寝る子は育つ
文字数 1,931文字
「ここが、火聖霊の手掛かりが有りそうな街なんだ。そう言われるようになったの、分かる気がする」
街に足を踏み入れたダームは、流れ出る汗を手の甲で拭い、気怠そうに話した。その後、彼は大きく息を吐き出すと、体力の限界だと言わんばかりに、その場で座り込んでしまった。
「そうだな。さほど暑くは無い季節だと言うのに、少し動いただけでも汗が吹き出してくる。この地に火聖霊の力が働いていると言われても、不思議ではない」
ベネットは晴れ渡った空を仰ぎ見ながら、溜め息を吐いた。
「移動も楽じゃ無かったし、宿を見つけて休もうぜ? こんな状態じゃあ、まともに情報も集められないだろ」
仲間の気怠そうな言葉を聞いたザウバーは、一つの提案を述べると歯を見せて笑った。
「そうだね。なんだか、暑くてくらくらしてきたし、早く日陰に入りたいよ」
ダームは、そう言うとベネットの目を軽く見る。彼の目線に気付いたベネットと言えば、その意見へ同意する様に頷いた。その後、三人は顔を見合わせ、宿を探す為に街の中を探索し始めた。
多少、暑さが柔いできた頃、三人は小さな宿を見つけた。その宿は、窓以外を木で作られ、中に入ると外の暑さが嘘の様に涼しかった。その涼しさが余程に気持ち良かったのか、ダームは目を細めながら深呼吸を行った。その間にベネットは宿泊手続きを終え、呼吸の落ち着いた少年に話し掛ける。話し掛けられたダームと言えば、嬉しそうに彼女の後を追いかけていった。
指定された客室へ到着するなり、ダームは木で作られた床に勢い良く寝転んだ。また、膝高の机が部屋の中程に置かれ、その周りに四つの座布団が用意されている。
「やっと、ゆっくり休めそうだよ」
嬉しそうに話すと、ダームは二人の顔を見上げ数回その場で転がった。そして、彼は大きく息を吐き出すと、仰向けの姿勢で腕を真っ直ぐ横に伸ばした。
「だな。今回の移動は長かったし、何より街の暑さが尋常じゃねえ」
そう言うと、ザウバーは草で編まれた座布団へ腰を下ろす。彼は、目の前に在る机に肘をつくと、疲れた様子で大きな欠伸をした。
「寒いのであれば着込んで解消されることもあるが、暑さはどうにもならない」
ベネットは、そう言ってから座布団に座る。
「話し合うのは後にして、暫くの間は体を休めよう」
それだけ言うと、ベネットは仲間に対して微笑んだ。提案を聞いた二人は肯定の返事を為し、三人は思い思いに楽な姿勢をとって休み始める。
休息を取っていた三人は、夕食を済ませた後、机を囲む形で集まった。そして、彼等は互いに顔を見合わせると、聖霊の情報を得る為に何をすべきか話し始める。
そもそも、グルートの近くに聖霊は居るのか?
居るのならば、その場所は一体どこなのか?
そして、以前訪れたフォッジの様に、この街の中に手掛かりはあるのか?
三人は、日付が変わる時間まで話し続けた。そして、最終的に、街の人々から情報を得る事を決めて一息つく。今後の方針が決まった時、ダームは疲れ切った様子で腕を上方に伸ばすと、眠たそうに瞼を擦る。その後、彼は微かによろめきながら立ち上がると、部屋の隅に用意されていた布団を引きずり出し、勢い良くその上に横になった。
一方、その光景を見たザウバーは、少年に対して言葉を投げかける。しかし、既に深い眠りに落ちてしまったのか、彼からの返答は無かった。
青年の怪訝そうな表情に気付いたベネットは、静かに立ち上がると少年の方へ向かっていく。そして、反応が無かったダームの肩を揺すると、寝るのならば寝支度をしてから寝るよう伝えた。話し掛けられたダームと言えば、怠そうに起き上がると、適当に引き出した布団を敷き直し始める。それを見たベネットは胸を撫で下ろし、先程まで座っていた位置へ戻っていった。
「逞しくなったと思っていたが、こういう所は変わらないな」
ザウバーは目を細めて笑い、彼女の瞳を見つめて頷いた。ダームは、二人がそうこうしている間に寝支度を終え、就寝前の挨拶をしてから、布団の中に潜り込んだ。
「そろそろ私も、身を清めて休もうと思う。ザウバーも、疲れているのなら早めに休むといい」
少年が床に就いた事を確認したベネットは、そう言うと返事を待つ事無く立ち上がり、自らの荷物を広げ始めた。ザウバーは、座ったまま大きな伸びをすると、目を瞑って何かを考え始めた。その後、彼は暫く目を瞑ったままでいたが、ベネットが部屋を出る音を聞いた時、目を開いて大きな溜め息を吐いた。そして、ザウバーは少年を起こさないよう静かに立ち上がると、彼が寝ている横に布団を敷いて横たわった。