第2話 アイスホッケーは嫌い

文字数 773文字

 でも、そんなシバちゃんにも、氷の上でもふぬけになる時がある。

 今がちょうどそうだ。

 僕たちは今体育の授業中で、校庭のリンクでアイスホッケーをしている。
 女子は向こうの大きなリンクの真ん中を使ってフィギュアスケートをやっている。
 いっそのことあっちに参加すれば、シバちゃんはモテまくりなのにな。
 得意のトリプルアクセルなんかも余裕で決めちゃったりしてさ。

 ホッケー部の奴がパスを出したのと、シバちゃんがそれをえぐい角度でヒットして、僕らの頭上をパックが飛んでいったのはほぼ同時だった。

 皆、反射的に思いっきり首をすくめていた。
 後ろの半分凍っている雪山にパックがぶつかって、ごん、と鈍い音がした。
 先生が見学中でも絶対にヘルメットを脱ぐなと言っていた意味が心底理解できる。
 冷や汗がじわりと湧くのを感じた。

「……もう芝浦いい、出れ。このままだと怪我人が出る。荻島(おぎしま)、芝浦と交代」

 濱田(はまだ)先生が呆れ顔で言い、僕は急に名前を呼ばれて慌てて返事をし、靴のエッジカバーを外した。
 シバちゃんはしょぼくれた表情でリンクの外に出てきた。

「……出た、氷神による殺人未遂」
「たたりじゃ~、おっかね~」
「うるせえよ」
 シバちゃんはからかってくる奴らを手袋で順番にはたき、そして僕にスティックを押しつけるように手渡して言った。

「……オギちゃん、俺ホッケー嫌い」
 唇を尖らせるシバちゃんがいつになく子供っぽかったので、僕は苦笑した。

「分かるよ。僕も苦手」
 そして軽くグータッチを交わして、僕はリンクに滑り出した。

 それにしても、アイスホッケーの靴は何度履いても慣れないな。
 ダッシュの時なんか、ブレードが短いからつんのめりそうになる。
 最近やっと覚えたエッジを使うブレーキで、何とか足を踏ん張って止まった。

 靴が違うと使う筋肉も全然違う。
 当たり前のことを思い知る瞬間だ。
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登場人物紹介

芝浦刀麻(しばうら とうま)


・榛名学院高等部一年。15歳。スケート部所属。

・北海道帯広市出身のフィギュアスケートとスピードスケートの二刀流スケーター。

・スピードスケート選手の父とフィギュアスケート選手の母のもとに生まれる。

・高校一年生の5月に榛名学院高等部に転校してくる。

・小学生の頃は野辺山合宿に参加するなど優れたフィギュア選手として頭角を表していたが、とある事件の後フィギュアをやめ、中学時はスピードスケート選手として500mの道内記録を塗り替え、全国大会二位の成績を収める。

・今作は、彼が再びフィギュアの世界に戻ってきたところから物語が始まります。

・12月8日生まれ、射手座のO型。

・身長178cm。

・得意技は四回転サルコウ、ハイドロブレーディング。苦手な技は特に無し。氷上は全て彼の領域。

霧崎洵(きりさき じゅん)


・榛名学院高等部一年。15歳。スケート部所属。

・全日本ジュニア選手権2位、世界ジュニア選手権3位と、昨シーズン破竹の勢いで頭角を表したフィギュアスケーター。

・学業優秀、スポーツ万能。そんな彼が唯一苦手とするのが“スケート”……その真相とは。

・双子の妹、汐音(しおん)はかつて史上最年少でトリプルアクセルを成功させた天才フィギュアスケート選手だった。

・出会った時から刀麻に反発し、初日にいきなり殴り合いの喧嘩をすることに。何が原因で、どんな経緯があったのか……?

・今作は刀麻と洵の愛憎を軸に物語が進みます。

・11月25日生まれ。射手座のAB型。

・身長167cm。

・得意技は三回転フリップ+三回転トウループのコンビネーションジャンプと、柔軟性を生かしたビールマンスピン。苦手な技はトリプルアクセル。

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