聖霊とドラゴン
文字数 1,693文字
まだ夜が明けたばかりだというのに大気は暑く、少しでも動けば汗が吹き出る程だった。それから時間が経ち、一日の中で最も気温が上がる頃、三人は一先ず探索を行うという結論に達する。そして、彼らは探索に必要な食糧などを揃えると、フランメが居る可能性の高い場所へ向かい始めた。
街を離れてから数回の昼夜が巡った頃、彼等は目的とする火山の前に到着する。その場所は、汗が直ぐ乾く程に暑く、気温のせいか動植物は殆ど見られなかった。三人は互いに顔を見合わせ、この場所にフランメが居るかどうか確かめる為、慎重に探索を始める。
すると、まるで彼等を誘うかの様に、ほぼ平らだった山の壁面から岩が崩れ落ち、薄暗い空間が現れた。そして、三人が呆気に取られているうちに、二人並んでも余裕で通れる程の道が出来上がっていく。
ダームは、突然の出来事に目を丸くし、間の抜けた声を漏らした。そして、彼は数回大きく瞬くと、胸に手を当てながら仲間の顔を見る。
「岩壁が崩れて、その先に道が出来るとはな」
目線に気付いたベネットは、少年の蒼い瞳を見つめ返す。
「とにかく進んでみようぜ? ワダーの力を手に入れた時だって、無理矢理神殿に入った様なもんだ。今回もなんとかなるだろ」
片目を瞑りながら話すと、ザウバーは先程出来た道へ歩みを進めた。彼の様子を見た仲間は顔を見合わせ、小さな声で笑い合う。
「行かねえのか?」
一足先に進んでいたザウバーは、待ちきれない様子で二人の方を振り返る。彼の声は、岩に囲まれた道の中で反響を繰り返し、何度も仲間の耳へ届いた。
反響が収まった頃、ダームはベネットに対して歯を見せて笑い、青年の元へ駆けていった。
三人は、進むにつれて暑くなる環境に喘ぎながら、目的とする聖霊を探し続けていた。
ダームが疲れた様子で溜め息を吐き始めた時、薄暗い小道に赤い光が差し込んでくる。三人が、赤い光へ導かれる様に進むと、その道は徐々に開けていき、ついには広間らしき場所に辿り着いた。
「久しぶりのお客様だね」
この時、広間の奥からは女性の声が聞こえ、ザウバーは声のした方に向き直る。すると、赤い長髪を備えた小柄な女性が、楽しそうな笑みを浮かべて立っていた。
「しかも、その内二人は、既に聖霊の力を持っている」
ザウバーは、その目線をベネットへ移すと、無言で何かを伝えようとした。
「漸く、私達は目的とする場所に辿り着いたという事か」
「アンタ達が考えている通り、私は火聖霊フランメ。熱く燃え盛る炎を司る聖霊さ」
フランメと名乗る女性は、はっきりとした口調で話し出す。その後、彼女は軽やかな足取りで三人へ近付き、ベネットの顔をじっくりと見た。
「此処まで来たってことは、やっぱ聖霊の力が目的よね」
呟く様に言うと、聖霊は不敵な笑顔を浮かべる。彼女は、軽く目を瞑ると大きく息を吸い込み、両腕を斜め前方にゆっくり広げた。聖霊はそのままの姿勢で目を見開くと、地を震わせる程の雄叫びをあげる。
すると、フランメの背後には、彼女の数倍は高さがあろうかというドラゴンが現れた。そのドラゴンの鱗は炎の様に紅く、息を吐き出す度に垣間見える牙は大きくも鋭い。
ドラゴンの姿を見たダームは、驚きと恐怖で目を見開いたまま固まった。一方、ドラゴンを召喚したフランメは、堅い鱗で覆われた背中へ移動する。そして、しっかりとした足場を確保すると、ドラゴンの頭部から生えた角をしっかり掴んだ。
「やりな!」
聖霊が言い放つと、ドラゴンは思い切り息を吸い込み始めた。この時、ドラゴンが次に起こす行動を察したザウバーは、仲間の前に立ち、両手を前に翳して魔力を集中し始める。
ドラゴンが炎を吐き出した刹那、ザウバーの前方に目に見えない盾が生じた。この為、三人はすんでのところで業火による攻撃を免れる。
「流石は、私と対を為す聖霊の力を持つ者ね。だけど、次は手加減しないよ!」
大きな声で言い放つと、フランメは掴んでいるドラゴンの角を後方へ引いた。すると、先程よりも強く大きな炎が、三人へ向かっていく。