調薬と保管
文字数 1,384文字
「お疲れ様。この位の時間で、随分と作れるものだな」
青年の近くに歩み寄ると、ベネットは小瓶の一つを手に取った。机上には、他に数十もの小瓶が置かれ、様々な色の液薬が封じ込められている。
「大学で教え込まれからな。コツさえ掴んであれば、簡単だ」
得意気に言い放つと、ザウバーはベネットに向き直る。それから、彼は使用した器具を机の端に寄せ、開いた場所に木箱を乗せた。その木箱は、内部が小さく分けられており、その区画毎に柔らかな綿が敷き詰められている。
「手早く作って瓶詰めしねえと、効果が薄れちまう」
ザウバーは半透明のテープを取り出し、小瓶の蓋へ丁寧に巻き付けた。
「少し手伝ってくれねえか? 保存状態を良くする為に、瓶と蓋の間を塞ぐんだが、早く済ませた方が良い」
ザウバーは、テープを小さな鋏で切ると、テープ本体をベネットへ手渡した。
「分かった。私に出来る事なら協力しよう」
ベネットは、持っていた小瓶を机上に戻した。
「そりゃ、ありがてえ。なら、早速テープを切ってくれ。これ位の長さずつだ」
ザウバーは、そう言うとベネットに鋏を手渡した。それから、両手の人差し指を立てて上に向け、その幅で切り取るべき長さを提示する。
ベネットは軽く頷き、彼が示した長さにテープを切り離していった。一方、ザウバーは切り離されたテープを手に取ると、手早く小瓶へ巻き付けていく。
そうして、しっかりとテープを巻かれた小瓶は、次々に木箱へ収められていった。ザウバーは、程なくして全ての小瓶を木箱に入れ終え、ベネットに頭を下げながら礼を述べた。その後、彼は黒色のフェルトと木箱の蓋を掴み、順に木箱へ被せていく。
「これで完了」
ザウバーは木箱の蓋を軽く叩き、満足気に息を吐き出した。
「ところで、色々と調合をしていた様だが、具体的には何を作ったのだ?」
ベネットは、横目で木箱を見ながら問い掛けた。
「体力回復薬に魔力回復薬、解毒薬みてえな良く使いそうな奴を五本ずつ」
「二人とも、何やってるの?」
目を覚ましたダームは、四つん這いで机の方へ近付いた。彼は上半身を机に乗せ、目を輝かせながら仲間の顔を覗き込む。この時、彼の重みによって机が軋み、ザウバーは訝しげな表情を浮かべた。
「その箱」
見慣れない物体に気付いたダームは、そう言うやいなや木箱へ向けて手を伸ばした。一方、少年の行動を予想したザウバーは、咄嗟に木箱を持ち上げる。それから、ザウバーは大きな溜め息を吐き、木箱を大事そうに抱きかかえた。
「ちゃんと説明してやるから、先ずは落ち着いて座れ」
苦笑しながら言うと、ザウバーは少年の目を真っ直ぐに見つめる。すると、彼の指示を聞いたダームは、渋々その場に腰を下ろした。
「じゃあ、説明してやっから聞いてろよ」
ザウバーは、少年が座ったことを確認すると、落ち着いた声で話し始めた。
「この箱の中には、色んな種類の薬瓶が入っている。薬は光に当てると劣化しちまうし、乱暴に扱えば薬を入れた瓶が割れる。これで、中身が何かと、触らせたくない理由は分かったよな?」
箱の中身について話すと、ザウバーは軽く木箱を持ち上げる。説明を聞いたダームと言えば、木箱を見つめながら頭を上下に動かした。