第31話 そして屋上へ…

文字数 1,704文字

 相変わらず真雪は、レトロゲーム部がどこにあるかを探し続けていた。
 校舎の中はだいたい見て回ってきたはずだが、それらしい場所はどこにも見当たらなかった。

「どこにあるんだろう。こまったなあ……」

 最初は明夏に会うのが目的だったが、いつの間にかレトロゲーム部を探すことしか頭になかった。
 そして、真雪はいつの間にか屋上に続く階段の前まで来ていた。
 階段を見上げて、

「まさか……屋上ににはいないよね。レトロゲーム部」

 そう思いつつも、足は屋上への階段をのぼっていた。
 もしかしたら……ということがあるかもしれない。

 がちゃ。

 屋上への扉を開けると、夕日に染まった紅い光が校舎の中に差し込んできた。
 真雪は夕日の世界に入り込むように、扉の外へと一歩踏み出した。

 屋上は高いフェンスで囲まれていて、何もない殺風景な場所だった。
 レトロゲーム部が活動をしている様子はなく、真雪の他には誰もいない。

「ここでもなかった。……でも、放課後の屋上ってなんだか新鮮」

 自分の他には誰もいないことがわかると、真雪はいろんなことをやってみたくなった。

 まず最初に、うつ伏せでばんざいをした状態で横になってみた。
 目の前には、夕日に当たって少し暖かくなっているコンクリートの地面。
 床暖房みたいでちょうどいい。

「ぐるぐるぐる~。あ~れ~」

 それから真雪は、横にごろごろと転がり始めた。
 時代劇に出てくる「よいではないか」「あ~れ~」と着物の帯を引っ張られてぐるぐる回っている人を再現した。
 ぐるぐるに飽きると、仰向けになったところで止まって、夕方のひととき、紅くなった空を視界いっぱいに見た。

「うーん、すごく夕方って感じがする。それに、こうやって寝ころんでると、とても気持ちいい」

 たった一人……と、思われていたその空間。

 がちゃ……。

 屋上の扉から音がした。
 驚いた真雪は、あわてて上半身を起こして扉の方を向く。

 ドアノブに手をかけて、短いポニーテールの女子生徒が屋上から出ようとしていた。

 え……もしかして、いままで屋上のどこかにいたの!?
 じゃあ、さっき私がごろごろ寝転がってたところを見られてた!?

 真雪は急に恥ずかしくなって顔を真っ赤にした。

「あ、大丈夫。大丈夫だよ? 私は何も見てないから」

 真雪にじっと見られて、女子生徒は言った。
 恥ずかしがっている真雪に気を遣ってる感じがする。

「あ……はい……」

 真雪は涙を流しそうになるくらい、うるうるした目で女子生徒を見ていた。
 しばらくどちらも動けない状態が続いたが、女子生徒は屋上側に戻ってきてゆっくりと扉を閉めた。

「……はぁ。そんな目で見られたら、黙ってここから出て行きづらくなるじゃないか」

 女子生徒は歩いて真雪の方に近づいてきた。
 リボンの色から、真雪の一つ上の学年の、二年生だとわかる。

「あの、さっきのことは」
「大丈夫だって、誰にも言わないから。寝転がってぐるぐる回るくらいなら、私はここに来ていつもやってるよ」
「やっぱり見られてた!」

 真雪は見られていたのが確定して、余計に恥ずかしくなった。

「それよりも、ここに何しにきたの? 放課後の屋上なんて、私みたいな物好きしか来ない場所だよ?」
「部活を探していたんです。レトロゲーム部っていう部なんですけど」
「ああ、あの部ね。私も聞いたことはあるよ」
「知ってるんですか?! レトロゲーム部!」
「部のことは知ってるけど、どこで活動してるかは知らないな。秘密結社みたいだから、ちょくちょく活動場所を変えてるって噂もあるし」
「そうだったんですか……。だから部室が見つからなかったのかな」

 真雪がしょんぼりしていると、今度は女子生徒から真雪に質問してきた。

「レトロゲーム部に入りたいの?」
「え? そうじゃないんですけど。私の友だちがレトロゲーム部にいるかもしれないから。私はオンエア部っていう部に入っているので……」
「へぇ、オンエア部ね」

 女子生徒は、少し驚いたような表情をした。
 しばらくじーっと、真雪の顔を見つめ続ける。

 え、なに?
 私、いけないこと言っちゃったのかな……。

 じっと見られている真雪は、だんだんと不安になってきた。
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登場人物紹介

真雪(まゆき)


主人公。

ちょっと人見知りする高校一年生。

明夏(めいか)


真雪の親友。

活発でレトロゲームが好き。

日菜(ひな)


真雪のクラスメイト。

ちょっと変な性格で語尾が変。特技は自己流の落語。

樹々(じゅじゅ)


オンエア部の部長。

いつも冷静でクールな先輩。

メロン先輩


真雪に親切にしてくれる謎が多い先輩。

自由気ままな人。

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