青年がしていた後悔

文字数 2,214文字

 「自己紹介がまだだったな。俺の名前はザウバー。ダームとは……一緒に旅をする仲ってところだ」
 そう伝えると、ザウバーは微笑みながらリアンの顔を見つめた。彼の話を聞いたリアンは無言で頷き、ザウバーに微笑み返す。

「最初は、あいつの村が無くなったと思っていた。だから、旅に連れて行くふりをして、ヘイデルの孤児院に預けようと考えていた」
 そこまで話を進めた時、ダームがトイレから席へ向かい始め、それに気付いたザウバーは話すことを止めた。程なくしてダームが席につくと、ザウバーは少年の前にメニュー表を差し出す。
 
「何か食いたいものは有るか?」
 ダームは、ザウバーの問いに少々戸惑った様子を見せるが、何か言うことなくメニュー表を覗き込む。

「リアンさんも、ほら。積もる話も有るだろうし、ゆっくりしていこうぜ?」
 ザウバーは、言いながらリアンにメニュー表を渡し、自分はダームが持つそれを覗き込む。その後、全員の注文が決まり、ザウバーは店員を呼び止めて三人分の注文をした。彼は、注文を終えたことで一息つき、リアンに対して「ダームの故郷について知りたい」と話す。問い掛けられたリアンは暫くの間逡巡し、それから少年の顔を見つめた。
 
「ダーム君には辛い話も有るけど……話して大丈夫?」
 リアンは不安そうな表情を浮かべ、ザウバーの顔を一瞥する。ダームは、リアンの話に驚いた様子を見せたが、直ぐに笑顔になって口を開いた。

「分からない。だけど、何時かは知ることになるから」
 そこまで話すとダームは目を伏せ、膝へ乗せた手に力を込める。

「それにね。話してくれることが辛いことだったとしても、逃げたくは無いんだ」
 ダームは笑顔を作り、リアンの顔を真っ直ぐに見つめた。リアンは、どこかぎこちないダームの笑顔に戸惑いつつも、頷き静かに息を吐き出す。

「分かった。隠しておいても、起きてしまったことは変えられないものね」
 リアンはザウバーの顔を見つめ、それからゆっくり息を吸い込んだ。

「あの事件で生き残ったのは女性や子供、力の弱い者ばかり。男の人達は、子供達を逃がそうと、迷い込んできたドラゴンと戦って」
 リアンは、辛そうに目頭を押さえ、ゆっくりとした呼吸を繰り返す。

「二度と、帰って来ることは無かった」
 ダームは、彼女の話に思わず唇を噛み、強く目を瞑った。その様子を見たリアンはダームの顔を覗き込み、話を止めようかと提案する。
 
「続けて下さい。確かに、亡くなった人が居るのは悲しいし辛いけど……生き残った人が居るなら、それを知りたい。みんながどうやって暮らしているのかも」
 そうリアンに伝えると、ダームは小さく首を傾げてみせる。リアンは、気丈に振る舞うダームを心配しつつも、集落で起きたことについて話していった。途中、従業員が注文された品物を届けにきたが、リアンは一度中断しつつも話を続けていく。
 
 リアンの話によれば「集落は殆ど炭と化したものの、復興を進めている。復興が終わるまでは、近くの村に住み慎ましくも暮らしている。また、亡くなった人達の墓は、集落の在った場所に作られている。知人を亡くしてショックを受けた者も今は落ち着いてきている」とのことだった。
 
 リアンの話を聞いたダームは、時折小さく頷き辛そうに目を瞑ることもあった。一通りの話を終えたところで、リアンは注文した珈琲へ口を付ける。その珈琲の温度は室温と変わらず、それが話の長さを暗示している様でもあった。この際、ダームはリアンへ礼を言い、友達についても聞きたいと伝えた。彼の願いを聞いたリアンは微笑み、静かに頷いてみせる。
 
「だったら、今晩はうちに泊まらない? ダーム君が来れば、フレンも喜ぶと思うし。広くない部屋だけど、子供が一人増えても変わらないもの」
 そう提案すると、リアンはダームの目を見つめて反応を待つ。問い掛けられたダームと言えば、青年を横目で見やり、返す答えを模索する。
 
