魔族の襲来
文字数 1,406文字
青年が言った時、ベネットらが通ったドアの前に、褐色の髪を持つ女性が現れた。女性の着る服は必要最低限の部分しか隠しておらず、ザウバーは思わずたわわな胸元へ目線を送る。
また、女性のスカートには長いスリットが入っており、そこから肉付きの良い大腿が覗いていた。
「何が酷いのかしら? 男が、より綺麗で魅力的な女に靡いてしまうのは、普通の事でしょう?」
女性は、ザウバーを上目遣いで見つめ、艶の有る声で話した。彼女の真っ赤な瞳に見つめられたザウバーと言えば、息を止め体を強張らせてしまう。
その後、女性は音も無く青年の背後に移動し、後方からその体を抱き締めた。その立ち位置のまま女性が囁くと、青年の体は白い靄に包まれ、その瞳孔は大きく開かれた。
「そうそう、そこで馬鹿みたいに突っ立っている坊や? アンタは趣味じゃ無いから寝ていなさい」
そう女性が言った時、少年の体は思い切り部屋の壁に叩き付けられた。壁に体をぶつけたダームは、身動きの取れないまま情けない声を漏らす。
少年が痛みを堪えながら顔を上げた時、ザウバーと女性は忽然と姿を消していた。
「一体どうしたのだ?」
小屋の揺れとダームの声に気付いたベネットは、休んでいるミーアを驚かさないよう、静かに部屋へ戻って来た。彼女は、壁に寄りかかりながら呆けた表情を浮かべているダームに近付くと、血の気の引いた顔を覗き込む。
「変なオバサンが来て、僕は飛ばされちゃって」
ダームは、思う様に回らない口で説明を続けた。
「気付いたら、ザウバーが居なくなってて」
少年の慌てた様子を見たベネットは、何が起きたのか確認しようと部屋を見回した。すると、ザウバーの姿は無く、唯一の出入口である戸は内側から固く閉ざされていた。
「どうしよう」
青年が姿を消した瞬間に居合わせたダームは、悔しそうに涙を流し始めた。少年の体は微かに震え、その目は段々と赤みがかっていく。
「ザウバーは、魔法の使い手だ。だから、心配は要らないだろう」
ベネットは、顔色の悪いダームを気遣う様に、優しい声で考えを述べていった。彼女は、少年と目線を合わせる為にしゃがみ込み、小刻みに震えている体を優しく抱き締める。
「それに、ザウバーの生命力はゴキブリ並なのだろう? 連れ去られたとしても、大丈夫な筈だ」
ベネットは、少年の涙を優しく拭うと、近くに有った椅子へ腰を下ろす。
「一先ず、夜明けまで待とう。それまで待っても戻らなかったら、捜しに行けば良い」
ゆっくりとした口調で話すと、ベネットはダームも座るよう勧めた。
ダームは口を開くこと無く頷き、ベネットが座っている右側の椅子へ腰を掛けた。
「今日は休もう。この部屋にベッドは無いが、寒空の下で野宿するよりは良いだろう」
ベネットは少年の頭を軽く撫で、荷物の中から二枚の毛布を取り出す。彼女は、それらの毛布を広げると、そのうち一枚をダームへ手渡した。
「ザウバーのことが心配で眠れないかも知れない。だが、目を瞑るだけでも幾らか休める。だから」
ベネットは、そこまで話したところで言葉を詰まらせてしまった。
「僕も疲れてるし、寝てみるよ」
ダームは、気を遣わせまいと出来うる限りの笑顔を作る。そして、彼はベネットから受け取った毛布を被ると、その端を首の周りに巻き付けた。
「それじゃ、おやすみなさい」
小声で告げると、ダームは目を瞑り大きく息を吐き出した。