第20話 Still Standing on the Ice

文字数 682文字

 初めて朝霞(あさか)先生に会った時のこと。

 まだ俺がスケートを始める前。
 汐音(しおん)の付き添いで、リンクサイドに座って算数の宿題をやっていた。

「君はスケートやらないの?」
「やりません。俺、変な衣装着て踊るの、誰にも見られたくないんで」
 生意気な俺に、先生はあははと笑った。

「カッコいいの着ればいいじゃない。それにね、君みたいな子は一番向いてるのよ」

、みたいな?」

 

、じゃなくて?
 先生は力強く肯いた。

「他人にどう見られるかを気にする子は、一番向いてるの。フィギュアスケートは、見られて成り立つ競技だから。……汐音ちゃんは、そこの所ピンと来ないみたい。楽しければいいって。それはそれで大事なことなんだけどね」

「……でも、俺がスケートやったら、汐音とそっくりな部分がまた増える」

 先生は少し考え込むような表情を浮かべた後、強い視線を向けた。

「増えるかもしれないし、増えないかもしれない。やってみなきゃ、分からないわよ」

 そんなことを言われたのは初めてだった。

 そして、やってみたら俺は汐音とは全然違っていたんだ。
 何から何までそっくりだった俺達。
 二卵性なのに、顔まで合わせ鏡のように瓜二つで。
 服さえ替えれば入れ替われると、本気で思っていた。

 でも、スケートだけは違った。
 スケートに(まつ)わる一切が、俺は汐音と違っていたんだ。

 氷上で目まぐるしく更新されていく自分の姿。
 その視座から見える景色。
 全てが新鮮で、楽しかった。

 ……それを、言えばよかった。
 好きだなんて衝動を口にするんじゃなくて。

 初めてスケート靴を履いて氷上に立った日。
 あれは、俺の二度目のバースデーだ。
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登場人物紹介

芝浦刀麻(しばうら とうま)


・榛名学院高等部一年。15歳。スケート部所属。

・北海道帯広市出身のフィギュアスケートとスピードスケートの二刀流スケーター。

・スピードスケート選手の父とフィギュアスケート選手の母のもとに生まれる。

・高校一年生の5月に榛名学院高等部に転校してくる。

・小学生の頃は野辺山合宿に参加するなど優れたフィギュア選手として頭角を表していたが、とある事件の後フィギュアをやめ、中学時はスピードスケート選手として500mの道内記録を塗り替え、全国大会二位の成績を収める。

・今作は、彼が再びフィギュアの世界に戻ってきたところから物語が始まります。

・12月8日生まれ、射手座のO型。

・身長178cm。

・得意技は四回転サルコウ、ハイドロブレーディング。苦手な技は特に無し。氷上は全て彼の領域。

霧崎洵(きりさき じゅん)


・榛名学院高等部一年。15歳。スケート部所属。

・全日本ジュニア選手権2位、世界ジュニア選手権3位と、昨シーズン破竹の勢いで頭角を表したフィギュアスケーター。

・学業優秀、スポーツ万能。そんな彼が唯一苦手とするのが“スケート”……その真相とは。

・双子の妹、汐音(しおん)はかつて史上最年少でトリプルアクセルを成功させた天才フィギュアスケート選手だった。

・出会った時から刀麻に反発し、初日にいきなり殴り合いの喧嘩をすることに。何が原因で、どんな経緯があったのか……?

・今作は刀麻と洵の愛憎を軸に物語が進みます。

・11月25日生まれ。射手座のAB型。

・身長167cm。

・得意技は三回転フリップ+三回転トウループのコンビネーションジャンプと、柔軟性を生かしたビールマンスピン。苦手な技はトリプルアクセル。

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