「折角、誘ってくれたんだ。お前の友達だって心配してたんだろうし、行ってこい」
 ザウバーは、そう話すと少年の肩を軽く叩いた。肩を叩かれたダームと言えば、ザウバーの方へ顔を向け、その表情を確かめようとする。

「俺のことを気にしてんのか? 俺は、適当に宿を探して泊まる。ガキは気を遣わないで、友達と会ってくりゃいいんだよ」
 ザウバーは少年の頭に手を乗せ、そのまま髪を掻き乱した。彼の表情には余裕が浮かび、その表情を見たダームは静かに頷く。

「宜しくお願いします」
 その後、ダームはザウバーと別れ、リアンと共に道を歩いていった。一人になったザウバーと言えば、今晩泊まる場所を探そうと辺りを見回す。彼は、暫く歩いた後で立ち止まり、それから足早に道を進み始めた。そして、小さな武具店の前で立ち止まると、どこか物悲しそうな眼差しで店を眺める。その店は明るくなく、ザウバーの立つ位置からは良く見えなかった。そのせいか、ザウバーは軽く目を細め、小さく溜め息を吐く。
 
「守れる様になりたい……だったか」
 そう呟くと、ザウバーは武具店の横に在る宿へ向かい、一人用の部屋をとる。その後、彼は客室に入ると、ベッドで横になって目を瞑った。ザウバーは直ぐに目を開くと上体を起こし、ベッドに腰を下ろした状態で部屋の中を眺める。そして、目線だけを動かして窓の外を眺めると、目を細めた。

「決めるのは俺じゃねえ」
 ザウバーは、どこか悲しそうに呟き、頭を垂れた。
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登場人物紹介

ダーム・ヴァクストゥーム

 

ファンタジー世界のせいで、理不尽に村を焼かれてなんだかんだで旅立つことになった少年。
山育ちだけにやたらと元気。
子供だからやたらと元気。
食べられる植物にやたらと詳しい野生児。

ザウバー・ゲラードハイト

 
自称インテリ系魔術師の成年。
体力は無い分、魔力は高い。

呪詛耐性も低い。
口は悪いが、悪い奴では無い。
割とブラコン。

ベネット

 

冷静沈着で、あまり感情を表に出さない女性。

光属性の攻撃魔法や回復術を使いこなしている。

OTOという組織に属しており、教会の力が強い街では、一目置かれる存在。

カシル


 HEIGHT:162cm
 WEIGHT:55kg
 HEIR COLOR:Brown
 EYE COLOR:Red


オーマの街で男性を浚い、更にはザウバーまでも僕にした淫魔。
魔力によって他者を操る事を得意とし、外観も魔力によって整えている。
自身で前線に立って戦う事は無く、戦闘能力に乏しい

アーク・シタルカー


ヘイデル警備兵の総司令。

その地位からか、教会関係者にも顔が広い。

魔法や剣術による戦闘能力に長け、回復術も使用する。

基本的に物腰は柔らかく、年下にも敬語を使う。

常にヘイデルの安全を気に掛けており、その為なら自分を犠牲にする事さえ厭わない。

ルキア・ハイター
 
 HEIGHT::169cm
 WEIGHT::56kg
 HEIR COLOR::Brown
 EYE COLOR::Dark Brown
 
ヘイデル教会直属の病院で働く女医。
話し方は無骨だが、若くして院長を務める程の実力者。
アークとは幼なじみの為か、彼へ接する態度からは遠慮が感じられない。

ヴァリス

 

 HEIGHT:185cm
 WEIGHT:67kg
 HEIR COLOR:Black
 EYE COLOR:Purple

 
フェアラでダームを軽々と倒した謎の多い男。
含みの有る話し方をするが、それがどこまで本当かは不明。
自在に姿や硬度を変える使い魔を使役し、人間を追い詰めることを楽しんでいる。

ライチェ

 

 HEIGHT:137cm
 WEIGHT:32kg
 HEIR COLOR:Pink
 EYE COLOR:Scarlet

 
見た目は幼い少女だが、魔族である為に様々な力を持つ。
浮遊したまま素早く移動し、相手に攻撃の隙を与えない。
また、無機物や死者を操る力を有している。
但し、深くものを考えたりするのは苦手の様で、感情が高ぶっている時などは判断力が著しく低下する。

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