集会場での聞き取り調査
文字数 2,223文字
「突然の訪問、失礼致します」
そう言って背筋を伸ばすと、男性はツェリオスの目を真っ直ぐに見る。ツェリオスは、見知らぬ人物の登場に驚いた様子を見せ、ぎこちない笑顔を作った。
「驚かせてしまい、申し訳御座いません。実は」
「どうした? 仲間がフェアラに到着したのか?」
男性の声に気付いたのか、ベネットは二人の会話に割って入る。すると、状況を飲み込めなかったツェリオスは、困惑した面持ちでベネットの方を振り返った。
ツェリオスは苦笑しながらベネットの目を見つめ、状況を説明するよう促した。ベネットは、程なくして彼の視線に気付き、小声で訪問者が誰であるかや訪れた理由を説明する。ツェリオスは、彼女の説明に頷くと一歩後退した。
「そういうことなら、僕は下がるね。協力出来ることがあれば協力する」
言いながら笑うと、ツェリオスは小さく手を振り寝室へ戻っていく。ベネットはツェリオスを見送ると、真剣な表情で男性の顔を見上げた。
「実はですね。落ち着いて話を伺う為、村の責任者に頼んで集会所を貸して頂いたのです。集会所程の広さなら、これから到着する者達も入れますし、民家へお邪魔するよりは気持ち的に楽でしょう」
彼は、自らの考えを簡単に述べると、ベネットの返答を待った。当のベネットは、右手を頬にあて、右肘を左手で支えながら、思案顔を浮かべる。
「それは、良い考えだと思う。ただ、倒れた仲間が居る。もし、集会所へ向かうなら、横になれる場所が欲しい」
ベネットは、頬に触れていた手を下げると、心配そうに微苦笑する。彼女の言葉を聞いた男性は安心した様に微笑み、口を開いた。
「心配する必要は御座いません。町に宿が無い代わりとして、集会所で宿泊出来る様になっているとのことでしたから」
男性は小さく息を吸い込み、目線を上方へ移す。
「ただ……宿泊施設としては殆ど使われていないらしく、寝具の状態は良好とは言えないそうです」
彼は目線をベネットの方へ戻すと、苦笑いを浮かべて返答を待った。
「分かった。何時までも世話になるのは家主へ迷惑がかかるし、事情を説明次第集会所へ向かう」
返答を聞いた男性は敬礼をしてツェリオスの家を出、ベネットは直ぐに仲間の元へ戻った。それから、ベネットは仲間やツェリオスに説明をし、ダームやザウバーと共に集会所へ向かっていく。集会所への案内は、ツェリオスの家を訪れた兵が担い、三人は殆ど時間を掛けることなく目的地へ到着した。
集会所に着くと、男性は一番広い部屋へ三人を案内し、先ずは座って落ち着こうと提案する。その部屋には、端の方に低めの椅子が集められており、男性はその中から四脚を抜き取った。そして、彼はそれらを適当な間隔を開けて床に置くと、他の三人へ椅子に座るよう伝える。
すると、三人はそれに従って椅子に座り、そのまま男性の出方を待った。男性は、三人の前に残った椅子を移動させると、腰を下ろして一息つく。
「いきなり呼び出してしまい申し訳ございません。私の名は、アーサー・ヘルファー。ヘイデルに所属する兵士です。ベネット様からの連絡が届き、フェアラまで参りました。しかし……恥ずかしながら、分からないことばかりで困っております」
彼は、自らの状態を軽く説明すると、気まずそうに苦笑する。
「一応、ベネット様から話は伺いました。ですが、情報は多い方が助かります」
そこまで話すと、アーサーはダームとザウバーの顔を見つめ、そのまま二人の返事を待った。
「早い話が、ここで起きたことについて話せば良いんだな?」
ザウバーは、不機嫌そうな声で話すと、アーサーの目を真っ直ぐに見た。すると、彼の言葉を聞いたアーサーは頷き、嬉しそうな笑顔を浮かべる。
「話が早くて助かります。状況を把握せずに動くのは愚行ですから」
彼は、右手をザウバーの前に差し出すと、笑顔のまま小さく首を傾けた。ザウバーは、差し出されたアーサーの手を掴むと、微笑しながら指先へ力を込める。
「俺の話がどれだけ役に立つか分かんねえけど、人助けになるなら歓迎だ」
そう言って片目を瞑ると、ザウバーは手を離し膝上に置く。ザウバーとの話が一段落したアーサーは、目線をダームへ移すと直ぐに柔らかな笑顔を浮かべた。彼の目線に気付いたダームは、右手を何度か上着に擦り付け、アーサーの前へ手を差し出す。
「僕の話が役に立つか分からないけど、宜しくお願いします」
笑顔を作ると、ダームはアーサーの顔を見つめた。少年の瞳に何時もの様な輝きは無く、発せられた声に力が無い。それ故、アーサーは悲しそうに目を細め、少年の小さな手を優しく掴んだ。
「はい。こちらこそ宜しくお願いします」
出来る限り落ち着いた声で話すと、アーサーはダームの手をゆっくり離した。その後、主にザウバーが説明を加え、フェアラへ向かう道でのことや、フェアラで遭遇した者について話していった。アーサーは、新たな情報を聞く度に頷き、悲惨な話を聞く度に眉間に皺を寄せる。ザウバーが思い付く限りの話を終えた時、彼らは疲れた様に大きな息を吐き出した。そして、アーサーは口元を押さえて咳をすると、ザウバーの顔を真っ直ぐに見つめる。