戦いの後の苦しみ
文字数 996文字
街に到着した一行だったが、ザウバーは街の暑さに嫌悪感を示す。そんな彼の呟きを聞いたベネットは、上着の襟を掴んで前後に動かしながら頷いた。頷く彼女の顔は赤く染まり、目の焦点は定まっていない。
「早く宿に行って休もうよ。二人とも、魔法の使い過ぎで疲れているでしょ?」
「だな。次に向かう場所は決めてねえし、ひとまず宿で休むとするか」
ザウバーは、上下に首を振りながら肯定の返事を為す。ベネットは少年の顔を見、無言で小さく頷いた。頷いた直後、ベネットは口を押さえながら倒れ込んでしまう。一方、彼女が倒れ込む瞬間を見たダームは、慌てた様子で口を開く。
「ベネットさん! 大丈夫?」
そう声を掛けると、ダームは心配そうな表情を浮かべてベネットの顔を覗き込む。しかし、ベネットは苦しそうに眉を潜めるだけで、顔を上げる事も、声を発する事もままならない様子だった。
「とにかく、宿に行って休ませるぞ」
ザウバーは、そう言うと少年の頭を軽く叩く。そして、ベネットの前で体をかがめると、彼女の体を抱き上げた。この際、ベネットは声を出さず、何かへ縋る様にザウバーの上着を握り締めた。
「このまま、目を覚まさないとか無いよね?」
ベネットが一向に声を発しない為、ダームは心配そうに言葉を漏らした。彼の蒼い瞳からは、既に大粒の涙が溢れ出している。
「心配すんな。この位で死ぬ程やわじゃねえよ。大方、攻撃を防ぎつつ倒す為に、魔力を使い過ぎたんだろ」
ザウバーは、少年を心配させまいと優しく笑ってみせる。しかし、それでも少年の表情が晴れなかった為、ザウバーはそれ以上の言葉を発する事無く歩き始めた。
二人がゆっくり歩いて行くと、何日か前に立ち寄った宿が見えてきた。その宿を確認したザウバーは、安心した様子で軽く息を吐き出し、目を細める。
ザウバーは、ぐったりしているベネットを抱き締めると、歩みを早めて目的地へ進んでいった。彼らが宿に入った時、気を失っているベネットに気付いた従業員が、慌てて三人を開いている部屋へ案内した。
案内を終えた従業員は、この地方では、異様な暑さにやられる人が多いことを説明した。それから、氷水を持って戻ること付け加え、足早に客室から立ち去った。すると、緊張の糸が解けたのか、ベネットを布団の上に寝かせたザウバーは、ひんやりとした床の上で寝転がる。