後悔と葛藤

文字数 1,726文字

 小さな家屋が点々と並ぶ町で、ザウバーとベネットは助け出した人々に話を聞いて回った。その内の数割は、閉じ込められたショックから失語状態であった。そうでない人の言うことには、全員がフェアラに住んでいたのだという。

 話を聞いたザウバーは、胸を撫で下ろし、ダームを休ませられる場所は無いか問う。すると、一人の男性が進み出、少年を自分の家で寝かせれば良いと伝えた。この為、ザウバーは感謝を込めて礼を言い、男性に案内された家へダームを移動させた。
 
 一方、ベネットは後で話を聞いて回ることを告げ、先ずはそれぞれの家で休むよう提案をした。人々は、彼女に頭を下げながら各々の家へ向かっていき、それまで動けないでいた者もそれへ続く様に歩き始める。ベネットは、人々がそれぞれに落ち着く場所へ戻ったことを確認すると、仲間の状態を確認しようと周囲を見回した。ところが、その場所から見える位置にダームとザウバーの姿は無く、彼女は二人を探す為に歩き始める。
 
 ベネットが数十歩ほど進んだ時、その目に哀しげなザウバーの姿が映し出された。彼は、ベネットから見て左側に建つ家屋前に立っており、彼女の存在に気付くなり微笑する。

「ダームは、ここで休ませて貰うことにした」
 ザウバーは力の無い瞳でベネットを見つめると、辛そうに小さく息を吐き出す。青年の話を聞いたベネットは、そのまま彼の言った家へ入ろうとした。しかし、ザウバーはベネットの腕を掴んで止めると、彼女の目を真っ直ぐに見た。
 
「少しだけ、話を聞いてくれねえか?」
 ザウバーが苦笑しながら問い掛けると、ベネットは一呼吸おいて頷く。すると、ザウバーは軽く目を瞑り、気持ちを落ち着ける為に緩慢な呼吸を繰り返した。そして、何かを決心した様に頷くと、彼は目を開いてベネットを見つめる。
 
「ダームなんだが……あいつの村は焼かれた」
 彼の話を聞いたベネットは目を見開き、それから辛そうに唇を噛んだ。

「さっき、あいつが叫んでから倒れたのは、多分それが関わっていると思う」
 そこまで話すと、ザウバーは言い表せない感情を発散させる様に、頭を掻く。
 
「なんつーか……ダームは、上っ面が馬鹿みたいに明るくて。でも、心の奥では、悩みや不安を抱えていたんだよな」
 涙を浮かべて話すと、ザウバーは悲しそうに苦笑する。

「俺は、何で気付いてやれなかったのかって思ってよ。ダームの住んでいた集落がどうなったか、知ってんのは俺だけなのに」
 ザウバーは手の甲で涙を拭い、辛そうに息を吐き出した。そして、彼は強く目を瞑ると、頭を強く横に振る。
 
「ザウバーが気に病むことではない。それに、仲間が暗い顔をすれば、それこそダームは辛くなる」
 小さな声で伝えると、ベネットは青年の涙をそっと拭った。すると、ザウバーはゆっくり目を開き、眼前に居る仲間をぼんやり眺める。
 
「それだけじゃねえ。俺が、ダームを旅に連れてさえ来なけりゃ……あいつは、別の場所で笑って暮らせたんじゃないかと思うんだ」
 掠れ声で話すと、ザウバーは左手で頭を抱えた。ベネットは返す言葉を見つけられず、二人の間に重苦しい無言の時が流れ始める。

「辛いか、楽しいか……それは、本人にしか分からない。色々と気に病むよりも、今はダームの側で待とう。ダームが目を覚ました時、私達が居なければ不安になるだろう」
 それだけ話すと、ベネットは青年の反応を待つことなく、ダームが休んでいる家の戸に手をかける。ザウバーはベネットの動きを止めようと手を伸ばすが、その手は彼女へ届く前に止まってしまう。
 
 ベネットが木で作られた戸を開いて中へ入った後、ザウバーは表情を曇らせたまま彼女の後に続いた。そして、彼はさり気なくベネットの前へ出ると、彼女をダームの元へ案内する様に歩き始める。ダームは、玄関から見て左側の部屋で寝かされており、その部屋の中には家主であろう男性の姿もあった。

 その男性は、椅子に座った状態で眠りに落ちていたが、二人の気配を感じるなり目を覚ます。彼は、呆けた表情を浮かべて訪問者を見ると、彼らが誰であったかを思い出そうと記憶の糸を手繰った。それから、彼は何かを思い出した様に目を見開き、立ち上がって二人の方に向き直る。
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登場人物紹介

ダーム・ヴァクストゥーム

 

ファンタジー世界のせいで、理不尽に村を焼かれてなんだかんだで旅立つことになった少年。
山育ちだけにやたらと元気。
子供だからやたらと元気。
食べられる植物にやたらと詳しい野生児。

ザウバー・ゲラードハイト

 
自称インテリ系魔術師の成年。
体力は無い分、魔力は高い。

呪詛耐性も低い。
口は悪いが、悪い奴では無い。
割とブラコン。

ベネット

 

冷静沈着で、あまり感情を表に出さない女性。

光属性の攻撃魔法や回復術を使いこなしている。

OTOという組織に属しており、教会の力が強い街では、一目置かれる存在。

カシル


 HEIGHT:162cm
 WEIGHT:55kg
 HEIR COLOR:Brown
 EYE COLOR:Red


オーマの街で男性を浚い、更にはザウバーまでも僕にした淫魔。
魔力によって他者を操る事を得意とし、外観も魔力によって整えている。
自身で前線に立って戦う事は無く、戦闘能力に乏しい

アーク・シタルカー


ヘイデル警備兵の総司令。

その地位からか、教会関係者にも顔が広い。

魔法や剣術による戦闘能力に長け、回復術も使用する。

基本的に物腰は柔らかく、年下にも敬語を使う。

常にヘイデルの安全を気に掛けており、その為なら自分を犠牲にする事さえ厭わない。

ルキア・ハイター
 
 HEIGHT::169cm
 WEIGHT::56kg
 HEIR COLOR::Brown
 EYE COLOR::Dark Brown
 
ヘイデル教会直属の病院で働く女医。
話し方は無骨だが、若くして院長を務める程の実力者。
アークとは幼なじみの為か、彼へ接する態度からは遠慮が感じられない。

ヴァリス

 

 HEIGHT:185cm
 WEIGHT:67kg
 HEIR COLOR:Black
 EYE COLOR:Purple

 
フェアラでダームを軽々と倒した謎の多い男。
含みの有る話し方をするが、それがどこまで本当かは不明。
自在に姿や硬度を変える使い魔を使役し、人間を追い詰めることを楽しんでいる。

ライチェ

 

 HEIGHT:137cm
 WEIGHT:32kg
 HEIR COLOR:Pink
 EYE COLOR:Scarlet

 
見た目は幼い少女だが、魔族である為に様々な力を持つ。
浮遊したまま素早く移動し、相手に攻撃の隙を与えない。
また、無機物や死者を操る力を有している。
但し、深くものを考えたりするのは苦手の様で、感情が高ぶっている時などは判断力が著しく低下する。

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