言い表し難い繋がり
文字数 2,153文字
ツェリオスは、話しながら紅茶を注ぎ、カップをベネットに差し出した。ベネットは、彼の言葉に面食らった様子で口を開くが、礼だけ伝えると差し出されたカップを受け取った。すると、ツェリオスは新たなカップを手に取り、それに紅茶を注ぎ始めた。
「三人ってどういう仲なの?」
ツェリオスは、言いながらザウバーへカップを渡し、顔を傾けて無機的な笑顔を浮かべる。彼の表情を見たザウバーは、何と返して良いか分からず困惑し、無言のまま目線を逸らした。
「成る程。簡単には答えられない様な仲か」
そう言って笑うと、ツェリオスは既にぬるくなった紅茶をカップへ注いだ。彼の言葉を聞いたザウバーは呆気にとられた様に口を開き、怪訝そうに片目を瞑る。
「出会いなんて人それぞれだし、いきなり説明してって言われても難しいよね」
ツェリオスは、注ぎたての紅茶に口をつける。
「うーん……ちょっと、苦いかも」
彼が苦笑しながら呟いた時、戸外からは誰かを呼んでいる様な声が聞こえてきた。四人は、顔を窓の方へ向け、その声が何と言っているのか聞き取ろうと耳を澄ませる。幸いにも声の主は彼らの居る方へ向かって来た様で、その声は徐々に大きくはっきりしたものになっていった。
「呼ばれてんぞ」
それだけ言うと、ザウバーはベネットの顔を見た。
「その様だな。では、私は一旦退室させて頂くとしよう」
ベネットは、残っていた紅茶を飲み干すと、ツェリオスに礼を述べながらカップを机上へ置く。それから、ベネットはツェリオスに頭を下げると、直ぐに部屋の外へ向かって歩き始めた。
ベネットが家を出た直後、ツェリオスはつまらなそうに溜め息を吐き、わざとらしく首を横に振った。
「なんか、急にむさ苦しくなったね」
ツェリオスは、ふざけた様に笑うと、青年の顔を見つめる。
「狭い部屋に野郎が三人。ま、一人はお子様だけど」
そう言葉を続けると、彼は目を瞑ってカップに口をつける。ツェリオスの言葉を聞いたザウバーは、無言のまま紅茶を一口飲んだ。そして、彼は大きく息を吐き出すと、ツェリオスの顔を見つめ返した。
「むさ苦しい野郎共には、とっとと出て行って欲しいって?」
彼は、嫌みを含めた話し方をすると、飲みかけの紅茶をテーブルの上へ置く。青年の話を聞いたツェリオスは、面白そうに笑った。
「違うよ。単に、華やかさが無くなっただけ。それと、なんであの子と君達がつるんでいるのかなって」
ツェリオスは口元に手を当て、乾いた笑いを浮かべる。
「あの凛とした顔つきの中に浮かぶ優しさ。それに、みんなを回復させた術……君みたいな男には勿体無いよ」
彼が言い終わるや否や、ザウバーは勢い良く立ち上がり、ツェリオスの目を鋭く見据えた。そして、ザウバーはツェリオスの胸倉を掴むと、力任せに自分の方へ引き寄せる。
「落ち着いてよ、ザウバー!」
ダームは必死に声を絞り出し、青年の腰へ腕を回した。そして、ダームは青年の行動を止めようと、腰へ回した腕に力を込める。しかし、ザウバーは頭に血が上っているせいか、ツェリオスから手を離そうとはしない。ツェリオスは、そんなザウバーを見下し、冷たい笑みを浮かべた。
「怒っているのは、僕の態度? それとも、自分の不甲斐なさ?」
彼の言葉を聞いたザウバーは、不機嫌そうにツェリオスの目を見据え、口を開く。
「止めてってば!」
だが、その言葉はダームの発した声によって遮られ、ザウバーは苛立った様子でツェリオスを突き放した。ザウバーは、舌打ちしながら少年を一瞥すると、目を細めてツェリオスの出方を窺う。当のツェリオスは、冷めた瞳で二人を眺めており、その眼差しから感情を読み取ることは出来なかった。
「結局、何が言いたいんだよ、てめえは」
吐き捨てる様に言うと、ザウバーは無言でツェリオスの返答を待つ。すると、ツェリオスは虚空を見つめて鼻で笑った。
「女の子を泣かせる男って嫌い。それだけ」
それを聞いたザウバーは、再びツェリオスに掴みかかろうする。
「あと」
しかし、ツェリオスが話し始めた為、ザウバーは動きを止めると苛立った様子で唇を噛む。
「年下の子に気を遣わせる奴も、嫌いだ」
ツェリオスは、青年へ冷めた眼差しを向けており、その表情に温かみは無い。ザウバーは、そんな彼に言い返そうと口を開くが、少年の顔を見て言葉を飲み込んだ。この時、ダームはザウバーを止めようと腕に力を込めており、その瞳は赤く染まっていた。
また、少年の腕は小刻みに震えており、酷く慌てた為か呼吸は乱れている。ザウバーは、ツェリオスを見つめて舌打ちすると、そっと少年の手首を掴んだ。そして、ザウバーは巻き付いていた腕を腰から離すと、少年と向かい合う形に体の向きを変える。
「悪かった。気持ちが不安定で、止まらなくなっちまった」
小さな声で伝えると、ザウバーは優しく少年の頭を撫で始めた。すると、それを見たツェリオスは何度か大きく頷き、嬉しそうな笑みを浮かべる。
「紅茶が無くなったから、新しく淹れてくるね」
明るい声で話すと、ツェリオスは部屋の入口に向かい始めた。
「じゃ、仲良く待っていてね」
そして、ツェリオスは一言だけ残して、部屋から姿を消した。