少年の生まれた日
文字数 2,087文字
明るい掛け声と共に、暗闇の中に小さな灯火が幾つも生じる。そして、再び部屋に明かりが点いた時、ダームの横に、大きなリボンで飾り付けられた袋を抱えるルキアが居た。
ルキアは、手に持っていた袋をダームに手渡すと、その袋を開けるよう促した。しかし、ダームは目を丸くするばかりで、袋を受け取ったままの姿勢で固まっている。
「アーク。本当に、今日がダームの誕生日で良かったの?」
ダームへプレゼントを手渡した当人は、不安そうにアークへ問い掛けた。この時、円形をしたケーキが机上に置かれ、そこには火の点いた蝋燭が十数本立てられている。
「今日だったんだ」
ダームは、そう言うと照れくさそうに頭を掻く。
「色々なことが有って、すっかり忘れてた」
ダームは、そこまで話すと苦笑し、手渡されたプレゼントを持つ手に力を込める。
「話なら、後から幾らでも出来ます。とりあえず、蝋燭の火を消して下さいね」
アークは、微笑みながら少年へ伝えた。
「蝋の垂れたケーキは、美味しさが半減しそうです。それに、ダームが吹き消さないと、お楽しみも始まりませんよ?」
アークはケーキを指差し、微笑んだまま首を傾げた。一方、ダームはケーキへ目線を移し、朗らかな笑顔を浮かべて頷く。
少年は体を前に傾け、十四本ある蝋燭の灯火を次々に吹き消していく。ルキアは、蝋燭の火が全て消えたところで手を叩き始め、それを合図とする様にベネットとアークも手を叩き始めた。
「それでは、料理を運んで貰いましょう」
ダームを祝う拍手が鳴り止んだ後で、アークは席に備えつけられたナプキンへ手を翳す。すると、そのナプキンは白い小鳥へ姿を変え、ゆっくりと個室の外へ飛んでいった。
「料理が来るまで暫くあるから、プレゼントを開けてみて」
ルキアは、勢い良くダームの隣に座ると、肘で少年の横腹をつつき始めた。
「出会ってから日が浅いから、気に入るかどうかは、分からないけど」
ルキアは苦笑し、テーブルの対面に座るアークと顔を見合わせた。彼女の言葉を聞いたダームはプレゼントへ目線を移し、それから照れくさそうな笑顔を浮かべる。
「じゃあ、お言葉に甘えて開けちゃおうかな」
ダームは嬉し涙を裾で拭い、プレゼントのリボンを解き始めた。リボンを解き終えたダームは、中に入っていたガントレットを取り出すと、嬉しそうに声を漏らす。そして、そのガントレットを自らの手へ嵌めると、その感動を確かめるかの様に数回指を動かした。
そのガントレットは、手首まで覆う革のグローブを基本に造られ、その甲側には青黒い色をした金属が張り付けられていた。また、手首の周囲には、デザインを重視したのか、白色をした毛皮が縫い付けられている。
「すごいや、僕に合う大きさなんて滅多に見つからないのに、ぴったりだ」
ダームは、嬉しそうにルキアの目を見つめ、感嘆の言葉を述べていく。
「しかも、手や指が動かし易い」
ダームは、そう言うと両手をルキアの方へ向け、何度か指を動かしてみせた。その動きに不自然さは無く、ルキアを見つめる蒼い瞳は嬉しそうに輝いている。
「良かった」
ダームの嬉しそうな言葉を聞いたルキアは、安心した様子で胸を撫で下ろす。
「アークから誕生日の事を聞いて慌てて用意したから、正確なサイズも好みも分からなくて心配だったの」
そこまで話すと、ルキアは微苦笑しながらアークの目を見つめた。ルキアに見つめられたアークは首を傾げ、彼女の言葉を受け流すように目を逸らす。
「そう言えば、僕でさえ誕生日を忘れていたのに、アークさんはなんで僕の誕生日を知っていたの?」
そんな中、ダームは首を傾げながらアークへ質問する。質問を受けたアークと言えば、少年の方へ顔を向け、微笑みながら口を開いた。
「以前、ダームがヘイデルを訪れた際に、互いに自己紹介をしたではないですか」
アークは、そう言うと小さく首を傾げ、片目を瞑ってみせた。説明を聞いたダームと言えば、その時のことを思い出そうと目を瞑って考え始める。
「クルークの洞窟に入る前、色々と話した様な気がする」
ダームは、そう言うと何か思い出した様に手を打ち鳴らした。
「そう言えば」
「お待たせいたしました。こちら、前菜のカルパッチョで御座います」
ダームが、再び何かを言おうとした刹那、彼の言葉を遮る様に店員が現れた。その店員はアークへ向けて頭を下げると、綺麗な盛り付けがなされた料理を音もなくテーブルの上へ並べていった。
皿の上には、薄切りの新鮮な肉が盛りつけられ、その上には乳白色をしたチーズが乗せられている。四人分の料理を並べ終えた店員は、背筋を伸ばして息を吸い込むと、テーブルの上を一瞥した。
「それでは、ゆっくりと食事をお楽しみ下さい」
料理を並べ終えた店員は、深々と頭を下げ、静かに彼等の前から立ち去った。アークは無言で店員を見送り、テーブルに並べられた料理をざっと眺める。
「料理が届いた事ですし、作り立てのうちに食べてしまいましょうか」
アークの話を聞いたダームは頷き、手に嵌めた防具を外して元の袋へ戻す。