旅の再開
文字数 1,597文字
微笑みながら話すと、アークは瞬きの回数が多くなってきた少年の顔を覗き込む。そして、アークはソファーから立ち上がると、空になった皿をバスケットの中へ入れ始めた。
「そうだな。それに、明日も警備の仕事が有るのだろう? だとしたら、早めに休んだ方が良い」
そう言うと、ベネットはアークが始めた片付けを手伝い始める。
「御心配ありがとうございます」
アークは、今までに見せた事の無い笑顔を浮かべ、頭を下げた。そして、テーブルの上を綺麗に片付けると、バスケットの蓋を閉めて帰る支度を始める。
「ダーム、そろそろ宿舎に帰りましょう。ザウバーも、警備兵用の宿舎で宜しければ部屋を用意致します」
そう問い掛けると、アークはダームとザウバーの顔を交互に見、大きな方のバスケットを持ち上げる。
「うん、わかった。じゃあ、僕はこっちを持って行くね」
ダームは、スープが入っていたバスケットを勢い良く持ち上げた。そして、彼はアークの目を見つめると、誇らしげな笑顔を浮かべた。
「ありがとうございます。いつの間にかダームは、頼もしさや逞しさを手に入れていた様ですね」
少年の元気な声を聞いたアークは、嬉しそうに目を細めた。一方、ダームはいきなり発せられた誉め言葉に驚いたのか、目を丸くしてアークの顔を見た。
「そのバスケットは結構大きくて持ちにくい筈なのに、随分軽そうに持ち上げている。そう思ったものですから」
アークは少年の瞳を見つめたまま、軽く片目を瞑った。彼の話を聞いたダームは照れくさそうに笑い、目線を上方へ逸らす。そんな少年の様子を見たアークは再び目を開き、目線をザウバーの方へ移した。
「ところで、ザウバーはこれからどうしますか? 私達と共に来ますか? それとも、今から宿を探しますか?」
問い掛けられたザウバーは、少しの間考えた後、彼と共に警備兵の宿舎へ行く事を望んだ。この為、今まで賑やかだった部屋は急に静かになり、その反動のせいかベネットは大きな溜め息を吐く。
その後、ベネットは部屋の中を見回し、ベッドサイドに置かれた荷物を見つめる。彼女は、その荷物を手に取って、先程まで座っていたソファーに腰を下ろす。
「聖霊の居場所、か」
ベネットは、荷物を持ったまま呟くと、アークに渡された地図をそっと取り出す。そして、一度大きく息を吐き出すと、眼前に有るテーブルに地図を広げた。
ベネットは、暫くの間その地図を眺めた後、地図に付けられた赤い印を指でなぞっていく。付けられていた印を全てなぞった後で、ベネットは大きな溜め息を吐いた。
そして、ゆっくりとした呼吸を数回行うと、眼前に広げられた地図を畳んだ。その後、ベネットは呟く様に声を漏らすと、 先程畳んだ地図を元の場所へ戻した。その後、彼女は静かに窓の側へ向かい、すっかり暗くなった外の様子を眺める。
「力を高める宝玉か」
ベネットは胸元からペンダントを引き出し、その先に付けられた飾りを月明かりへ晒した。その飾りは月の光を受けて輝き、その銀光は徐々に強さを増していく。彼女は光を見つめてからペンダントをしまい、ベッドへ向かっていった。
夜が明け、太陽が南の空へ移動した頃、ダームとザウバーは他愛無い話を交わしながらベネットの滞在する部屋に向かって歩いていた。
目的とする部屋の前まで来ると、二人は顔を見合わせて部屋のドアを軽く叩く。すると、その部屋の中からベネットの返事がし、程なくして彼女はドアを開けて現れた。その手には旅に必要な地図や食料が握られており、その体には外套がしっかりと巻かれていた。
「昨日のうちに装備を揃えたことだし、そろそろ出発するか」
「そうだな。アークやルキアへの挨拶も済ませてあるし、出発するとしよう」
青年の言葉を聞いたベネットは、自らの意見を述べながら頷き、三人はヘイデルの街を出発する。