兵士達との調査

文字数 2,297文字

 「まず、グルートとフェアラを繋ぐ道の魔物は、ザウバーさんが倒した」
 アーサーが話すと、ザウバーは話の内容を肯定する様に頷く。

「そして、洞窟の中ではライチェと名乗る者を倒したと」
 ザウバーは兵士の言葉に頷き、微かに誇らしげな笑みを浮かべた。

「その後、捕まえられていた人々を助け始めるも、ダーム君の助言でベネット様の捜索を開始」
 そこまで話すと、アーサーはダームとザウバーに目線を送り、二人の反応から話した内容に間違いは無いか窺う。それに対してザウバーは大きく頷き、ダームは何度か小さく頷いた。二人から肯定の返事を受けたアーサーは、目線をベネットの方へ動かす。
 
「そして、再会を果たした後、捕らえられていた方々を回復させ街へ戻った」
 彼はベネットの目を見つめ、静かに彼女の返答を待った。

「そうだ。だが、街へ戻せたのは生きていた者達だけの上、監禁場所が他に有る可能性も有る」
 そうアーサーへ返すと、ベネットは心苦しそうに唇を噛む。

「そちらの調査は、私どもが行います」
 アーサーは天井を仰ぎ、呼吸を整えた。

「遺体を持ち帰った上で、街にいらっしゃる方々に行方不明の方が居るかを問えば、監禁場所が他に有るかも分かるでしょう」
 言い終えると、アーサーはベネットの顔を見つめ、そのまま彼女の言葉を待つ。

「そうだな。ショックで記憶が混乱している者も居るだろうが、他に良い方法も思いつかない」
 ベネットは、辛そうに言葉を搾り出すと、静かに目を瞑った。

「洞窟への案内は、私がする。監禁場所となっていた洞窟の道順を知るのは、私だけの様だから」
 ベネットは顔を上げ、アーサーの目を真っ直ぐに見つめた。彼女の言葉に対してアーサーは頷き、ザウバーはベネットの方を向いて口を開く。
 
「いや、移動は俺の魔法で」
「何人往復させるか分かって言っているのか? 何が起こるか分からない以上、魔力の無駄使いは危険だろう」
 ベネットは、話を遮る様に言うと、目を細め青年の瞳を見据えた。すると、ザウバーはベネットの気迫に押されたのか口を閉じ、言葉にならない声を漏らした。それでも、ザウバーはベネットの話に納得いかなかったのか、困惑しながらも口を開く。
 
「だけど、お前の体力だって」
「問題無い。たかだか、案内をしに行くだけだ。体力を大幅に削るような行為はしない」
 しかし、またしてもザウバーの言葉は遮られ、彼は渋々ながら口を閉じた。

「大丈夫ですよ。こちらへ向かっている者の中には、軍医もおります。それに、万が一魔物に出くわしたとしても、私共が攻撃を受ける間も無く片付けます。元々、その為に結成された部隊ですからご心配なく」
 そこまで伝えると、アーサーは静かに立ち上がり、何度か深呼吸を繰り返した。一方、ザウバーは何かを言うことも無く、立ち上がったアーサーの顔を見上げる。
 
「では、私は仲間を捜してまいります。皆さんはゆっくりしていて下さい」
 そう伝えると、アーサーは胸に手を当て深々と頭を下げた。それを見たベネットは小さく頷き、ダームも彼女へつられる様に頷く。その後、アーサーはゆっくり頭を上げると踵を返し、静かに部屋の外へ向かっていった。
 
 アーサーが立ち去った後、会話の無くなった部屋は静寂に包まれ、ザウバーは物悲しそうに溜め息を吐く。彼は、ベネットに考えを伝えようと何度か口を開くが、それらが言葉となって発せられることは無かった。そうして、ザウバーが何も出来ないでいる内に、アーサーは二人の兵を連れて部屋に戻って来る。アーサーが連れて来た兵は、男女それぞれ一人ずつで、彼らは三人の存在に気付くなり頭を下げた。
 
「お待たせ致しました。この二人は、連絡役として残る者達です」
 アーサーは兵達に目配せをし、二人へ直ぐに名乗るよう促した。アーサーの考えを理解した兵達は小さく頷き、先ずは彼の右に立つ女性が口を開く。

「レイチェル・ミュリエルと申します。まだまだ未熟者ではありますが、一通りの訓練は積んでおりますのでご安心を」
 レイチェルは、右手を額に付けて背筋を伸ばすと、緊張した面持ちで三人の顔を見た。彼女の体は、アーサーやもう一人の兵と比べて小柄であるが、その強い眼差しから先程の言葉に偽りは無いことが窺える。
 
