それぞれの何時もの
文字数 1,499文字
そこまで話したところでザウバーは言葉を詰まらせ、体を震わせる。彼は拳を握り締め、何とかして次の言葉を発しようと試みた。しかし、何度口を開いてみても、唇が細かく震えるばかりで、想いが言葉として発せられることは無い。
沈黙の後、ベネットは微笑みながら青年の顔を覗き込む。そして、彼女は青年の頬に手を触れると、その顔を前方へ向けさせた。ザウバーは、眼前に在る仲間の顔を見、不安そうに瞬きをする。
「今更、何を言っている。突拍子も無い行動は、今に始まったことでは無いだろう?」
微笑しながら話すと、ベネットは目線をダームの方へ移す。そして、少年の上手い言葉を待つ様に、ベネットは軽く片目を瞑ってみせた。すると、彼女の考えに気付いたダームは、満面の笑みを浮かべて頷いた。
「そうそう。ザウバーってば、ベネットさんと会ったばかりの時だって酷かったし」
楽しそうに話すと、ダームはベネットと顔を見合わせる。ベネットは少年と目線を合わせたまま、わざとらしく頷いてみせた。
「ああ。あれは、人によっては逃げ出してもおかしくない程だった」
笑みを浮かべながら話すと、彼女はザウバーを一瞥する。ザウバーは目を丸くすると、口を開き、間抜けな表情を浮かべた。
「ベネットさんに会う前は、アークさんを困らせていたし」
それだけ話すと、ダームは青年を小馬鹿にするように笑う。すると、その笑いに反応してか、ザウバーは小さく眉を動かした。
「大体、ザウバーって考えるより先に行動してるよね。何度ベネットさんに言われても直らないし」
ダームは両掌を上へ向け、呆れた感情を表した。すると、少年の言葉と仕草が気に障ったのか、ザウバーは不機嫌そうに眉間に皺を寄せる。そして、ザウバーは話し続ける少年を見つめると、彼の方へ両手を伸ばした。少年が再び口を開いた直後、ザウバーは柔らかな頬を強く掴む。
「それにゅ」
頬を掴まれたダームは、間の抜けた声を出すと、勢い良く顔を振った。何度か顔を振った時、ダームの頬から青年の手は離れ、彼はその勢いで後方へのけぞる。ダームは、慌てて体勢を立て直すと、赤くなった頬を優しく擦った。それから、ダームは青年の顔を見つめ、頬に手を当てたまま笑い出す。
すると、彼へつられる様にベネットも笑い始め、彼らの周りに明るい空気が流れ始めた。この際、ザウバーは状況を飲み込めずに閉口するが、二人は構わず笑い続けた。暫くして、二人が笑うことを止めると、ザウバーは不安そうに彼らの顔を見つめる。
「俺、そんなに可笑しいことをやったか?」
不安そうな表情のまま、ザウバーは小さな声で言葉を発していった。ダームとベネットと言えば目線を合わせ、口元を押さえて再び笑い始める。
「いや、何時もの調子に戻った……と、思ってな」
そう言うと、ベネットは口元を押さえたまま青年の瞳を見つめる。
「そうそう。元気の無いザウバーなんて、気持ち悪い」
ベネットへ続く様に話すと、ダームは無邪気に笑った。ザウバーは、二人の言葉に面食らった様子だったが、直ぐに笑顔を浮かべると少年の顔を一瞥する。
「気持ち悪いは余計だっての」
ザウバーは少年へ向き直ると、その額を軽く叩いた。ダームは、叩かれた部分を静かに押さえ、ザウバーの顔を見上げて微笑する。
「じゃれ合うのは後にして、本題に移るとしよう」
落ち着いた様子で話すと、ベネットは手を叩き合わせて音をたてた。彼女は、仲間の意見を窺う様に顔を見やり、小さく首を傾ける。この際、ダームは何度か小さく頷き、ザウバーはしっかりした声で肯定の返事をなした。