愚かだった単独行動

文字数 1,378文字

 小さな集落という表現が合う場所を前に、ザウバーは苦々しく言葉を吐き捨てる。彼は多数の傷を負っており、その呼吸は速く荒い。この時、ザウバーの目線の先には、幾らかの家屋が建ち並んでいた。また、その軒先には数種類の野菜や魚が吊されている。

 しかし、そのどれからも人の声は聞こえず、ザウバーの荒い呼吸音が響くばかりであった。それでも、ザウバーは前方を見据え、一番近い場所に建つ家屋の戸を数回叩く。だが、その屋内から返事は無く、ザウバーは苛立った様子で踵を返した。
 
「もう、ここには誰も居ないよ?」
 彼が振り返った先には、桃色の髪を靡かせ宙に浮遊する少女の姿が在った。彼女の身長は高く無いが、浮遊している為に目線は高い。

「だって……私達が、イイトコロに連れて行っちゃったから」
 少女はザウバーの目をじっと見た。彼女の瞳は鮮血の様に赤く、瞳孔は縦に裂けている。対するザウバーは静かに後退り、警戒した様子で少女の動向を探る。

「ここまで来たのは褒めたげる。だって、たくさん用意してあげた魔物を倒して来たんでしょ?」
 それだけ言うと、少女はザウバーの目を見つめたまま笑い始めた。

「でも、一人で来るなんて馬鹿。それとも、仲間は居たけど死んじゃった?」
 少女は、嘲笑しながらザウバーに顔を近付けた。この為、危険を感じたザウバーは、反射的に後退しようとする。しかし、ザウバーの背後は家で、家の戸に背中をぶつけて静止するしかなかった。それ故、ザウバーは舌打ちし、眼前に居る少女の目を見据える。
 
「あんな魔物、一人で楽勝だ。それに、お前も!」
 吐き捨てる様に言うと、ザウバーは拳を少女へ向けて振りかざした。だが、少女は彼の攻撃を易々と避け、先程よりも高い場所で浮遊する。

「ざんねん。てゆか、遅過ぎ」
 そう言うや否や、少女はザウバーの頭部に向けて小さな踵を振り下ろす。その打撃は相当なもので、ザウバーは攻撃を受けた部位を押さえてうずくまる。その様子を見た少女は、腹を押さえて笑い始めた。

「弱い……弱い、弱いよ!」
 楽しそうに言うと、彼女はザウバーの肩を思い切り蹴飛ばした。この為、ザウバーは蹴られた反動で右へ飛ばされ、その衝撃の為か気を失ってしまう。
 
「駄目だよ、ここで殺しちゃ。僕達の仕事は、人間を生きたまま連れて行くことでしょ?」
 この時、少女の背後から、落ち着いた男の声が聞こえてきた。その男は、闇を溶かし込んだ様な黒髪を後ろで束ねており、瞳も限り無く黒に近い紫色だった。しかし、髪や瞳の色とは対照的に、その肌は透き通る様に白く、透明に近い爪は鋭く尖っている。

「分かってるよ。ちょっと遊んでみたかっただけ」
 そう言うと、少女は不機嫌そうに頬を膨らませた。

「だったら良いけど」
 男は軽く目を瞑ると、小さく息を吐き出した。

「君の場合、一度スイッチが入ると止まらないから、一応」
 そう呟くと、男は少女の顔を横目で見、鼻で笑った。その話を聞いた少女と言えば、憤慨した様子で男の目を睨み付ける。
 
「君が捕まえたんだし、早く連れて行きなよ」
 一方、男は動じることも睨み返すこともせず、淡々と自らの意見を話していく。対する少女は舌打ちをし、ザウバーの腋下に手を入れた。少女はザウバーの体を持ち上げ、男に向けて舌を突き出した。それから、彼女は宙に浮き上がると、男に捨て台詞を吐いて去っていった。
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登場人物紹介

ダーム・ヴァクストゥーム

 

ファンタジー世界のせいで、理不尽に村を焼かれてなんだかんだで旅立つことになった少年。
山育ちだけにやたらと元気。
子供だからやたらと元気。
食べられる植物にやたらと詳しい野生児。

ザウバー・ゲラードハイト

 
自称インテリ系魔術師の成年。
体力は無い分、魔力は高い。

呪詛耐性も低い。
口は悪いが、悪い奴では無い。
割とブラコン。

ベネット

 

冷静沈着で、あまり感情を表に出さない女性。

光属性の攻撃魔法や回復術を使いこなしている。

OTOという組織に属しており、教会の力が強い街では、一目置かれる存在。

カシル


 HEIGHT:162cm
 WEIGHT:55kg
 HEIR COLOR:Brown
 EYE COLOR:Red


オーマの街で男性を浚い、更にはザウバーまでも僕にした淫魔。
魔力によって他者を操る事を得意とし、外観も魔力によって整えている。
自身で前線に立って戦う事は無く、戦闘能力に乏しい

アーク・シタルカー


ヘイデル警備兵の総司令。

その地位からか、教会関係者にも顔が広い。

魔法や剣術による戦闘能力に長け、回復術も使用する。

基本的に物腰は柔らかく、年下にも敬語を使う。

常にヘイデルの安全を気に掛けており、その為なら自分を犠牲にする事さえ厭わない。

ルキア・ハイター
 
 HEIGHT::169cm
 WEIGHT::56kg
 HEIR COLOR::Brown
 EYE COLOR::Dark Brown
 
ヘイデル教会直属の病院で働く女医。
話し方は無骨だが、若くして院長を務める程の実力者。
アークとは幼なじみの為か、彼へ接する態度からは遠慮が感じられない。

ヴァリス

 

 HEIGHT:185cm
 WEIGHT:67kg
 HEIR COLOR:Black
 EYE COLOR:Purple

 
フェアラでダームを軽々と倒した謎の多い男。
含みの有る話し方をするが、それがどこまで本当かは不明。
自在に姿や硬度を変える使い魔を使役し、人間を追い詰めることを楽しんでいる。

ライチェ

 

 HEIGHT:137cm
 WEIGHT:32kg
 HEIR COLOR:Pink
 EYE COLOR:Scarlet

 
見た目は幼い少女だが、魔族である為に様々な力を持つ。
浮遊したまま素早く移動し、相手に攻撃の隙を与えない。
また、無機物や死者を操る力を有している。
但し、深くものを考えたりするのは苦手の様で、感情が高ぶっている時などは判断力が著しく低下する。

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