「リンケ・ツェラーフェルトと申します。宜しくお願い致します」
 はっきりとした声で伝えると、リンケは思い切り背筋を伸ばして敬礼をした。しかし、その敬礼はどこかぎこちなく、場馴れしていないのか、彼の目線は定まっていない。その様子を見たアーサーは、彼へ注意を促す様に咳払いをする。
 
「他の兵達は、外で待機しております」
 そう言うと、アーサーはベネットの目を見つめる。

「準備も済んでおりますし、直ぐにでも出発可能です」
 アーサーの話を聞いたベネットは無言で立ち上がり、彼の方へ歩いていった。
 
「ならば、直ぐに向かうとしよう。涼しい場所だったとは言え、遺体を回収するのは早い方が良い」
 ベネットはアーサーの反応を見る様に顔を見上げる。すると、アーサーは小さく頷き、ダームとザウバーの方を見た。

「それでは、私達は出発します。何か分からないことが有ったら、レイチェルかリンケに聞いて下さい」
 ザウバーは、アーサーの言葉に小さく頷き、ダームも彼につられる様に頷いた。
 
「くれぐれも、喧嘩するなよ」
 それだけ言い残すと、ベネットは直ぐに部屋の外へ向かって進んでいく。それを見たアーサーは、レイチェルとリンケに目配せをし、慌ててベネットの後を追いかけた。この際、ダームは寂しそうにベネットの背中を目で追うが、彼が立ち去る仲間の名を呼ぶことはなかった。
ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

ダーム・ヴァクストゥーム

 

ファンタジー世界のせいで、理不尽に村を焼かれてなんだかんだで旅立つことになった少年。
山育ちだけにやたらと元気。
子供だからやたらと元気。
食べられる植物にやたらと詳しい野生児。

ザウバー・ゲラードハイト

 
自称インテリ系魔術師の成年。
体力は無い分、魔力は高い。

呪詛耐性も低い。
口は悪いが、悪い奴では無い。
割とブラコン。

ベネット

 

冷静沈着で、あまり感情を表に出さない女性。

光属性の攻撃魔法や回復術を使いこなしている。

OTOという組織に属しており、教会の力が強い街では、一目置かれる存在。

カシル


 HEIGHT:162cm
 WEIGHT:55kg
 HEIR COLOR:Brown
 EYE COLOR:Red


オーマの街で男性を浚い、更にはザウバーまでも僕にした淫魔。
魔力によって他者を操る事を得意とし、外観も魔力によって整えている。
自身で前線に立って戦う事は無く、戦闘能力に乏しい

アーク・シタルカー


ヘイデル警備兵の総司令。

その地位からか、教会関係者にも顔が広い。

魔法や剣術による戦闘能力に長け、回復術も使用する。

基本的に物腰は柔らかく、年下にも敬語を使う。

常にヘイデルの安全を気に掛けており、その為なら自分を犠牲にする事さえ厭わない。

ルキア・ハイター
 
 HEIGHT::169cm
 WEIGHT::56kg
 HEIR COLOR::Brown
 EYE COLOR::Dark Brown
 
ヘイデル教会直属の病院で働く女医。
話し方は無骨だが、若くして院長を務める程の実力者。
アークとは幼なじみの為か、彼へ接する態度からは遠慮が感じられない。

ヴァリス

 

 HEIGHT:185cm
 WEIGHT:67kg
 HEIR COLOR:Black
 EYE COLOR:Purple

 
フェアラでダームを軽々と倒した謎の多い男。
含みの有る話し方をするが、それがどこまで本当かは不明。
自在に姿や硬度を変える使い魔を使役し、人間を追い詰めることを楽しんでいる。

ライチェ

 

 HEIGHT:137cm
 WEIGHT:32kg
 HEIR COLOR:Pink
 EYE COLOR:Scarlet

 
見た目は幼い少女だが、魔族である為に様々な力を持つ。
浮遊したまま素早く移動し、相手に攻撃の隙を与えない。
また、無機物や死者を操る力を有している。
但し、深くものを考えたりするのは苦手の様で、感情が高ぶっている時などは判断力が著しく低下する。

ビューワー設定

文字サイズ
  • 特大
背景色
  • 生成り
  • 水色
フォント
  • 明朝
  • ゴシック
組み方向
  • 横組み
  • 縦組み