色々な魔法属性
文字数 2,110文字
仰向けになったダームは、目線を左右に動かして周りに置かれたものを確認し、両足を揃えて外側へ伸ばす。その後、少年は軽く上体を捻ると、床をゆっくり転がり始めた。
その行動が暇つぶしに適していたのか、彼は徐々に転がる速度を速めていく。そして、かなりの勢いをつけてドアの方へ向かっていった時だった。
部屋に戻ったザウバーの右足が、見事なまでに少年の腹部へと入り込む。この為、ダームは声にならない声をあげ、腹部を押さえて体を丸めた。一方、出会い頭に少年とぶつかったザウバーと言えば、その衝撃でバランスを崩し、叩き付ける様にドアへ背中を当てた。
「お前は……一体、何がやりたかったんだよ」
ザウバーは呆れた様子で問い掛けると、少年とぶつかった場所をさすり始める。一方、ダームは痛そうに腹部を押さえたまま、口を開くことは無かった。それ故、ザウバーは大きな溜め息を吐き、少年の体を跨いで部屋の中へ進んでいく。そして、購入した荷物を机に置くと、少年の元へ歩み寄った。
「いちいち仕事を増やしやがって」
気怠そうに声を漏らすと、ザウバーは少年の襟首を掴んで部屋の隅まで引きずっていく。
その後、ザウバーは机の横に腰を下ろし、購入した品物を丁寧に机上へ並べていく。その中には、瓶に入れられた色とりどりの液体や、炭の様に黒い根などがいくつも有った。
程なくして、ザウバーは購入したものを並べ終え、両腕を軽く上方に伸ばした。そして、彼は少年を横目で見やると、疲れた様子で溜め息を吐く。この時、まだ腹部の痛みが引いていないのか、ダームは寝転がったまま動こうとはしなかった。
「薬っぽい臭いがするけど、何を買ったの?」
話が出来るまで回復したのか、ダームは横になったまま質問をした。
「薬の材料だ。俺は回復魔法を使えねえし、せめて回復薬くらい作っとこうと思ってよ」
ザウバーは、質問の答えを伝えていった。その間、ザウバーの手は忙しなく動き、買ってきた品々は手際良く調合されていく。
「回復薬かあ。ザウバーが薬を作れるなんて、意外だなあ」
ダームは、ゆっくり体を起こすと、机上に並べられた物を一つ一つ眺めた。
「俺は、魔術大学を出てるんだ。大学の実習で叩き込まれたおかげで、回復薬の調合位、朝飯前なんだよ」
ザウバーは、呆れた表情を浮かべながら言い返す。彼の目線は調合すべき材料へ留まったままで、少年の言葉を煩わしく感じている節さえ有った。
「だったら、大学で回復魔法は習わなかったの? 凄く役に立つ魔法なのに」
しかし、ダームは彼の感情に気付く事無く話し続けていく。この為、ザウバーは苛立った様子で少年を睨み付けた。
「回復魔法は、他の魔法に比べて特殊だからだ」
浴室から出てきたベネットが、黒髪をタオルで拭きながら言葉を発した。
「特殊? それって、どういう意味?」
ダームは、ベネットの方へ向き直って首を傾ける。
「回復魔法は天賦の才。言うなれば、素質の無い者に使うことは出来ない」
質問を受けたベネットは、そう説明すると少年の前で腰を下ろす。それから、手早く濡れた髪を纏めると、微笑みながら少年の瞳を見つめた。
「ってことは、ザウバーに才能は無いんだね」
説明を聞いたダームは、そう言うと笑いながら青年の顔を見る。
「端的に言えば、そうなるな。魔法を使う者にも、得手不得手は有る」
そこまで説明を終えると、ベネットは青年の方へ目線を移した。
「例えば、ザウバーは回復魔法を使えないが、自然魔法は使いこなしている。対して、私は回復魔法を使えるが、自然魔法は得意でない。この際だから、魔法について軽く説明をしておこうか」
ベネットは一つの提案を述べると、少年の顔を見た。一方、ダームは力強く頷き、その提案を受け入れる。
「まずは、魔法の基本的な属性を説明しよう」
ベネットは、そう言うと口許を押さえながら咳払いした。
「魔法の基本属性は、大きく分けて火、水、地、風。聖霊について少なからず知っているダームなら、大体どの様な力か想像出来るだろう」
ベネットは、少年の目を見つめた。すると、彼女の目線に気付いたダームは、少しの間を置いてから頷く。
「魔法を使う者は、世界に存在する力を集め、具現化する。この為、自然魔法は一般的であり、体得する者も多い」
この時、彼女の説明を聞いていたダームは、困った様子で目線を泳がせた。
「例えば、お前の村で使った魔法が有るだろ? あれは、自然に存在している水と風の力を使って、竜の形を想像して出来た」
二人のやり取りを横目で眺めていたザウバーは、ベネットを助ける様に説明を始める。
「この場合、自然に存在する力が水と風の力。具現化して出来たのが水竜って訳だ」
しかし、それでも理解するのは難しいらしく、少年は眉間に皺を寄せて黙っていた。
「ダームには、まだ難しいのかも知れねえな。俺も、魔法を発動させる仕組みを理解するまで、結構掛かったし」
ザウバーは、ダームを元気付ける様に笑い、目線をベネットの方へ移した。