜んでいる。
「あーら、そうも簡単な話じゃありませんことよ。いくら学食が残ろうとも、オンエアなんてできるわけがないじゃないですか」
「誰なす?」
そこには、真雪たちと同じクラスにいる放送部期待の新人、五文太がいた。
名前がすごく呼びにくいので、周りからはいつもゴブ(もしくはゴブリン)と呼ばれている。
ちなみに、真雪にオンエア部の存在を教えたのも、実は彼だったりする。
「それって、どういうことでしか? 日菜たちは学食でオンエアすることが部活動なのでしよ」
日菜が聞くと、
「ほっほっほー。だって、あのプレハブの学食には、放送室も何もないのですよ? そんな中でオンエアなんてできるわけないじゃなーい?」
「むむ~っ、言われてみれば確かにそうにゃろ。そこまで考えてなかったっす。本日の、日菜最大の不覚なり」
「まあ、せいぜい頑張ってみることね。無理だと思うけど。おーほっほっほふっ!? ……ごふぉごふぉ!」
最後はなぜかむせたが、さんざんいやみを残してゴブは去っていった。
「日菜ちゃん、どうする? 今の話だと、やっぱり部活はできそうにないよ」
「む~、このことは放課後に部長と話してみようなり。ゆきちゃんも一緒に行こうぞ?」
「うん、わかった」
真雪も仮の学食で活動ができるかどうか気になった。
部長なら、もっと詳しいことを知ってるかもしれない。
と、そこへ、
「ちょっとちょっと、いったい何があったのよ?! 真雪たちゴブに何か言われたの?」
廊下で雑誌に夢中だった明夏が、ようやく教室に戻ってきた。
「仮の学食ができるからオンエアもできると思ってたら、それは無理だって言われたんだよ」
「え、そうなの? なんか廊下で、ゴブがすごく文香に怒られてたんだけど。真雪たちに何を言ったの!? って」
「……ううん、何でもないよ」
文香もゴブと同じ放送部の部員。
おそらく、文香が真雪たちのことを思って、いやみなことを言ったゴブに注意してくれていたのだろう。
文香ちゃん、ありがとう。
「あーっ、グラウンドでも工事してるじゃない。どういうこと?」
明夏は何もわかっていなかった。
そこから見えるのは学食棟。
ちょうどいま、学食棟の周りにネットが張り巡らされているところだった。
真雪と明夏も、野次馬の中に紛れ込んで、その様子をずっと見ていた。
「ついにこのときが来たんだね……。もう学食には行けないんだよ。私にとって、部活を始めるきっかけになった思い出深い場所だったのに」
真雪がしみじみと言った。
「お、みてみてこの雑誌。真雪の欲しがってたテレビのリモコン、3名様にプレゼントだって」
「そんなの欲しくないよ! ……もう、明夏ちゃんって全く緊張感がないんだから」
「そんなことないよ。私だって学食ロスになって、いますごく落ちこんでるんだから。……あ! こっちには、ガチャガチャでよくあるバネの大量セットが! これは欲しい!」
「そんなに落ち込んでるようには見えないんだけど……」
マイペースな明夏を見て、真雪は自分との温度差を感じていた。
と、そこへ、
「ゆきちゃんめいちゃん、大変にょす大変にょす! ビックニュースにょす!」
二人の前に、どこからともなく日菜が現れた。
その額は、汗できらきらと光っている。
「どうしたの日菜ちゃん、汗びっしょり。長距離走ってきたみたいになってるけど」
「寝坊して遅刻したから、家から走ってきたのん。疲れたにゅー。……そんなことより、大変なことがあってるのす! 日菜、さっきすごいものを見てしまったアル! こっち来てほしいずら」
「えっ? ちょっと日菜ちゃん!?」
日菜は真雪の手を引っ張って教室の中に入っていった。
そして、真雪に教室のほうの窓から見えるグラウンドを見せた。
「あれあれあれれ! あれを見て欲しいのす」
「あれ?」
日菜が指差した先。グラウンドの隅の方に、プレハブの建物が急ピッチで建てられているのが見える。
「ああ、あれか。私も今日の朝、学校に来るとき見かけたよ。何の建物なのかな?」
「日菜がさっき工事してる人に聞いてみたなすが、あれは学食を建て替える間、仮の学食として使われる予定の建物らしいっす。学食はしばらくなくなるわけじゃないということれす!」
「学食が残るということは……私たちも部活を続けられるのかな?」
「あの学食でオンエアできれば問題ないにょろ! やったにゅす~!」
日菜は大げさにバンザイをした。
真雪もつられて、両手をあげて喜んでいる。
「あーら、そうも簡単な話じゃありませんことよ。いくら学食が残ろうとも、オンエアなんてできるわけがないじゃないですか」
「誰なす?」
そこには、真雪たちと同じクラスにいる放送部期待の新人、五文太がいた。
名前がすごく呼びにくいので、周りからはいつもゴブ(もしくはゴブリン)と呼ばれている。
ちなみに、真雪にオンエア部の存在を教えたのも、実は彼だったりする。
「それって、どういうことでしか? 日菜たちは学食でオンエアすることが部活動なのでしよ」
日菜が聞くと、
「ほっほっほー。だって、あのプレハブの学食には、放送室も何もないのですよ? そんな中でオンエアなんてできるわけないじゃなーい?」
「むむ~っ、言われてみれば確かにそうにゃろ。そこまで考えてなかったっす。本日の、日菜最大の不覚なり」
「まあ、せいぜい頑張ってみることね。無理だと思うけど。おーほっほっほふっ!? ……ごふぉごふぉ!」
最後はなぜかむせたが、さんざんいやみを残してゴブは去っていった。
「日菜ちゃん、どうする? 今の話だと、やっぱり部活はできそうにないよ」
「む~、このことは放課後に部長と話してみようなり。ゆきちゃんも一緒に行こうぞ?」
「うん、わかった」
真雪も仮の学食で活動ができるかどうか気になった。
部長なら、もっと詳しいことを知ってるかもしれない。
と、そこへ、
「ちょっとちょっと、いったい何があったのよ?! 真雪たちゴブに何か言われたの?」
廊下で雑誌に夢中だった明夏が、ようやく教室に戻ってきた。
「仮の学食ができるからオンエアもできると思ってたら、それは無理だって言われたんだよ」
「え、そうなの? なんか廊下で、ゴブがすごく文香に怒られてたんだけど。真雪たちに何を言ったの!? って」
「……ううん、何でもないよ」
文香もゴブと同じ放送部の部員。
おそらく、文香が真雪たちのことを思って、いやみなことを言ったゴブに注意してくれていたのだろう。
文香ちゃん、ありがとう。
「あーっ、グラウンドでも工事してるじゃない。どういうこと?」
明夏は何もわかっていなかった。